

1.日韓首脳会談の手土産
12月20日、経済産業省は韓国向け輸出管理を適正化していた半導体材料3品目のうち、感光剤「レジスト」について、輸出審査・承認方式を従来の「個別許可」から「特定包括許可」に変更すると明らかにしました。
「レジスト」は、特定の日本企業から特定の韓国企業へ輸出されていたのですけれども、「個別許可」方式では毎回、同じ内容の申請を繰り返し行わなければなりませんでした。これを今回の見直しで「特定包括許可」に変更し、最大3年分を一括して許可申請することを認めることとなりました。
経産省は、輸出入の社名は非公表としています。
ただ、韓国の産業通商資源部によると、今回の日本側の発表により特定包括許可の適用対象となった国内企業はわずか1社で、フォトレジスト個別許可実績は6件とのことですから、韓国側の企業というのは恐らくサムソンだろうと思われます。
経産省は、残りの2品目である、フッ化ポリイミド、フッ化水素については、現状の管理を維持するとしています。
経産省は見直しの理由を「両社間の輸出実績が積み上がったため」としていますけれども、わずか6件の個別許可で実績が積み上がったと判断できるのか。
※12/21追記:包括許可取扱要領 5 特定包括許可の申請手続/(5)継続的な取引関係等について/① 輸入者又は取引の相手方についてに
「a)許可申請日前1年以内のいずれかの月の初日を期間の初日とする1年間に、貨物の輸出にあっては同一の輸入者向けの輸出許可取得件数が6件以上、役務取引にあっては同一の取引の相手方への技術提供に係る役務取引許可取得件数が3件以上であるもの又はこれらであることが見込まれるもの」
と規定されていますので、規定通りに見直ししたということのようです。
今回のレジストの輸出審査見直し措置について、経産省は首脳会談とは「一切関係ない」としていますし、純粋に事務的手続き上の判断だったのかもしれませんけれども、発表のタイミングをみれば、外交メッセージ的には、首脳会談前の手土産と見られることは確実です。
実際、外務省の幹部は、首脳会談にいい影響があるのではないかとの見解を示しているようです。筆者はいい影響なんかないと見ていますけども。
2.レジストはそれほど重要な品目ではない
けれども、韓国側はレジストという手土産では御不満のようです。
産業通商資源部の李浩鉉・貿易政策官は「輸出規制3大品目のうちフォトレジスト1品目にだけ該当する措置であるうえ、特定包括許可に該当する国内企業は1社にすぎない……7月1日の輸出規制以前に戻ることを望む我々の立場としては十分でない」と不平を漏らしています。
実際、韓国半導体業界の関係者は「フォトレジストはメモリー半導体生産段階でほとんど使わないため大きな意味があるとは考えにくい」とか、「フォトレジストは必要量が多くないうえ、ベルギーの合弁会社からの迂回輸入も可能……ただ、日本はひとまず大きな影響がない素材から問題を解決しようとしているようだ」とコメントしているように、半導体生産についてはほとんど大勢に影響ないようです。
今回のレジスト輸出管理見直しについて、一部では韓国に妥協したのか、と批判する声も上がっているようですけれども、仮に、見直しが24日の日韓首脳会談の手土産だったとして、その狙いは何処にあるのか。
3.非は韓国にある
一つ考えられることがあるとすれば、韓国に対する手土産であると同時に世界に対するアピールでもあるのではないかということです。
日本が妥協とも見える管理見直しカードを切ってみせることで、世界に日本は対話を通じて解決する意思があるのだとアピールする。実態は殆ど意味のないものであるとしても、世界はそんな細かい内情など分かりませんからね。日本が手土産を用意した、という事実を見せつけることに意味があるということです。無論、輸出管理適正化が韓国への報復ではないというこれまでの日本の主張を証明するものでもあります。
日韓首脳会談直前の週末というタイミングで、管理見直しという"手土産"カードを切った。韓国がその土産を受け取り、返しの見上げを用意するか否かを表明するのは、土日を省くと月曜日の1日しかありません。
もし、韓国が日本の手土産の受け取りを拒否し、手ぶらで首脳会談に臨むようであれば、世界は韓国を解決する意思がないのだと受け取るでしょう。非は韓国にあると見做されることになります。
その観点からみれば、「レジスト」という日本にとって痛くないカードで、韓国に責任を押し付ける事が出来るのなら、安いものだと思います。
もしも、経産省がこういう事まで予測、計算した上で「レジスト」を輸出管理3品目に混ぜていたとしたら、相当なキレ者が省内にいるのではないかと思います。
いずれにしても、ホワイト国除外の撤回だと叫んでいた韓国は、日本に先手を打たれる形でボールを渡されました。このボールを握りつぶすのか、投げ返すのか。韓国政府がどういう答えを返してくるのか。要注目ですね。
この記事へのコメント
さんさん
日本とイランが首脳会談に臨んだ事も、考慮する必要が有るんじゃ無いでしょうか。今回の日本とイランの首脳会談には米国政府要人も加わったとの情報が有り、米国は韓国から横流しされたフッ化水素関連の物資が、何に使われたか掌握したでしょう。ですので今回の輸出一部緩和措置に米国の意向も加わってると思うのが自然だと思われます。