緊急事態宣言延長と大仏

今日はこの話題です。
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1.緊急事態宣言延長


4月30日、安倍総理は自民党の二階俊博幹事長らと首相官邸で会談し、5月6日に期限が切れる緊急事態宣言を延長する方針を伝えました。

安倍総理は記者団に対し「現状は大変厳しい。5月7日からかつての日常に戻ることは困難と考える……ある程度の持久戦は覚悟しなければならない」と国民に呼び掛け、延長幅については「専門家の話を伺いたい」と述べました。

その専門家会議は5月1日に会合を開き、「感染状況」、「接触機会8割削減の達成状況」「医療提供体制の現状」を分析し、見解を公表するとしています。

政府は4日に基本的対処方針等諮問委員会と政府対策本部を開いて延長幅や対象地域を最終判断する見通しですけれども、専門家会議と諮問委の双方のメンバーを務める釜萢敏日本医師会常任理事は30日のTBSのテレビ番組で、緊急事態宣言延長について「47都道府県で続けるべきだ」とし、延長幅についても「5月一杯続けざるを得ない」と語りました。

そうしたことから、今の所、延長幅は5月末まで。対象地域は全都道府県とする方向で最終調整しているとのことです。

ただ、政府内では緊急事態宣言を全国一律に延長する場合でも、感染状況によって地域ごとに外出自粛や休業の要請に強弱を付ける案も出ているそうで、30日に行われた全国知事会とのテレビ会議では、西村康稔経済再生担当相は13都道府県が指定されている「特定警戒都道府県」について、宣言延長に合わせて「入れ替えが考えられる」と語っています。




2.ホリエモン発言


一方、延長については、不安の声が上がっています。休校の長期化による保護者から不安の声もそうですし、観光業、飲食業からもそうです。ニュースでも経済的影響を懸念する報道が流れ始めています。

東京都の小池百合子知事が「緊急事態宣言の延長」を求めたことについて、ホリエモンこと、実業家の堀江貴文氏は「呆れてものが言えない」とツイート。

更に「専門家の人達は別にその業種が潰れても責任は取らなくていいからね。損もしないし。その対策がほとんど意味なくても。一応やっとこーかー。みたいな感じよね、こんなのに付き合ってらんねーよマジで」、「それぐらいの感覚で専門家は各業種の実質的ロックダウンを決めてる。潰れようがお構いなし。錦の御旗を与えられてる。そして自粛期間延長とか言ってる。真面目に守るの馬鹿馬鹿しくなるよね」、「人生かけて商売してるみんなは、もっと声を上げた方がいい。今政治家は自粛厨と経済活動とか全く興味ない感染症の専門家の方しか向いてないよ」とツイートしています。

堀江氏のツイートには賛否両論のリツイートが寄せられていますけれども、一国の首長でも堀江氏と同じような意見の人もいます。ブラジルのボルソナロ大統領です。

ブラジルの武漢ウイルス対策は自治体が先行していて、サンパウロ州やリオデジャネイロ市は3月24日から飲食店や商店の一斉閉鎖をしています。

これに対し、ボルソナロ大統領はテレビ演説で「我々は生き続けなければならない。雇用を守らねばならない。普段通りに戻らなければならない……危険なのは60代以上。なぜ学校を閉めなければならないのか」と疑問を呈し、翌日には記者団を前に「他のウイルスの方がはるかにたくさんの死者をもたらしたのに、今回のような騒動は起きなかった……何人かの知事や市長が行っていることは犯罪だ。ブラジルを壊している」と強調しました。

そして、今月28日、首都ブラジリアの公邸前で、記者団から死者数が中国を上回ったことを指摘され、「それで? 残念なことだ。でも私にどうしろというのか……私の名はメシアス(救世主)だが、奇跡は起こせない……悲しい状況だ。多くは高齢者だが、愛する者を失った家族に同情する。でもこれが人生、あすはわが身だ」と述べています。

ボルソナロ大統領の一連の発言は当然ながら各所から批判を浴びていますけれども、極端に経済的視点からみればこういう意見になるということです。




3.政治決断からは逃れられない


日本政府は緊急事態宣言を一ヶ月程度延長する方向で進めていますけれども、それはすなわち、一ヶ月後に解除するか否かの判断をしなければならないことを意味します。

その時に感染拡大が終息しているかどうかは分かりません。

昨日のエントリーでは、抑え込みに成功し、徐々に制限緩和に踏み出すオーストラリアと、抑え込めていないにも関わらず新規感染者の伸びが鈍化したという理由で制限解除に踏み出そうとするフランスの例を取り上げ、日本はオーストラリア方式を想定しているのではないかと述べましたけれども、もしも1ヶ月後に感染拡大が終息していなかったら、どうするのか。

医師会や専門家会議は医療崩壊を懸念し、再々延長を求めるでしょうし、観光業、飲食業は解除を求めるでしょう。あるいは、航空業界やJRなどもなんとかしてくれと声を上げるかもしれません。また、経団連などの財界は追加の大規模財政出動や法人税緩和などの要求をするのではないかと思います。

要するに、各業界・団体がそれぞれの立場で、"ポジショントーク"を行い、それらが互いに相反し衝突する事態になるだろうということです。

筆者は6月を過ぎての延長は、経済崩壊を招くのではないかと危惧していますけれども、どれを選んでもリスクがある中での政治決断からは逃れられないのではないかと思います。


4.ノーガード戦法で屍の上に立つスウェーデン


世界各国は都市封鎖など厳格な感染拡大防止策を取る中、日本以上に緩い対策を取っている国があります。スウェーデンです。

スウェーデンでは通勤者が街を行き交い、カフェやバーでの会話もOK。大学や高校は遠隔授業に切り替えたものの、小中学生は学校に通い、美容院やレストランも営業を続けています。

当然ながら、武漢ウイルスによる被害は他国より多く、スウェーデンの人口100万人あたりの死者数は233人を超えています。これはデンマークの100万人あたり74.93人。ノルウェーとフィンランドの35.9人少々と比べると突出しています。

4月28日、スウェーデン政府の感染対策リーダーである疫学者のアンデシュ・テグネル氏は、アメリカ紙USAトゥデーのインタビューで、首都ストックホルムでは既に25%が感染して免疫を獲得した。今後数週間以内に「集団免疫」を獲得できる、との見通しを示しています。

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けれども、これは高齢者をある意味見捨てることによって実現している面があります。

スウェーデンは寝たきりになってまでの介護をせず、自分で食事ができなければそれまでという国で、延命治療もされません。こちらのブログでは、スウェーデンからの現地レポートを綴っているのですけれども、スウェーデンのストックホルムの病院では、慢性閉塞性肺疾患やBMIが40以上の人、中毒患者、ペースメーカー利用者など、1つまたは複数の深刻な全身性疾患のある患者には、集中治療室での治療を施すべきではないとし、80歳以上の老人も集中治療室には送らないと記されたガイドラインが出されているのだそうです。

そして、 このガイドラインは、たとえ集中治療室に空きがあったとしても、老人や疾患のある人は集中治療室に送られないとなっていて、ある医師は匿名を条件に「集中治療室を必要な患者がいるにもかかわらず、実際には患者が集中治療室に搬送されていない」と語り、別の医師も「集中治療室に空きがあるにもかかわらず、病院はガイドラインに従い患者を選別しすぎている」とその実態を述べているのだそうです。

実際、スウェーデン国内における70歳以上の患者への集中治療室での治療数が、3月に28%であったが4月には19%に減少、ストックホルム地域では、70歳以上の患者への集中治療室での治療数は、3月に26%であったものが、4月には11%まで減少しているとのことです。

このようにスウェーデンが獲得しようとしている集団免疫は、多くの犠牲の上に成り立ってるものだともいえるかもしれません。

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5.日本の抗体保持率


では、日本ではどれくらいの人が抗体を持っているのか。

医療法人社団鉄医会の久住英二理事長は、4月21日から28日に掛けて、武漢ウイルスの抗体検査を行いました。

検査は二十~八十歳の男性123人、女性79人の計202人。構成は一般市民が147名、医療従事者が55名です。このうち一ヶ月以内に発熱のあった人は52人、同居者でコロナウイルス感染者がいる人は2人、PCR検査を受診したことがある人は9人。内1人はPCR検査で陽性反応だった人です。

検査結果では、一般市民の4.8%にあたる7人が陽性、医療従事者では9.1%の5人が陽性で、全体では5.9%が陽性となりました。

これは、慶応大病院が実施した武漢ウイルス以外の入院患者67人に対するPCR検査で陽性だった人(4人)の割合5.97%とほぼ同じであり、実態を表しているのではないかと思われます。

久住医師は「現行のPCR検査で判明する感染者よりはるかに多く感染している可能性が高く、確実に蔓延していると言える」とコメントしています。

日本の武漢ウイルスによる100万人辺りの死者数は3.28人。スウェーデンの1/4程度の抗体獲得率に対し100万人辺りの死亡者数は70分の1以下です。

これだけをみれば、ノーガードで集団免疫獲得に向かったスウェーデンよりは日本の方が感染からの人命救済という意味では優れていると思います。

けれども、これが長期化するとまた話は変わってきます。早期に集団免疫を獲得できた国はすみやかに元の経済活動を取り戻せるのに対し、集団免疫が十分でない国は、だらだらと自粛を続けなければならなくなるからです。




6.武漢ウイルスは既得権益をぶっ壊す


武漢ウイルスの抑え込みも、そしておそらく集団免疫も獲得できていないであろうフランスが、制限解除に動き出したのも、これ以上の制限による経済的ダメージに耐えられないと判断したからだと思います。ある意味スウェーデンのように、被弾覚悟でノーガードで突っ込む道を選びました。

現状を見る限り、武漢ウイルスのワクチンや集団免疫を獲得するずっと前に、非常事態宣言に伴う制約による経済崩壊が来ることはほぼ確実だと思います。

それが嫌なら、完全終息まで延々と資金供給、資金配布を続ける他なく、それとていつまで出来るかも分かりません。

となると、やはり、どこかでガードを下ろす決断をしなければならなくなると思います。

今回の武漢ウイルス蔓延は、日本の既成概念や既得権益をぶっ壊していくのではないかと筆者はみています。

いくつかの自粛要請に従わないパチンコ店は店名を公開するなど晒し者になっていますけれども、現行法制ではそれ以上できることはなく、営業を続ける店には長蛇の列を成していると聞きます。

大阪の松井市長は、「今後、ギャンブル依存症対策を進める為にも、これまで既得権となってきたパチンコ業界のグレー規制を見直すべきです……国会議員団のみなさん、パチンコは遊技では無くギャンブルと規定し必要な対策を議論して下さい」と述べ、いわゆる「三店方式」による換金行為にメスを当てよと発言しています。

また、武漢ウイルスのPCR検査についても、厚労省は検査にあたる人材の確保が難しくなった場合には特例的に、歯科医師も検査を行うことを認める通知を自治体に出しています。

仮に、一ヶ月後に完全終息していなくても、経済的理由で非常事態を解除するという政治判断が為された場合、では、ノーガードで集団免疫獲得というスウェーデン方式で日本がいけるかというと、都会からのコロナ疎開を地方があれだけ嫌がるのを見る限り、おそらく国民が許さないと思います。

となると、ワクチンが出来上がるまでは、アビガンやイベルメクチンなどの今現在効果があると言われる薬の一般処方を認めろなどの声が上がるのではないかと思います。これも一種の許認可権益の破壊といえば破壊でしょう。

武漢ウイルスは、これまでアンタッチャブルであったところさえもどんどん壊していっているように見えます。




7.アマビエの御利益


武漢ウイルスの感染が世界中に広まるにつれ、どんどんとその特徴が報告されています。最近では、感染した30~40代の患者が脳梗塞を併発する症例がアメリカで相次いでいることから、武漢ウイルスが血栓の形成を促進するのではとの見解も出てきています。

武漢ウイルス出現当初のインフルエンザ程度という見解からはもう全然違った姿になっています。

ここまでくると、正直、人間の手に余るウイルスではないかとさえ思えてきます。

巷では、神にも縋りたいという雰囲気も一部に出てきているように思います。

千葉県茂原市では、武漢ウイルスの感染拡大を防ごうと、ネット等で話題になっている妖怪「アマビエ」の木像が設置されました。

「アマビエ」は長い髪やひし形の目、嘴のようなとがった口を持つ妖怪で、その姿を見ると疫病が鎮まると伝えられています。武漢ウイルスの感染拡大を受けてSNSなどで話題になり、厚生労働省もアマビエを啓発キャラクターに使っている程です。

木造は、茂原市民などでつくる「艸里埜木倶楽部」が去年の台風15号で倒れた杉の木をチェーンソーで削ったもので、いくつか製作した複数の木像の中から高さが1m23㎝ある木村廣志さんの作品が茂原市中心部にある国道沿いの空き地に設置されました。

木村さんは「疫病退散の御利益があると言われているので、形にして見てもらいたかった。倒木に魂が宿ったように感じ、すごくいいことだと思う。感染拡大の終息を願います」とコメント。

>空き地の所有者の鈴木信一さんは「アマビエの御利益があればと設置に協力しました。茂原に災いが起きないよう願っています」と話し、鈴木さんの妻の志津恵さんは「妖怪と言えば妖怪だけどかわいらしい。心の拠り所として、こういうものに縋りたいという気持ちになります」と話していました。

また、アマビエの和菓子や缶バッジ、編みぐるみなども登場しているようです。

なるほど、大昔、疫病が流行ると神に祈祷した人達の気持が分かるような気がします。

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8.人間の無力さと大仏造立


考えてみれば、ワクチンもなく治療法もなく、ただ、免疫による自己回復を待つしかないという武漢ウイルスへの対応は、自然が持つ力に任せるということであり、科学の限界というか、人間の無力さを感じさせます。

パチンコ店の店名公表にしても、魔女狩りとはいわないまでも、一種の不満の捌け口にされている感じもします。

歴史を振り返ってみれば、奈良東大寺の大仏造立当時は、天候不順による飢饉や地震災害そして、天然痘の蔓延などの厄災が次々と置き、社会不安に陥っていました。

聖武天皇は、そうした社会不安を鎮める意味から、人々への仏の加護を願って大仏を造立したと伝えられています。

ここで聖武天皇が優れていたと筆者が思うのは、大仏造立に際し、人々に喜捨を募ったことです。

当時、大仏の造立は国家事業であり、多くの費用を費やしたのですけれども、続日本紀では、聖武天皇は、大仏造立に当たって、広く国民に「一枝の草、一握りの土のような僅かなものでもささげてほしい」と呼びかけたと記しています。

もし、大仏造立費用を国家予算あるいは貴族から金を出させただけでは、大仏は、今でいう所謂「上級国民」のものとなり、人心安定にはそれほど寄与しなかったかもしれないと思うのですね。社会不安に陥っている中で国民の分断を放置したままいくら政策を出しても、人々の心には響かないということです。

ネットでは、「『昔の人、大仏作るなんてリソースの無駄』と思っていたけど今になって合理的だと分かってきた「ピラミッドは最強の公共事業」」などという意見も出てきています。

確かに、今の社会不安を抑える為には、国民から広く薄く寄附を募って、医療センターなり、三密対策ばっちりなショッピングモールなり、大仏に相当する超特大規模の公共事業をやるという手はあるかもしれません。

できれば、それこそ大仏ではないですけれども、"尊きもの"の為に使われるほうがより人心を鎮める効果があるように思います。

もしも、科学の発達していない大昔の話だと馬鹿にしていた気持があったのだとしたら、実は自分達も、当時の人々と大して違わないのだという謙虚な気持ちはあってよいように思いますね。



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