

1.日韓葛藤の解決法のための言論の役割
12月4日、韓国のソウルで、韓国言論振興財団(KPF)が、「日韓葛藤の解決法のための言論の役割」をテーマに「KPFフォーラム」を開催しました。
この韓国言論振興財団は、新聞など従来の言論産業がデジタル化による変革に適応し新しい言論媒体に発展することを目的に2009年12月に設立された団体です。
母体は既存の3団体新聞発展委員会、韓国言論財団、新聞流通院で、文化体育観光部傘下の基金管理型準政府機関です。
フォーラムは、両国のマスコミの報道を振り返り、未来志向の関係を築くためのメディアの役割を模索するなどとしていますけれども、韓国の準政府機関であることを考えると政府の肝入りの面もなしとはいえません。
参加者は、メディア関係者のうち、韓国に駐在する日本の特派員、国内の報道機関の日本専門記者、国際・外交担当のテスクレベルの人を対象にしたそうなのですけれども、討論のパネラーには、元共同通信記者の青木理氏、東京新聞の望月衣塑子記者、朝日新聞の神谷毅ソウル支局長、読売新聞の豊浦潤一ソウル支局長、独紙フランクフルター・アルゲマイネのパトリック・ウェルター東京特派員、東亜日報の徐永娥東京支局長といった面々。
けれども、日本側の左偏重と思える人選と、主催が韓国の純政府機関であることを考えると、「為になる議論」というより「為にする議論」だったのではないのかという疑問が拭えません。
フォーラムは、韓国・協成大のパク・ヨンフム教授と東京都市大の李洪千准教授が両国マスコミの報道を分析した内容を発表し、討論へ続きました。
東京都市大の李洪千准教授は、日本のメディア報道について「日本のワイドショーで扱う韓国関連の放送が日本国内イシューよりもさらに注目されている……」とし、その事例として「チョ・グク・スキャンダル報道」を挙げました。
李教授は「日本でスキャンダルで退いた日本の法相の名前は知らなくても韓国のチョ・グク法務長官の名前は記憶しているという現象が見られる」と説明し、日本放送データ(M data)を調査した結果、韓国政府がGSOMIA終了猶予を発表した翌日の23日午前の放送でGSOMIA関連の放送量は1時間19分と、安倍総理の「桜を見る会」スキャンダル放送の27分52秒と比べてかなり長いと報告しました。
データを使っての論証はそれはそれで尊重すべきものだとは思いますけれども、こと日本の世論を探るという意味ではテレビ報道の時間だけで云々を語るのはどうか、という気もします。
というのも日本のテレビが流す内容と実際の世論には少なからず乖離があると思われるからです。日本のテレビではともすれば、アベガーと政権批判ばかりで、いまにも倒れそうな報道をしているのに、選挙という民意ではそうはなっていません。一説には世論はテレビ・新聞とネットの間くらいだという意見もあります。筆者もその辺りが正解なのではないかと思います。
2.アベガーや日本が悪い論は解決策ではない
また、討論では、パトリック・ベルター東京特派員が「日韓間の葛藤は両国の政治家が解決しなければいけない問題だ。両国メディアの役割は制限的だ……両国のメディアの報道を見ると、主に自国政府の視点だけを反映している……そのうちに両国ともに民族主義・愛国主義の様相を見せるが、こうした問題を解決するにはファクト中心の中立的な報道をする必要がある」と指摘。
ジャーナリストの青木埋元共同通信記者は「年金問題など日本社会は全体的に厳しい状況だが、韓国のニュースは本当に韓国ドラマを見るようにおもしろいという反応がある……朝鮮半島と在日韓国人に対する戦後の加害者意識が2002年の日朝首脳会談で拉致被害者フレームに変わり始めた……こうした雰囲気が嫌韓論、ヘイトスピーチなどにつながって雰囲気が高まった側面がある」と述べました。
東京新聞の望月衣塑子記者は「北朝鮮がミサイル発射を続けると『北朝鮮に圧力を加え続けるべき』と言っていた2年前の日本政府の姿と、韓国に全面的に責任があるという現在の立場は非常に似ている」とここでも安倍政権批判を繰り広げました。
ただ、この青木、望月両氏および神谷氏のコメントは、つまるところ、日本の世論や政府が悪い論に留まっており、そこには、フォーラムのテーマである"マスコミが果たす役割"については触れられていません。無論、他のコメントで触れているのかもしれませんけれども、記事になってないということは、それ程、主張していた訳ではなかったのではないかと思われます。
そこへいくと、朝日の神谷氏と読売の豊浦氏はちゃんとマスコミの姿勢について述べています。
朝日の神谷氏は「記者らが現場で反省すべき部分もある……たとえば両国の言語は漢字語が多く似ているが、意味が異なる場合もある。もう少し慎重に扱う必要がある……7月1日に日本政府が韓国に対する輸出規制強化措置を取ると、韓国で『事実上の禁輸措置』という報道があったが、実際には禁輸ではなかった……このような拡大解釈が広まり、世論を悪化させる側面もある」と指摘していますし、読売新聞の豊浦氏は「韓国の報道番組を見ると、1965年の日韓請求権協定、2015年の慰安婦合意など基本的な背景となる事項について詳しく説明をしない傾向がある……こうした部分は日本の放送を参考にする部分もある」と苦言を呈しています。
その意味では、青木、望月氏よりも、神谷、豊浦氏のほうがよりフォーラムのテーマに即した発言をしたといえるかもしれません。
3.またいつもの反日か
11月16~18日、AERAは韓国の中堅経済紙「亜洲経済」が、共同アンケートを行いました。
アンケートは街頭などで調査員が対面して回答を記入する方式で、調査側は「電話やネット上の調査ではなく対面式で実施したため、個人の本音に近い回答を丁寧にくみ取ることができた」とコメントしています。
アンケート結果ですけれども、日本側で「韓国は好きですか、嫌いですか」との質問にあ、「好き」と答えたのは36人、「嫌い」は20人、「どちらでもない」は60人。
「どちらでもない」を選んだ理由には、「韓国という国がやっていることは好きではないが、普通に生活している韓国人のことは嫌いではない」「好きなほうに近いが、慰安婦問題など日本を悪く報道している面もあり……」など国や報道の影響をうかがわせる回答がありました。
「好き」な理由としては、「K‐POPが好き」「食べ物がおいしい」といった声が幅広い世代であがり、「自力で民主化を勝ち取った」「人との関係性の濃さや議論する文化、批判精神など、日本人や日本の社会に足りないものをもっている」との意見もありました。
一方、「嫌い」な理由としては「事大主義、嘘つき」「国と国との約束を無視している」など政治問題に絡む不満が目立ち、特に60歳以上では、29人中、「好き」と答えたのは3人にとどまりました。
中でも、注目すべきは「韓国の印象がこの半年以内で変わりましたか」との質問への回答です。「いいえ」と回答したのが76人で、「はい」と答えた24人の3倍超に上った点です。
「いいえ」の理由は、「韓国内で内政が緊迫すると、国民の支持を得るために反日行動、言動に出るのはテンプレート化している」とじゃ「両国の対立は国の一部の人間によって起きたもので、メディアが扇動したにすぎない」といった意見がありました。
一方、半年以内で印象が変わった理由は、「文大統領の日本への態度」など文政権への不信感を示す意見が並んだそうです。
調査を行った[国民投票/住民投票]情報室の今井一事務局長は、「市民は冷静だと感じました。ただ、理性的な判断を保ちメディアに左右されない人もいれば、日韓問題そのものに関心がない人も含まれると思います」と述べていますけれども、筆者には冷静というのは結果であって、その前提として「韓国という国」を既に知っている人がそれだけいるがゆえに「またいつもの反日か」という具合に特段目くじらも立てないようになっているからではないかと感じますね。
勿論、今井氏が指摘するように、日韓問題そのものに関心がない人もいるとは思いますけれども、それは、関心を持たなくても実生活に影響がないからで、実生活に影響がおよぶ事態ともなれば、また違ってくるかもしれません。
4.日本の本音を目の当たりにして困惑する韓国
一方、韓国側の調査は、「亜洲経済」の記者10人が10月29日から11月5日にかけてソウルで対面で実施したのですけれども、「日本は好きですか、嫌いですか」との質問に、「好き」と答えたのは15人、「嫌い」は34人、「どちらでもない」は51人。
「好き」な理由は、「アニメーションが好き」「公衆道徳をよく守っている」「経済大国」といったもので、「嫌い」な理由は「壬辰倭乱(文禄・慶長の役)」、「安倍晋三首相」、「歴史を反省していない」などが多かったそうで、これらは学校教育の影響が少なからずあるのではないかと思います。
調査を指揮した亜洲経済は「メディアの影響だ」と述べ、「韓国メディアで、安倍首相を是々非々で論じる社はひとつもない。何をやっても批判する。2015年に韓日慰安婦合意を達成したときも、韓国メディアは安倍氏を評価しなかった」と指摘。韓国では「安倍氏を悪者にしないと、自分たちが批判される」という強迫観念があると述べています。
また、「どちらでもない」と答えた人が51人もいたことについては、「日韓関係が好転すれば、好きだと答えるようになる人々だ」とし、韓国では、公の場で日本を支持することをためらう空気があり、こうした調査では「嫌いだ」とはっきり答える風潮があると述べています。
また、この6カ月間で日本に対するイメージが変わったと答えた人も43人いたそうで、過去、何度かの日韓対立と比べても、今回ほど日本が強硬な態度を取ったことはなかったことが、韓国側では驚きを持って捉えられ、それが、今回の調査で世代を超えた日本への批判の声につながったとしています。
総じて、日本では韓国の実態が割と知られているのに対し、韓国は日本の本音というか、そうしたものに直面して困惑している様子が窺えます。
先日、日本経済新聞社の世論調査で、日本政府の韓国に対する対応について「日本が譲歩するぐらいなら関係改善を急ぐ必要はない」が69%になっていることから分かるとおり、今の日本政府の姿勢は日本国民から支持されています。
冒頭で韓国言論振興財団(KPF)が、「日韓葛藤の解決法のための言論の役割」をテーマにフォーラムを行ったことを取り上げましたけれども、対立解消の為にメディアが何をするかという目線はともすれば、世論誘導、世論操作に繋がる危険を秘めています。
もはや、日本人の多くは韓国という国の実態を知ってしまっているが故に、日本のマスコミが韓国上げの報道をしようがしまいが、それに流される段階では無くなっていると感じます。ある意味、マスコミのいうことなどまともに受け取らず、流してしまっている状態に近いのではないかとさえ思います。
ネットでのまとめサイトなどを見ても、マスコミ報道について、ツッコミや批判が加えられる時代です。報道したとおりに視聴者や読者が受け取って貰えるとは限らないのですね。その反面、優れた取材や論考については一定の評価が与えられています。ネットという双方向メディアでは、情報量と参加人数の多さから、一つの情報も色んな角度から見られることで直ぐに相対化されてしまうからだと思うのですね。
ですから、日韓のメディアは自分達が世論をどうこうとかいう前に、正しい報道を重ねていくことで、まずは自分達の信頼回復に努めるのが先ではないかと思いますね。
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