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1.アメリカの中国パージ
5月29日、アメリカのトランプ大統領はホワイトハウスで演説を行い、中国が香港で反政府的な動きを取り締まる「国家安全法制」の導入を決めたことについて、「一国二制度を一国一制度に変えた」と批判しました。
そして、これに関わった中国と香港の当局者に制裁を科す方針を示すとともに、アメリカが国内法で香港に認めた貿易面などの優遇措置の停止に向けた手続きを始めるとも述べました。
制裁対象は、「犯罪人の引き渡しから輸出管理までアメリカと香港との取り決めの全般にわたる」としています。
さらに、「中国政府は長い間、我々の多くの産業機密を盗む不法スパイ行為を犯してきた……我々の核心大学と研究所を保護するために潜在的な保安脅威があると判断される一定の中国人の入国を中断する布告文も発令した」と述べました。
具体的には、中国の軍民融合戦略を実行する機関と連係した大学院以上の中国国籍の留学生などで、ビザを利用したアメリカへの入国を遮断。また、人工知能など民間の先端技術を活用して人民解放軍を現代化する「民軍融合」推進大学・研究機関所属、またはこれらの機関で研究した後、アメリカに入国した中国人留学生や研究員3000人も追放される可能性があると見られています。
香港への制裁のみならず、アメリカの安全を脅かす可能性のある中国人は国内から追い出す。
昨年5月、筆者は「侵略はスマートフォンとともに」のエントリーで、中国共産党は、あらかじめ選抜した優秀な人材を海外に送り込んで、その技術を盗んでくる「千人計画」と呼ぶプロジェクトを立ち上げていることについて述べましたけれども、これらも排除するということだと思われます。
また、トランプ大統領は「世界最高の米金融システムと米国の投資者を保護するため、米金融市場に上場した中国企業の他の慣行に関する研究を指示した」と、アメリカで上場する中国企業を調査し、粉飾会計などの危険を抱えている企業を退出させる可能性も予告しています。
トランプ大統領の演説の際、マイク・ポンペオ国務長官が隣に立っていたのですけれども、外交トップを脇に演説することで、"外交的"対立を辞さない姿勢を明らかにしています。その一方、エスパー国防長官の姿が見えなかったところを見る限り"軍事的"対立までは望んでいないというメッセージも同時に送っていると見ます。
兎に角、中国共産党の息の掛かった存在は排除する。アメリカの中国パージが始ったとみていいように思います。
2.香港市民290万人の受入れを打ち出す元宗主国
5月28日、イギリスのラーブ外相は「中国が国家安全法導入という道を進み続け、実際に施行するのであれば、我々はBNO保有者に認めているビザなしでの英国滞在期間を6カ月から12カ月に延長し、就労や就学を申請するために英国へ渡航できるようにするだろう。また、滞在期間はさらなる延長が可能で、それ自体が将来的な英国市民権を獲得する手段を与えることになるだろう」と述べ、英国海外市民旅券(British National Overseas、BNO)をめぐる方針を変更する可能性を明らかにしました。
BNOについては去年9月のエントリー「香港に介入する米英と香港民族」で取り上げたことがありますけれども、昨年8月にイギリス下院外交委員会のトム・トゥーゲンハット委員長がBNOパスポートを持つ人にイギリス本土の国籍を与えよう、と提案したのですね。
この提案についてBNO保有者にイギリスの市民権を認めるべきだという英議会あての署名が10万人を超え、香港のBNO保有者も2018年末時点の17万人未満から約35万人に倍増しています。
香港におけるBNOは1997年の香港返還より前に導入されたもので、返還前に香港に住んでいた住民であれば申請できるため、現在でも約290万人が保持する資格があるそうです。
ラーブ英外相の発言について、イギリス下院外交特別委員会委員長は「素晴らしい対応だが、われわれはもっとしなければならない。イギリス国民と同じ完全な権利を認めるべきだ」と表明していますけれども。今回、ラーブ英外相がBNO見直しで将来的な英国市民権を獲得する手段になると発言したことは、事実上のイギリス国籍を与えることになると思います。
その意味では、イギリスはイギリスで元宗主国としての責任を果たそうとしているようにも見えます。
3.中国本土の香港パージ
こうしたイギリスの動きに対し、中国共産党の機関紙、環球時報は反発するどころか「中国のインターネットユーザーはイギリス政府の提案を大歓迎している」と報じました。
記事では「イギリスに香港暴徒全員を受け入れるよう要請する……イギリスの支援を支持します! イギリスがそうできることを願っています。全ての裏切り者をイギリスに。中国領土はこれらの人々を必要としません」というネットの声を伝えています。
中には「暴徒たちは、できるだけ早く香港を離れて、残る人たちが"東洋の真珠(香港)"に秩序の回復と繁栄をもたらすことに集中できるようにしてほしい」とか「イギリスの皆さん。1年でも短すぎます。暴徒に市民権や永住権を与えてほしい」という声もあるそうです。
これだけを見ると、中国側も香港をパージしたがっているとも考えられなくもありません。
4.中国の野心
最近、環球時報の編集長である胡錫進氏が自身のブログで「これは、アメリカにとって過去数世紀で最大な恥辱」というタイトルの論評を発表しました。
論評では、「新型コロナウイルスによる死者が10万人を超えたのは、超大国のアメリカにとって過去数世紀で最大の恥辱である。これは、アメリカの政治制度の衰退を反映しており、政府は公然と無策ぶりを示している。罷免されたり牢屋に入ったりした役人もいなければ、ホワイトハウスはこの悲劇的な数字に関する人道主義に基づくスピーチもしていない」と、アメリカでの武漢ウイルスによる死者の増加の原因が、政治体制の衰退にあるとしました。
そして、アメリカが香港国家安全法に猛反対していることについては、「アメリカ人になんとなく、現在の世界の最大の人権の悲劇は香港に国家安全法が作られることであり、アメリカで新型コロナウイルスにより10万人が生命を失い、さらに多くの人が死亡し続けることではないと思わせようとしている」と、ウイルス対策の失策から国民の目を逸らすためと断じました。
胡錫進氏は、その上で、「人道主義は、隅に置かれたままの美しい花瓶のように埃をかぶっている。老人、弱者、病人、障害者を死なせ、貧しい人を死なせ、それでもアメリカの株式市場で株価は上がった。これが、アメリカ政府が必要とする"成績"であり、これこそが"偉大な資本主義"である」と扱き下ろしています。
筆者は3月2日のエントリー「ローマ教皇の新型コロナウイルス感染と中国の逆転戦略」で、中国は武漢ウイルスを逆利用して自国の政治体制を正当化してくると述べましたですけれども、胡錫進氏の論評はその流れに沿ったもののようにも見えます。
それを考えると、もしも、中国が香港をパージしたがっているのならば、それは、資本主義の精神が残る香港を"厄介払い"することで、自身の共産党政治体制の純化というか西側の政治体制を完全に拒否する意思を顕わにしたと言えるのかもしれません。
5月28日に閉幕した全人代で、湖南省株洲市の党委員会副書記を務める陽衛国氏が「国内で開かれる重要な記者会見の外国語の通訳を無くそう」と提案する一幕がありました。
その理由は、国連でも中国語が公用語として採用され外交上使用される言語として法的地位を得ていることや、中国の文化に対する自信を示す為でもあり、更に政府が関わるような記者会見で、外国語の通訳をなくして直接中国語を通じてメッセージを発信すれば、中華文化を全世界に効果的に伝え、中国語の影響力や中国の国際世論の主導権を増強できるからだとしています。
中国の政治体制や中華文明が主流になるべきだという野心すら感じます。
中国の自信と野望は、もしかしたら、アメリカと真っ向ぶつかっても問題ないとするくらいに肥大化しているのかもしれません。
中国の孤立化の流れは益々加速しそうですね。
この記事へのコメント
ken
日比野
確かに怪しいですね。
コメントをいただいたので、急遽6/3付記事を差し替えて、このアメリカ暴動についてエントリーしました。
そちらもよろしくお願いいたします。