

1.中国が様々な手法で介入してきている
11月22日、台湾の呉外相は海外メディアと記者会見し、来年1月11日に迫る次期総統選に向け、「中国が様々な手法で介入してきている」と述べました。
呉外相は中国が「軍事的な威嚇や国際社会からの締め出し、フェイクニュースなど様々な手段で選挙に介入している」と述べ、民進党が対中融和路線の最大野党・国民党に大敗した18年11月の統一地方選では「中国の介入が成功した」と指摘しました。
2020年1月の台湾の次期総統選には現職の蔡英文総統の他、対中融和路線の最大野党・国民党の韓国瑜・高雄市長、小政党である親民党の宋楚瑜主席が立候補しています。
情勢は事実上、蔡英文総統と韓国瑜氏との一騎打ちの様相で、大手民放のTVBSが11月27~29日に実施した最新世論調査によると、蔡氏の支持率は46%と、韓氏の31%を15ポイントもリード。再選が有力視されています。
けれども、これは最初からそうだった訳ではありません。
2.対中警戒感の高まり
今年2月時点では、韓氏の方が蔡英文総統に20ポイント以上差を付けていました。夏頃までは支持率で蔡氏を上回っていたのですけれども、今や勢いを完全に失っています。
その最大の要因と言われているのが、香港の抗議活動を切っ掛けとした対中警戒感の高まりです。
今年1月、中国の習近平・国家主席は演説で、高度な自治を認める「一国二制度」を用いて台湾を統一する意欲を表明していたのですけれども、蔡総統は、一国二制度は「台湾の絶対的多数の民意が断固として反対しており、コンセンサスだ……圧力や威嚇を用いて台湾人民を屈服させる企てであってはならない」と拒否していたのですね。
けれども、この時点では、対中融和路線の韓氏に支持が集まるなど、それ程の警戒感はありませんでした。けれども、夏頃の香港での抗議活動が流れを変えました。
「一国二制度」を謳っている香港で「逃亡犯条例」改正案を巡る抗議運動と警官隊との衝突が激化し「中国と接近すれば香港の二の舞いになる」との市民の危機感が強まりました。中国が「一国二制度」だと口で言ったところで、香港の現実がそれが嘘であることを明らかにした訳です。
これにより、蔡総統は香港問題で中国への警戒感を高める台湾の有権者から改めて評価されるとともに、米中摩擦で中国から台湾に生産拠点を移す企業が増え、台湾経済を支えていることも、蔡氏支持を後押ししているようです。
勿論、中国も指を加えて見ていることはありません。冒頭で取り上げた呉外相の記者会見でのコメントにあるように、次期総統選に向け「中国が様々な手法で介入してきている」ような状況です。
では、その様々な手法とはなにかというと、11月末に与党民進党が提起した「反浸透法案」にそのヒントがあります。
3.反浸透法案
11月下旬、オーストラリアに亡命申請した中国の元工作員を名乗る男性が、昨年の統一地方選で国民党を支援するため、ネットの世論を誘導する「網軍」を編成したほか、2000万人民元(約3億円)を国民党の候補者に迂回献金したとオーストラリアメディアに証言したことが報じられました。
また、12月3日、台北地方法院は、退役軍人の団体が2008~2012年に、中国の国政助言機関、人民政治協商会議の委員を務める香港企業の役員らから献金約1000万台湾元(約3560万円)を受け取り、2008年と2012年の総裁選で、国民党の馬英九氏への投票を呼びかける新聞広告を掲載していたとして、政治献金法違反罪などで、当時の団体会長の元陸軍中将に懲役2年6月の有罪判決を下しています。
こうした事態を受け、中国からの政治介入への罰則を強化する為に民進党の立法委員団が提出したのが「反浸透法案」です。
この法案は、敵対勢力からの指示や資金援助を背景に選挙活動、政治献金、フェイクニュースの拡散などを実施した場合、5年以下の懲役などが科されるもので、民進党は年内にも同法を成立させる構えでいます。
国民党は「既存の法律に屋上屋を架すもので、政治操作だ」、「反中色の強い新法は再選に向けたアピールだ」と批判していますけれども、既存の法律で中国の介入を防げなかったとするならば、新法を作ってそれを抑えようとするのはごく自然のことです。
4.中国の静かなる侵略
また、台湾以外でもこうした中国による選挙介入を阻止しようという動きが出てきています。ニュージーランドとオーストラリアです。
12月3日、ニュージーランド議会は、改正選挙法を可決しました。この改正法は政党や候補者が外国人から50NZドル(約3500円)を超える献金を受け取ることを禁じるものです。
この改正法の発端は2018年に最大野党・国民党で起きた献金スキャンダルです。国民党が中国系実業家から多額の現金を受け取った疑惑が持たれたのですね。国民党党首は献金スキャンダルを否定したのですけれども、中国の干渉の懸念はくすぶり、今回の改正法へと動きました。
リトル法相は「外国による選挙介入のリスクは世界的な現象だ」と述べ、2020年の総選挙に向け、外国からの干渉を防ぐ追加措置を講じる可能性も示唆しています。
ただ、中国の遣り口は巧妙らしく、ビクトリア大学ガバナンス・政策研究所のサイモン・チャップル所長は、「問題なのは中国共産党と近いニュージーランド企業やニュージーランド国籍保持者らを通じた献金だ」と述べ、単に外国人からの献金を禁じるだけでは不十分だと指摘しています。
また、オーストラリアでも12月2日、モリソン首相が8700万豪ドル(約65億円)超を投じて豪情報機関や連邦警察などが連携し、外国の内政干渉を捜査する特別チームを組織すると発表しました。
これは、11月下旬に中国情報機関の関係者が5月に行われた総選挙に中国系男性を立候補させようとしていたと報じられたことを受け、対抗措置を取ったものです。
オーストラリア・チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授は「中国からの干渉を防ぐため、より多くの財源や人材を投入する必要がある」と述べています。
一説には、「中国の手法はロシアより洗練され、より深刻だ」との指摘もあり、油断できません。
世界は中国による"静かなる侵略"に警戒感を示す中、日本は習近平主席を国賓として招こうとするなど、ピントがズレていないかと心配になります。
スパイ防止法なり何なり、他国からの政治介入を防ぐ手立てを急ぐ必要があるのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
歴代の中国共産党首脳で親日派は、共産党の存在意義の抗日に棹差す存在として疎んじられます。
習主席を親日として取り込み、中国に帰国時点で失脚する工作(中国共産党内のクーデター)が成功すれば、
国際社会からの日本の評価も上がるでしょうが、そこまで安倍・二階ラインで出来るでしょうかね。
今迄の行状からは、あまり期待できませんが・・・。日本に対する擦寄りの融和(篭絡)が成功せず、
中国が抗日で纏まれば、米中貿易戦争で日本の協力は霧散して、ほぼ冷戦(敗戦)確定の流れでしょう。