
1.死は待ってくれない
武漢ウイルスに対し、日本の既存薬が効果を挙げているようです。
タイ政府当局は、4月24日現在、2854人の武漢ウイルス感染者が確認され、2490人が治癒したと発表しました。
タイ保健省は感染拡大の初期段階から病院や関係機関の専門家と研究を重ね、他国の治療法や国内の経験を基に、早期投与を盛り込んだ独自の指針を策定。臨床試験を経ずに実行しています。
タイ保健省のソムサック医療局長によると、患者は症状によって3グループに分け、無症状の感染者は抗ウイルス薬を用いず、軽症者にはアビガン以外の6種類の抗ウイルス薬を投与。重症者はアビガンを投与する方式で治療を実施しています。
その結果、感染者の回復率が87%に上るなど効果を挙げています。ソムサック医療局長は「早い段階で抗ウイルス薬を投与している……効果があると確信する」と述べ、「第2波が訪れる可能性はある」と警戒しつつも、「人との距離を保つなど規律を守れば小規模に抑えられる」との見通しを示しています。
タイでは3月下旬から4月上旬まで感染者が100人以上増える日が続いたのですけれども、21日以降は20人以下にとどまっているそうです。
ソムサック局長は「死は待ってくれない」と述べていますけれども、目の前の患者を助けることに重きを置けば、十分在り得る判断だと思います。
2.アビガンの第3相臨床試験
現在、世界各国が日本が開発したアビガンに期待を寄せ、次々と治験を開始しています。
4月7日、アメリカ食品医薬品局(FDA)が少量の「アビガン」治験の許可を出し、マサチューセッツ州の3つの病院で治験を開始しました。
また、イスラエル政府も6日、アビガンの臨床試験を開始すると発表。国内2ヶ所の病院で計80人の患者に投与する予定としています。
更に、最近、アビガンの臨床試験を開始したエジプトの保健・予防問題担当大統領補佐官であるモハメド・アワド・タージエルディン博士は、アビガンによる治療を「最高の治療法の1つ」であると報告しています。
勿論、アビガンの治験は日本でも行われています。
富士フイルム富山化学が行うアビガンの第3相臨床試験(企業治験)は、重篤ではない肺炎を合併した20歳から74歳までの患者のうち、PCR検査で陽性となり、胸部画像での肺病変、37.5℃以上の発熱、治験薬投与開始前の妊娠検査で陰性を認める入院患者を対象とし、酸素吸入が必要な患者は除外。
被験者を、抗菌薬や輸液などの標準治療にアビガンを上乗せする群または標準療法にプラセボ(偽薬)を上乗せする群に割り付け、観察期間である28日間、アビガンの有効性、安全性を評価します。目標症例数は96例。
第3相臨床試験の主要評価項目は、体温、酸素飽和度、胸部画像所見の軽快、武漢ウイルスが陰性化するまでの期間。具体的には、症状軽快後、48時間後に一定の間隔で2回のPCR検査を実施し、2回とも陰性だった患者を抽出して、投与開始から1回目のPCR検査で陰性が出るまでの期間をアビガン群とプラセボ群で比較するとのことです。
目標症例数が現状の96例のまま変更が無ければ、6月末にも第3相臨床試験が終了する見通しで、富士フイルムは「データ解析後、速やかに国内で承認申請したい」としています。
3.エビデンスピラミッド
臨床試験とは、患者さんや健康な人を対象として、薬や医療用具などの有効性や安全性などを検討するために行われる試験のことですけれども、臨床試験は「治験」と「自主臨床試験」の大きく2つに分かれます・
治験とは、製薬会社が主体となり国から医薬品や医療機器の製造・販売承認を得るために行う臨床試験のことで、自主臨床試験は、医師が主体となって治療法や診断法の有効性や安全性を調べ、より優れた医療を患者さんに提供する事を目的に行う臨床試験のことを指します。
これら臨床試験を重ねて、薬がちゃんと効くのかの科学的根拠を集めていきます。
ここでその科学的根拠(エビデンス)にもいくつかの段階があり、その信頼度も変わってきます。
下左図は、科学における研究の「エビデンスピラミッド」と呼ばれるものです。
最下段の試験管(細胞)レベルの研究から数多くあるのですけれども、そのままヒトに当てはめることは出来ないので、信頼性レベルは一番低くなっています。そこから動物を使った研究や専門家の意見へと、上に行くにしたがって信頼の度合いが上がっていきます。
冒頭で述べたタイでの臨床試験はというとちょうど、中断あたりの「症例報告」にあたると思われます。
下右図は感染症を専門とする忽那賢志医師が、武漢ウイルス感染症に対するアビガンのこれまでの知見をこのエビデンスピラミッドに当てはめたものですけれども、忽那氏は、エビデンスレベルの高い無作為比較試験として、アビガン投与群116人とアルビドールという中国の薬を投与された群120人とを比較した論文では、特に有意差はみられず、副作用として尿酸値上昇がファビピラビル群では多かったということから、現時点では、アビガンが新型コロナウイルス感染症に有効とは判断できない、としています。

4.アビガンの治療薬承認を急げ
とはいえ、臨床試験で効果があるという報告があるということは、効き目があるかもしれないということであり、患者の立場からみれば、効くかもしれないレベルであっても、使って呉れという人はいると思われます。
実際、アビガンの開発に携わったウイルス学者の白木公康氏(富山大医学部名誉教授)は、武漢ウイルスのハイリスク患者への使用開始を主張し、感染症を専門とする臨床医の菅谷憲夫・けいゆう病院感染制御センター長も「今こそアビガンの使用を解禁すべき」と研究者・臨床医から早期承認を求める声が相次いでいます。
複数の患者にアビガンを投与した西日本の感染症指定医療機関の医師は「インフルエンザに対するインフルエンザ治療薬ほどの効果は得られなかった」としつつも「新型コロナで重症になりそうな肺炎の場合、発熱、咳や呼吸困難が徐々に改善する患者が3分の2程度いた」と効果を認めています。
けれども、現在の日本ではアビガンは流通している薬ではなく、薬価も決まっておらず、流通ルートも確立されていません。東京都足立区内にある病院の医師は「薬剤部にアビガンを入手しろと依頼したら、『流通ルートがないので無理』と言われた」と内情を打ち明けるなど、一般の医療機関では入手することができません。
富士フイルム富山化学が行っている治験が予定通り、6月末までに終われば、治療薬として申請手続きに入ることになります。
日本では通常、治療薬の承認審査には1年かかるそうですけれども、現状を見る限り、そんな余裕があるとはとても思えません。
4月13日、厚労省は13日、医薬品審査で武漢ウイルスの治療薬を最優先に進めると明らかにしています。果たして最優先で審査してどこまで短縮できるか分かりませんけれども、タイ保健省のソムサック医療局長がいうように「死は待ってくれない」のです。
既に有事、戦時下にも等しい状況で、平時の対応をすれば、失われなくてもよい命も失われてしまいます。厚労省にはその意識をもって早期承認をしていただきたいと思いますね。
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耳年“魔”