

1.「緊急事態宣言」全国に拡大
4月16日、政府は新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を全国に拡大することを決定しました。
安倍総理は官邸で開かれた対策本部で「北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県および京都府の6道府県については、現在の対象区域である7都府県と同程度にまん延が進んでいる……これら以外の県においても、都市部からの人の移動等によりクラスターが各地で発生し、感染拡大の傾向がみられることから、地域の流行を抑制し、特にゴールデンウィークにおける人の移動を最小化する観点から、全都道府県を緊急事態措置の対象とすることとした」と述べました。
これを受け、政府は、「基本的対処方針」を変更し、全国の住民に対し、大型連休中の県外への移動については、法律に基づいて自粛を要請するとし、北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県、京都府の6道府県について、これまでの宣言の対象の7都府県と同程度に蔓延が進んでいると指摘。これらのあわせて13の都道府県に対し、特に重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていく必要があるとして「特定警戒都道府県」と位置づけました。
更に、それ以外の県についても、都市部からの人の移動などで感染拡大の傾向が見られるうえ、医療提供体制が十分に整っていない場合も多く、医療が機能不全に陥る可能性が高いと指摘しています。
「特定警戒都道府県」の指定について、諮問委員会の尾身茂会長は「6道府県については、7都府県とまったく同じ基準で選んだ。当初から、専門家の立場では、恣意的に選ぶことはやるべきではないという立場だ」とした上で、対象地域を全国に拡大したことについて、「客観的な基準とは別のファクターを考えてやったということだと思う」と、13の都道府県を選んだ基準とは別の観点の判断を政府が行ったという考えを示しました。
まぁ、緊急事態宣言を全国に拡大したことで、これまで宣言された都市から、されていない都市に移動する、いわゆる「コロナ疎開」は激減するものと思われます。
2.第三次大戦は核戦争でなくウイルス
では、尾身茂会長が述べた客観的な基準とは別のファクターとは何か。それはおそらく、最早「戦時下」にあるという認識だと思われます。
4月10日、ジャーナリストの田原総一朗氏が官邸を訪れ、安倍総理と面会したのですけれども、その内容を自身のブログで明かしています。その一部を抜粋すると次のとおり。
安倍首相は、ついに4月7日、7都府県に「緊急事態宣言」を出した。なんと、緊急事態宣言を出すのに反対していたのは、財務省ではなく閣僚だったというのですね。尤も、反対の理由が財政問題だったということは「日本の財政は、数年で破綻する」と煽り立てていたマスコミや或いは財務省も責任がゼロとはいえないのではないかと思います。
僕は、10日に首相官邸を訪れ、安倍首相に会った。「緊急事態宣言が非常に遅れた。なぜこんなに遅れたのか。
財務省が強い反対をしていたというが、それほど反対したのか」と、僕は率直に聞いた。
安倍首相は、「そうではない」と言った。実は「ほとんどの閣僚が、緊急事態宣言に反対していた」という。
その理由は、日本の財政問題にあった。半年ばかり前までは、日本の主なメディアはすべて、「日本の財政は先進国で最悪にある。長期債務は1100兆円以上、GDP比200%、このままでは、日本の財政は、数年で破綻する」と強調していた。
こうした財政の厳しさは当然閣僚も認識しており、「コロナウイルス問題で、数十兆円もの財政出動をするなんてとんでもない」と考えていたのだ。
しかし、これは「平時の発想」である。
コロナウイルスが、世界に拡大し、日本でもこれだけ多くの感染者が出ている今、もはや「戦時」なのだ。
安倍首相はこうも言った。
「実は私自身、第三次世界大戦は、おそらく核戦争になるであろうと考えていた。だが、このコロナウイルス拡大こそ、第三次世界大戦であると認識している」。政治を「戦時の発想」に切り替えねばならない。その認識が固まったので、緊急事態宣言となったのだ。
緊急事態宣言とともに、政府は緊急経済対策を発表した。事業規模は過去最大の108兆円。その内容は、一定の要件を満たす、減収世帯に30万円を給付。また、売上が半減した、個人事業主やフリーランスに100万円、中小企業に200万円を、それぞれ最大給付するというものだ。
だが、いずれも市区町村に自己申告しなければならない。市区町村の窓口は申込者が殺到し、非常に手間暇かかり、支給が、6~7月に遅れるのではと心配される。
僕は、「なぜ国が直接給付すると決めなかったのか」と、安倍首相に問うた。「実は戦後日本では、地方自治体が主体性を持ち、国から直接給付となれば、独裁になってしまう。だからできないのです。しかし、できるかぎり早く、
少なくとも5月中には給付したい」ときっぱりと言った。
給付は一回きりなのか、もしもコロナショックが長引いたらどうするのか、という心配もある。確かめると、安倍首相は、「一回きりではありません。それは回数を重ねることは充分考えられる」と答えた。
さらに、欧米では緊急事態宣言のもと、政府の出した要請に反すれば罰則がある。罰金、あるいは逮捕もありうる。ところが日本では、罰則規定がない。「これでは少なからぬ国民が、守らないのではないか」と聞いた。
安倍首相は、「こういう時に罰則規定をもうけないのが、戦後日本の体制である。それをやると圧政ということになる」と言う。
とはいえ、安倍総理が、武漢ウイルス拡大こそ第三次世界大戦であると認識したことは大きく、指導力を発揮した形です。それでも、敢えて罰則規定を設けず戦後日本の体制を維持し圧政を避けようとしている姿勢自身には一定の評価が出来るのではないかと思います。
これに対し、立憲民主党など野党共同会派は16日、新型インフルエンザ対策特別措置法の改正原案を纏め、緊急事態宣言の対象となった都道府県知事は事業者に業務停止を命令できるようにし、命令に違反した場合の罰則を新設するとしています。普段、憲法を守れだの、安倍独裁だの批判する野党の方が、安倍総理にいわせれば余程「圧政」になるのだろうと思います。
いずれにせよ、今の「緊急事態宣言」については、要請レベルで事実上のロックダウンに出来るかどうかが鍵であることはいうまでもありません。
3.やれば出来るじゃないか
更に安倍総理は、緊急経済対策に盛り込まれた現金給付について「緊急経済対策では、収入が著しく減少し、厳しい状況にあるご家庭に限って、1世帯当たり30万円を支給する措置を予定していたが、この際、これに替わり、さらに給付対象を拡大した措置を講ずるべきと考える。今回の緊急事態宣言により、外出自粛をはじめ、さまざまな行動が制約されることとなる全国すべての国民の皆さまを対象に、一律1人当たり10万円の給付を行う方向で、与党で、再度、検討を行っていただく」と方針転換を自民党幹部に指示しました。
元々の現金30万円給付については、連立与党の公明党だけではなく、足元の自民党からも「減収とみなす条件が厳し過ぎる」という声が相次いでいた上に、「医療関係者や食料品を売っている人など、身の危険を感じて働いているのに収入が減らないからといって支給対象から外れるのはおかしい」など、制度設計自体を疑問視する声も出ていました。
更に、各家庭に配布する布マスクや、安倍総理が外出自粛を呼び掛けるために発信したSNS動画などへの反発も相次いでいたことから、安倍総理や与党が危機感を抱いたという見方も出ています。
筆者は、やれば出来るじゃないか、と、そこは感心してはいるのですけれども、安倍総理が田原総一朗氏と面会した10日の段階で、戦時下にあると認識しているのなら、もう少し早い段階で10万円給付も決められたではないかと思います。
まぁ、物理的な戦争とは違って、空から爆弾が降って来る訳でもなく、戦車で撃ち合いになる訳でもなく、空中を漂う目に見えない敵という始めての事態に何が最善なのか分からず手探りでやらざるを得ないことは分かります。
けれども、驚異的なスピードで感染拡大する武漢ウイルスにはそんな事は知ったことではありません。
「兵は神速を尊ぶ」の格言通り、素早い対応を望みたいですね。
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