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1.八ヶ国100兆ドルの賠償請求
5月21日、中国の全国人民代表大会の張業遂報道官は北京で行われた記者会見で、一部のアメリカ議員による賠償を求める動きについて質問され、中国は新型コロナウイルスの感染拡大に関する訴訟の乱用や不当な賠償請求は一切受け入れないと宣言。中国を非難するアメリカの法案は「根拠がない」だけでなく、国際法や国際関係の原則にも違反しているとし、中国はこうした法案に強く反対し、必要に応じて対抗措置を講じていくと述べました。
訴訟については、既に、アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリアの8カ国の政府や民間機関が、感染拡大は中国の初動対応の誤りが主要な原因だとしているのですけれども、『香港経済日報』は、中国への賠償金の要求額は総額で100兆ドル(約1京1000兆円)を上回り、中国のGDP7年分に相当する額に達していると試算しています。
これに対して、中国内では大きな反発の声が上がっています。
中国のネットでは「1918年のスペイン風邪で死者が推定で最大5000万人に上ったが、その原因は第一次世界大戦で欧州に派遣された米兵が感染を拡大させたことだ。しかし、そのとき、アメリカ政府は賠償金を支払っただろうか。いま中国に賠償金を要求するのならば、アメリカが当時の責任をとって、賠償金を支払ってからにせよ」などとの批判が出ています。
2.初動の遅れがかなりの原因だった
100兆ドルという賠償額の妥当性は兎も角、各国に甚大な経済損失が出ていることは間違いなく、イギリスのシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン協会」は今回の感染拡大は中国当局による情報統制が最大の原因で、多くの湖北省武漢市民が感染に気づかぬまま春節連休前に出国したためだと指摘し、経済的損失は先進7カ国(G7)に限っても最低4兆ドル(約425兆円)に上ると試算しています。
そして、中国政府が世界保健機関(WHO)へ十分な情報提供をしなかったことは国際保健規則に反するとして、国際社会は中国政府に法的措置を取るべきだと提言しています。
先述した賠償請求はまだ8ヶ国であり、その内G7はアメリカ、イギリス、イタリア、ドイツの4ヶ国です。世界がこの提言通りに動くとすれば、更に賠償請求額が積み上がることになります。
「ヘンリー・ジャクソン協会」が反すると指摘した国際保健規則とは、感染症などによる国際的な健康危機に対応するために世界保健機関(WHO)が定めた規則です。
この規則は2005年に大幅に改正されているのですけれども、その経緯について、政府のウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長は、2月13日、日本記者クラブで行われた記者会見で次のように述べています。
「2002~03年にSARS(重症急性呼吸器症候群)があった。それまで感染症は日本で言えば厚生労働省の管轄。SARSで香港などへの経済的なインパクトが強く、あれ以来、国際社会は厚労省の枠を超えて各国の首脳、外務大臣が同じことを繰り返すまいと強い関心を持つようになった」
「2003年から2年半はSARSと同じことをいかに繰り返さないかという議論しかWHOでは行われなかった。国際保健規則が改正され、決まったことが一つある。どうも普段と違うような状況があれば病原体や原因が分からなくてもすぐにWHOを通じて国際社会に報告することだ」
「中国もその議論に十分参加した。SARSの時は中国政府の意図的な情報非公開が半年間にも及び、WHOが2003年4月に香港や広東省への旅行延期勧告を出した。それに比べると今回、中国の習近平国家主席の対応は早かった。中国が一生懸命、本気でやっているのは間違いない」
「しかし中国はSARSを起こした同じ国。国際保健規則を巡る議論を湖北省の衛生担当者が知らないということはあり得ない。昨年12月初旬から(原因不明の感染例の報告が)もっとあったはずだ。初動が遅れたということについて中国はSARSで反省をしているわけだから」
「こういう全ての感染症の大流行に共通する要素は初動の遅れ。西アフリカのエボラ出血熱も現地にキャパシティーがなく、初動が遅れた。今回も武漢市があれだけの事態になったというのは明らかに初動の遅れがかなりの原因だった」
尾身氏は、はっきりと中国の初動が遅れたと述べています。
そして、返す刀で尾身氏はWHOにも次のように批判しています。
「WHOは基本的には健康を守るために設立されたテクニカルエージェンシー。政治的、経済的な考慮はしても最終的にはテクニカルに行くべきだ。1948年の設立以来、ずっとそれでやってきてテクニカルなところではこの組織は信頼できるという関係が確立されていた」尾身氏は、WHOのテドロス事務局長の発言は無茶苦茶でトップに相応しくないとする反面、周りを固めているのは各国の優秀な人材が周りを固めていて、テクニカルな勧告は信頼できるとしています。尾身氏の発言通りであれば、WHOのテドロス事務局長の責任は大きいと言わざるを得ません。
「テドロス氏の発言は、今の習近平氏はよくやっていますよ、ただし残念ながら武漢市の対応は遅すぎて国際社会は重く受け止めており、反省すべきですと、これぐらいは最低言わないとWHOのトップとしてはちょっと残念だ」
「WHO は各国の優秀な人材が周りを固めているから、テクニカルな勧告は彼の発言と違って、そんな滅茶苦茶なことはやらない。イメージが悪くなったので早く是正しないと。折角1948年から営々と築いてきた信頼感がなくならないよう早く軌道修正する必要がある」
栓無き事ですけれども、もし、尾身氏がWHOの事務局長であったなら、もっと違っていたのではないかと思えてなりません。
3.直ちに廃棄するか国家が指定する機関に送らなければいけない
もう既に削除されてしまっているようですけれども、今年2月、中国のニュースサイト「財新網」は武漢ウイルスについて、昨年12月末、武漢の肺炎患者の情報を検査機関が分析し、武漢ウイルスの存在を指摘したにも関わらず、中国政府の国家衛生健康委員会は1月3日、ウイルスに関する情報は「特別な公共資源だ」として、無断で外部に明らかにしないように指示。
患者に関する情報は「直ちに廃棄するか国家が指定する機関に送らなければいけない」と求めたと伝えています。
ロイターは、様々なデータや公式記録に当たるとともに、武漢の市当局者、住民、科学者など数十人にインタビューを行い、1月23日に武漢がロックダウンするまでの内幕を記事にしています。
その概要を時系列に並べると次のとおりです。
1月の最初の2週間:市当局は状況はコントロール下に置かれていると強調し、人から人への感染の可能性を軽視。このように、ロイターは事態を隠蔽しようともがく武漢市当局と、強権発動をする中央政府との確執を記しています。
1/12:病院の呼吸器科病棟が許容量の限界に達し始め、一部の患者が受診や入院を断られるようになっていく。
1/16:武漢市政府は新たな患者は2週間ほど発生していないと説明。実施されていた対策は、公共施設での住民の検温や、感染防止用マスクの着用呼びかけといった最低限のもの
1/18:北京の中央政府から派遣された専門家チームが武漢に到着。地元政府は、感染封じ込めに手を焼いていることを隠蔽しようとしていた
1/19:専門家チームが北京に戻り、視察で得られた知見を、中国の健康保健政策を策定する国家衛生健康委員会に報告。専門家は武漢を隔離し、病院の収容能力を急速に拡大する必要があると勧告。
1/20:中央政府は武漢市に特別対策本部を設立し、感染拡大抑制に向け陣頭指揮に当たらせることを決定。当初、武漢市当局は経済的な打撃を懸念してこの提案を受け入れようとしなかったが、中央政府に押し切られた。
1/22:武漢市政府高官のもとに、市外への移動の原則禁止、必要がある場合は居場所の報告を求める中央政府からの書簡が届いた。
この中国中央政府が一生懸命やろうとした一方で、現地の武漢市当局の初動対応が鈍く送れたというのは、尾身茂・政府専門家会議副座長が指摘している通りです。
ただ、武漢市当局の対応に最大の原因があるにせよ、最終的な責任は中国中央政府にあります。外国が中国に損害賠償を求めるのは当然の成り行きです。
中国政府は武漢ウイルスについての情報を適切に公開していると主張していますけれども、尾身氏の指摘のように、専門家やあるいは政府はそうは思っていないことはほぼ間違いないでしょう。
中国が素直に賠償請求に応じるとは思いませんけれども、それで世界がペナルティも何も課さずに済ませてしまうとも思えません。米中対立はもとより、中国の孤立化はより鮮明になっていくのではないかと思いますね。
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