

1.記憶・和解・未来財団法案提出
12月18日、韓国の文喜相国会議長は元徴用工訴訟の解決をめざす法案を提出しました。
発議した法案は「記憶・和解・未来財団法案」制定案と強制徴用被害調査に向けた「対日抗争期強制動員被害調査と国外強制動員犠牲者などの支援に関する特別法」改定案の二つです。
「記憶・和解・未来財団法案」制定案は、日韓両国企業と国民が自発的に出した寄付で財団を設立し、その裁判所が認めた元徴用工や、韓国政府が認めた元軍人ら「強制動員被害者」に慰謝料を支給する内容で、いわゆる「1+1+α」と呼ばれていたものです。この「記憶・和解・未来財団法案」には企業や個人の寄付を強要しない方針が盛り込まれています。
また、慰謝料支給に関しては「債権者の意思に反しない第三者の任意弁済とみなす」と明記されたことで、受給者は裁判による企業への請求権を放棄したとみなされ、係争中の訴訟は取り下げとなりますけれども、基金や支給対象の規模は明示していません。
当初、慰謝料の支給対象は、韓国の裁判で勝訴した「元徴用工」だったのですけれども、法案ではいつの間にか、新たに旧日本軍の軍人や軍属まで追加され、さらに元徴用工が「慰謝料」を受け取るかは自由となっています。
韓国メディアによると、韓国政府が公式に認めた被害者だけで約22万人、軍人は約3万人、軍属は約3万人いるとされています。一体どれだけ金が掛かるのか分かったものではありません。

2.法案に反対する原告団
文議長は提案理由を「悪化の一途をたどる日韓関係が、過去を直視すると同時に未来を志向する関係になる契機となることを望む」と説明していますけれども、法案の成立の見通しは明らかではありません。
法案には文議長のほか、13人の与野党議員が共同提出者として名を連ねたものの、賛同者集めは法案提出直前まで難航。与党内からは今後も、法案成立への慎重論が出る可能性もあります。
実際、法案には原告を支援する団体が反対の意思を示しています。
18日、原告の弁護団は法案提出を受けて「加害者の事実認定と被害者への謝罪が必要だ。『寄付金』という言葉は加害者の責任を免罪している」と反発する談話を出し、成立阻止をめざすと表明。法案が日本の責任を曖昧にしている点を問題視しています。
また、19日午前には、韓国国会前に、原告を支援している市民団体のメンバーおよそ20人が集まり、文議長と法案を共同提出した与野党の議員13人の顔写真に黒い水をかけて「歴史の汚点だ……法案を撤回しろ」と批判の声を上げています。
更に、韓国各地では革新系市民団体が反対集会を開いたり、国会議員に抗議のファクスを送信したりする活動を展開していて、一部の団体は賛同議員の落選運動を推進するとも明らかにしているようです。
3.韓国政府も法案に否定的
そもそも、共同提出者を集めるのに難航するほどの法案です。こうした韓国世論の中での法案審議がすんなりいくとも思えませんし、仮に成立しても、法案で「慰謝料受け取り自由」となっている以上、肝心の原告側が反発して、慰謝料を受け取らないケースも考えられます。勿論、企業資産が売却される可能性が消える事もなく完全解決とはなりません。
其れ以前に、韓国政府自身が法案を推進するどころか否定的です。
20日、韓国大統領府の高官は法案について「被告の日本企業が出資しなかった場合、問題解決につながらない可能性がある……政府が最も重視してきたのは、最高裁判決を尊重することだ」と述べました。
政府関係者によると、原告を説得する作業はしておらず、文在寅大統領も「判決を尊重する」との立場を変えていないようです。これについて、来年4月の総選挙を控え、政権の支持基盤となる革新勢力が反対する法案に関与する姿勢は見せられないという指摘もあります。
法案についてジャーナリストの室谷克実氏は「韓国国内でも被害者団体が反発しているうえ、文議長1人が頑張っている印象を受ける。仮に、法律が成立して、日本企業が寄付した場合、日本側の株主から株主代表訴訟などを起こされる事態も当然予想される。実現性に乏しく、発議させても可決される見通しはないのではないか。日韓首脳会談前に、文議長が自らを大物に見せたいという意図もあるかもしれない。ごまかしの弥縫策であり、茶番にすぎない」と斬って捨てています。
まぁ、要するに不安だらけ、穴だらけの法案だということです。
4.何を約束してもひっくり返る
一方、日本はというと、法案に冷たい視線を送っています。
19日、日本商工会議所の三村明夫会頭は記者会見で、法案について、1965年の日韓請求権協定の有効性を担保するかを巡り「韓国政府の意向が示されていない」と指摘。「賛成できない」と明言していましたけれども、韓国政府が、日本企業が出資しなければ解決にならないと明言し、日韓請求権協定違反を放置すると宣言した「訳ですから、「賛成できない」どころか「拒否する」の一択しかありません。
それ以前にたとえ法案が成立したとしても、それが守られる保証すらありません。
12月18日、自民党の岸田政調会長は、TBSのニュース番組に出演し、「慰安婦問題における財団を勝手に解散した国が、今度新たな財団を作るという提案をする。どこまで説得力があるんだろうなと」と、文在寅政権が当時の慰安婦合意に反する対応を取っていると指摘。続けて「今後、何を約束してもひっくり返る可能性が出てきてしまう」として、韓国は強制徴用問題が「完全かつ最終的に解決済み」となった日韓請求権協定を順守すべきと強調しました。
これはこれで正論ですし、その通りなのですけれども、岸田政調会長は、その当時、「日韓慰安婦合意」の当事者です。何を約束してもひっくり返る可能性云々と他人事みたいなコメントではなく、当事者として、韓国の合意破りを批判すべきではないかと思います。ちょっと穏やかに過ぎますね。
更にいえば、岸田政調会長は「日韓慰安婦合意」の半年ほど前の7月に、長崎県の軍艦島など明治日本のの産業革命遺産をユネスコの「世界遺産登録」として登録する際、外相として韓国と交渉にあたっています。
交渉で、岸田外相は「徴用工」をめぐる表現について、"徴用"にあたる部分を「forced to work」と表現することで合意したのですけれども、「forced to work」という表現は「強制労働」を想起させる言い回しであり、当時、大問題となりました。
まぁ、それらの経験もあっての「何を約束してもひっくり返る」発言だったかもしれませんけれども、この程度の表現では韓国は舐めて掛かってくるような気がします。
安倍総理の次の総理とも目されている岸田政調会長。筆者としては、もう少し「押し出し」が欲しいところですね。
この記事へのコメント