関西の緊急事態宣言解除とK値

今日はこの話題です。
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1.緊急事態宣言の関西解除


5月21日、政府は、武漢ウイルスの緊急事態宣言について、大阪、京都、兵庫の関西2府1県の解除を宣言しました。

一方、東京など首都圏の1都3県と北海道は継続となりました。

先日政府は宣言解除の目安の一つとして、「直近1週間の新たな感染者数が10万人あたり、0.5人程度以下」になることを示していますけれども、朝日新聞のまとめによると、20日時点では、近畿3府県は、京都が0.04人、大阪が0.24人、兵庫が0.07人に抑えられています。

対して、北海道および首都1都3県では、北海道が0.69人、東京が0.56人、神奈川は1.08人、千葉は0.21人、埼玉0.33人となっています。

千葉と埼玉は解除目安をクリアしているのですけれども、西村経済再生相は20日の会見で「基本的には経済圏、生活圏を考えれば一体的に判断していくのが適切だ」と、通勤などで人々の行き来が盛んな関東4都県と近畿3府県について、それぞれ都市圏ごとに一括して解除の可否を判断するとしています。

近畿3府県は全て、目安をクリアしていることもあり、政府高官は「解除は問題ない」としています。

首都1都3県は、千葉、埼玉が目安をクリアしているものの、東京、神奈川が駄目ですから解除できないという判断です。これは適切な判断だと思います。

もっとも、政府は、宣言が継続する地域には、引き続き外出自粛などに取り組むよう求めるとともに、解除された地域でも、感染防止策を徹底しなければ感染が再び拡大するおそれがあるとして、人との接触の削減などを継続するよう呼びかけることにしています。
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2.首都圏の解除目安


解除目安とされる「直近1週間の感染者数が人口10万人当たり、0.5人程度」をクリアできなかった北海道と東京、神奈川ではそれぞれ、新規感染者何人に相当するかというと、北海道26人、東京都70人、神奈川46人になります。

直近1週間の累積の新規感染者数は北海道が36人、東京都が78人、神奈川が99人です。

目安に対して北海道は+10人、東京都は+8人ですから、あともう一息といったところなのですけれども、神奈川は目安に対して+53人と大きく上回っています。

首都圏の緊急事態宣言の解除は、都市圏ごとに一括して判断される以上、東京都だけ頑張ってクリアしても駄目で、神奈川の新規感染者を半減以下にまで下げないといつまで経っても解除されないことになります。


3.神奈川の集団感染


では、なぜ神奈川だけこんなに新規感染者が多いのか。

下表は、内閣府が発表している全国各エリアの緊急事態宣言前後の人口変動分析から、東京駅、新宿駅、横浜駅、川崎駅周辺の結果を拾ったものです。

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これは、駅周辺の500mメッシュの範囲内にいる人の数が、前年同月および緊急事態宣言前後で、午後3時の時点でどれくらい減ったかを示すものです。分析は駅周辺とか歓楽街周辺とかが中心ですけれども、分析があくまでそのエリアに居る人をカウントしているためで、これがたとえば住宅街のエリアで分析してしまうと、殆ど減っていないように見えるからだと思われます。

結果を見ると、東京駅、新宿駅、横浜駅、川崎駅それぞれ、おおよそ前年同月比で6~7割減。緊急事態宣言前後で4~5割減といったところで、東京と神奈川で特に大きく差があるようには見えません。


4.繰り返す院内感染


神奈川で特に新規感染者が多い理由の一つに院内感染が指摘されています。

5月18~19日、横浜市保健所は横浜市旭区の聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の立ち入り検査を行いました。

理由は、この聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院での院内感染が収まらない為で、横浜市によると、病院で感染者集団の最初の陽性患者が確認されたのは4月21日。直後に保健所が調査に入り、感染防止策の徹底を指導したのですけれども、5月19日までに患者36人、医師5人を含む職員42人の計78人の感染が確認されています。

保健所の立ち入り調査は、今回を含めて実に3度目で、異例のことのようです。

今回の調査で、保健所は消毒や手洗い、防護服の着脱などを実際に見て回ったのですけれども、その結果、「看護師の詰め所にある共用パソコンの指紋認証部分の消毒が不十分」、「職員が病室入り口にあるタッチパネルを触った後の手指消毒が不十分」、「防護服を脱ぐ最中に髪を触るなど動作が不適切」など、不適切な点が多数確認されたということです。

病院側は院内用ウェブサイトで感染防止策を周知していたそうですけれども、「どれだけ徹底されているかを把握していなかった」状態だったそうで、感染拡大の原因として、医療用マスクを着けていない職員が、患者の痰吸引時などに生じる微粒子を吸い込むなどして感染した後、感染を防ぐ動作の不十分さから職員間で広がった可能性が指摘されています。

また、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院以外でも小田原市立病院で集団感染が発生していて、これまでに31人が感染しているとのことです。


5.K値


5月20日、神奈川県の黒岩知事は記者会見を行い、政府の緊急事態宣言が解除された後、県内の経済活動の再開と医療体制の維持を目的とした独自の取り組み「神奈川ビジョン」を発表しました。

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ビジョンの中身は宣言解除後の取り組みが中心で、今の緊急事態宣言がいつ解除されるのかについてはあまり触れられていないのですけれども、宣言解除後の再警戒の指標としていくつかのモニタリング指標が提示されています。

その中で注目したいのは、神奈川と東京の週当たり感染者数増加率=K値を見るという点です。

「K値」というのは、聞きなれない言葉ですけれども、これは大阪大学核物理研究センターの中野貴志教授が発見した武漢ウイルス流行の推移を予測する数式です。

K値は、累計感染者数を1週間前の累計感染者数で割った値の逆数を1から引いた値で、次の数式で表わされます。

       K=(X-Y)/X=1-Y/X

X=累計感染者数 Y=1週間前の累計感染者数 
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K値の数式で、1週間の間隔を取っているのは、「土日の検体の持ち込みが少なく、月曜の陽性判定者は少なくなるという日本の検査体制の問題の影響を受けにくくするためだそうです。

K値の凄いところは、K値を求めた後、そのK値の傾きK’からその後の流行の推移が予測でき、そして更にK’の変化から対策などの効果が読み取れるとしているところです。

下右図は4月2日から5月11日までの日本のK値の推移を示したグラフですけれども、見事に予想線の上に乗って推移していることが分かります。

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そして、下図はドイツとフランスでのK値の推移グラフですけれども、途中でK値の傾き(K’)がポキリと折れたように急峻になっています。

このK値の傾きが変化した点が正にロックダウンを行った日になります。つまり、ドイツとフランスはロックダウンしたことによって、感染拡大を抑え、収束スピードを加速させていったことが分かります。

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ここで改めて日本のK値の推移を見てみると、日本のK値は緊急事態宣言前後でもK値の傾きに変化は見られず、ずっと予想線の上に乗ったままになっています。

これはつまり、日本においては緊急事態宣言は効果を出していないことを示しています。驚くべき結果だと思います。緊急事態宣言は意味がなかったということですから。

これについて中野教授は「日本における K 値の推移は極めて安定で、ヨーロッパのいくつかの国で見られたような社会活動の制限等の施策による感染収束速度の増加もなければ、米国で見られるような感染再拡大の兆候も見られない。4月3日から24日にかけては、傾きが-0.0283の直線でよく近似され、それ以降の推移も k=0.9185 の予想線に沿って推移している。このまま順調な推移が継続すれば、5月中旬には多くの国で感染収束宣言が出ているレベルである K=0.05に達するであろう。

K値の推移を読み解くと、日本では COVID-19が感染収束に向かって順調に進展していることがわかる。この最後の局面で詰めが甘くならないように適時適切な施策を実施することを真剣に考える時期に差し掛かっている。経済や教育に対する影響が甚大な割には、今のところ日本では効果がはっきりしない欧米型の社会活動自粛施策を今後も継続するか否かだけが選択肢ではない」と述べています。


6.首都圏の緊急事態宣言はいつ解除されるか


では首都圏の緊急事態宣言解除は何時頃になるのか。

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上図は東京都と神奈川のK値の推移を表したグラフですけれども、東京都のK値を見ると「傾き K’は、-0.0268で全国平均に近く、4月25日以降の観測値も、ほぼ予想通りに推移し、非常事態宣言下に施された様々な施策の効果が Kの傾きの変化として見えないのも全国の場合と同様」と中野教授は指摘しています。

次に神奈川についてですけれども、グラフの点が若干ばらついてるのは、感染者数が東京に比べて少ないことと、2回ほどクラスターが起こっているのが原因であり、そのクラスターも3日ほど上がって下がる動きを見せ、おおよそ予想線に沿って推移しています。イメージとしては一度クラスターが発生したら、予想線に復帰するまで大体一週間くらいかかる感じです。

5月11日時点のK値は東京都が0.049、神奈川が0.058で、中野教授が予言した「5月中旬には多くの国で感染収束宣言が出ているレベルである K=0.05に達する」の通りになっています。

緊急事態宣言解除の目安となる人口10万人あたりの新規感染者数0.5人というのは、K値に換算するとK=0.015とのことですから、神奈川のK値のグラフを見る限りでは、新たなクラスター発生がなければ、来週前半にはK=0.015を割って来るのではないかと思うのですけれども、残念ながら、20日、足柄上郡開成町の高台病院でクラスター発生が報告されていますから、来週中の収束は厳しいかもしれません。

中野教授は、神奈川について、たぶんクラスターがなかったら、もうすでに基準は満たしていたと推理しているとも述べていますから、神奈川においては院内感染などクラスター対策が最重要課題になると思います。

K値の変動をみれば、再流行の傾向も見えるとのことですから、巷で警戒されている武漢ウイルス第二波に備えるためにも、K値についてデータを積み重ねて、その有用性を実証しつつ、今後もずっと公開していただきたいと思いますね。


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