裏目の戦狼

今日はこの話題です。
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1.深刻な懸念


6月10日、中国外務省の華春瑩報道官は定例会見で、「香港国家安全法制」を巡って安倍総理がこの日の衆議院予算委員会で、「香港で起こっているさまざまな出来事に日本も憂慮を表明している……香港の問題も、一国二制度を前提にしっかりと考えていくことにおいて、G7で声明を発出していくという考え方で日本がリードしていきたい」と、G7で共同声明作成を主導していく考えを示したことに対し「既に日本側に深刻な懸念を表明した……完全に中国の内政に属するものであり、いかなる外国も干渉する権利はない……関係国は国際法と国際関係の基本準則を順守すべきだ」と牽制しました。

50年は維持すると世界に約束した「一国二制度」を25年も経たずして反故にするばかりか、内政問題だと居直るのは世界に受け入られる態度ではありません。

まぁ、「深刻な懸念」という表現は、日本政府が香港問題で「強い懸念」を表明したことに対する意趣返し的なものもあるのかもしれませんけれども、まぁ、即座に反応したところを見ると、それなりに効いているということなのだと思われます。


2.世界中に喧嘩を売る中国


武漢ウイルス問題このかた、中国は世界中に喧嘩を売っています。

6月第一週、中国の劉暁明駐英大使は「香港の問題は外部の干渉を一切受けない……中国の内政問題への干渉をやめる」ようイギリスの政治家に警告。

また、ジョンソン政権が国内の第5世代(5G)移動通信ネットワークへの通信機器サプライヤーを多様化しようとする計画について、「英国が中国の信頼できる真のパートナーかどうかを測るリトマス試験だ」と述べ、更に、5G通信網でファーウェイの代替企業を探す計画は、中国企業がイギリスに原子炉と高速鉄道を建設する計画を台無しにする可能性があると実業界首脳に語ったそうです。

通信網で排除されるとみるや、関係の薄い原子炉や高速鉄道の計画を止めると脅す。

中国の傲慢な外交はオーストラリアに対しても行っています。

6月8日、中国外務省の華春瑩報道局長は記者会見でオーストラリア政府に対し「中国人の安全と権利を守るために適切な措置をとるように求める」と表明した上で、中国政府が中国人に対し、オーストラリアに旅行しないよう勧告したと説明。その理由を「オーストラリアで中国人を差別する動きが相次いでいるからだ」としました。また、「オーストラリアの一部の政治家が新型コロナウイルスを中国ウイルスと呼んでいる」とも批判しました。

この指摘に、オーストラリア側は「中国側の非難には根拠がない」と強く反発。今回の中国による旅行差し止め措置は、オーストラリアへの圧力の一環だとの受け止め方が広がっています。
中国は居丈高な外交をしていい気分になっているのかもしれませんけれども、今の所、逆効果にしかなっていません。


3.戦狼外交


こうした、中国の自己主張を強め、他国に喧嘩をうる外交は中国では「戦狼外交」と呼ばれています。

これは、2015年と2017年にシリーズで公開された中国のアクション映画『ウルフ・オブ・ウォー(Wolf Warrior)』に擬えたものです。

件の作品は中国人民解放軍特殊部隊「戦狼(Wolf Warrior)」の元隊員の主人公が、演習途中で米国人傭兵軍団の襲撃にあい仲間を失ったことから、傭兵軍団と死闘を繰り広げる物語なのだそうですけれども、この映画が大ヒットを記録した時期の前後、米中間での貿易摩擦問題や両者の対立が背景となり、中国の政府関係者や外交官が戦狼的といえる手法で広報合戦を展開するようになったといわれています。

4月16日、中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」は「戦狼外交」について取り上げ、「中国が唯々諾々と従う時代はとっくに終わった」と宣言しています。

2月下旬に趙立堅副報道局長が中国外交部のスポークスパーソンとして就任すると、「戦う外交官」として強硬な発言を繰り返し、また各国駐在の中国大使をはじめとする外交官も強気の発言を行う様子が中国国内外で報じられています。

こちらに、中国の劉暁明駐英大使が4月28日にBBCのインタビューで、中国は新型コロナについて謝罪するかと問われ、猛然と反論する様子が報じられています。

一部引用します。
「新型コロナウイルスの発生源が中国であるということに同意しますか?」と問われた劉大使は、「武漢で最初にウイルスが発見されたということとウイルスの起源が武漢であるということは決してイコールではありません。BBCを含め多くの情報を基にすると、ウイルスはあらゆる場所で発生する可能性があります。空母や潜水艦内、中国との往来が極めて少ない国でも見つかりました。中国に行ったことがない人々のグループからも見つかっています。そのため、ウイルスが中国起源だと言うことはできません」と主張した。

【中略】

続いて、司会者が「ウイルスは武漢で初めて人から人への感染が起こり、爆発しました。すでに発生した現象について深く独立的な調査を行い、真相を知ることは重要だと思いませんか?私たちはその情報を利用することで同じ悲劇の発生を回避することができます」と質問すると、劉大使は「中国での経緯を説明させてください。張継先(ジャン・ジーシエン)医師が2019年12月27日に原因不明の肺炎の症例を報告しました。中国衛生部門と疾病予防コントロールセンターは4日後、つまり12月31日に最も早い時間で世界保健機関(WHO)およびその他の国と情報を共有しました。中国はスピーディーにWHOと病原体をシェアし、スピーディーにWHOやその他の国とウイルスの遺伝子情報を共有しました」と述べた。

これに対し、司会者は劉大使の言葉を遮り、「あなたは非常に重要な点を見落としています。12月30日に武漢の李文亮(リー・ウェンリアン)医師が微信(WeChat)のグループで同僚の医師らに、武漢で非常に懸念される新たな疾病が見つかったと知らせ、感染を避けるために絶対に防護服を着用するようにとアドバイスしました。数日後、彼は公安局に呼び出され、うその情報を流し、社会秩序を著しく混乱させたと認めさせられました。それから1カ月、中国政府はずっと真相を隠そうとしていました」と指摘した。

すると劉大使は、「なぜ一部の人たちがいわゆる“独立した調査”を吹聴しているのか分かりました。無実の罪をでっちあげて、それを口実に中国が真相を隠していると批判しようと企んでいるのです。しかし、実際は李文亮医師は『警鐘を鳴らした人』ではありません。先ほど申し上げたように、張継先医師が李医師よりも3日早く(武漢市の)衛生部門に報告しており、武漢市はすぐに中央政府に報告しました。その4日後、つまり李医師がWeChatで情報を流した1日後には、中国政府はWHOとその他の国に情報を共有しました。事実を隠すなどということは全く存在していません」と主張した。
このように、劉大使は中国への批判はでっち上げだと反発していますけれども、その裏で原子炉建設や高速鉄道建設を止めるぞと脅しているのですから説得力がありません。




4.裏目に出ている中国の情報戦


けれども、実際には、中国が「戦狼」してみせればみせるほど、中国の印象は悪くなっていきます。

アメリカのピュー・リサーチ・センターの3月の調査によれば、中国を「好ましくない(unfavorable)」と回答したアメリカ世論は66%と過去最高を記録。一方「好ましい(favorable)」との回答は26%と過去最低を記録しています。

更に欧州でも中国との経済的な結びつきの強い国までもが、中国との貿易だけでなく、通信技術や医療機器・医薬品などが中国依存になっている現状を憂慮する見方を示すようになってきています。

この「戦狼外交」について、流石に中国国内でも疑問が提示され始め、中国社会科学院が運営するサイトは、4月24日付の記事、「中国に対する外部からの攻撃への対応能力向上に注力せよ」で、世界との世論戦に勝利するために中国がとるべきコミュニケーション手段として次の5つを挙げています。
1)中国の名誉と権利を守るために、米国メディアをはじめとするメディアによる中国に対する攻撃の基本的な状況、特徴、傾向を深く理解し、深く考え、合理的かつ適切に対応することが必要である。

2)コロナウイルスが世界中に広がったことによって、海外メディアによる中国に対する攻撃的な報道が増加していることを受け、政府メディア、民間メディア、メディアワークアソシエーション、外交部、重要企業、シンクタンク等が海外世論を監視するための多元的なメカニズム(ネットワーク)を構築し、米国等主要な外国メディアの動態を24時間体制で監視し、中国に対する誹謗・中傷・攻撃への迅速かつ強力な対応と反撃を組織し、否定的な世論の発信源と拡散をカバーするよう努める。

3) 海外メディアが(コロナウイルス対応における)中国の欠点を批判していることに対して、中国メディアは、真実を見極めた上で、客観的かつ公平に外部に対して事実を理解させるべきである。

4) TwitterやFacebookに代わるものとしてWeiboやWeChat等の中国のソーシャルプラットフォームを使い、宣伝する。

5)言葉の応酬だけでなく、冷静かつ客観的に、理性を持って人々を説得し、平等・協力・善意の概念を解き放つなど、メディア対応の方法や取り組み方を改善すべきである。

6)海外のメディアの運営の法則と世論の動向を熟知し、外国語での評論を書くことに長けた複合的なコミュニケーション能力を持った人材の育成を強化すべきである。
これを読むだけで、如何に中国が工作と宣伝によって世論を引っ繰り返そうと企んでいることが分かります。

対策の中には、"真実を見極めた上で"とか、"冷静かつ客観的に"とか修辞していますけれども、その述語は"理解させる"であったり"説得する"であって、事実を明らかにするなんて文言は見当たりません。

先に取り上げた、BBCのインタビューで、司会者から「新型コロナウイルスの発生源が中国であると認めるか?」と問われた劉暁明駐英大使は「ウイルスはあらゆる場所で見つかっているから、中国起源だとはいえない」と時系列を無視した答えをしていますし、これに対しBBCが「最初の病例が中国で発生したのは間違いない。重要なのはウイルスが最初はどこから来たのかということではないか?」と、劉大使が無視した時系列について、冷静にツッコミを入れられると、今度は「私はこの問題は科学者に回答を任せるべきだ」と答える始末です。

ここの何処に"冷静かつ客観的な"視点があるのか分かりません。

少数の人を短期間だけ騙すのは出来るかもしれませんけれども、大勢の人を長期間騙すことは出来ません。

従って、中国は民主国家を相手にした宣伝戦は、誰が見てもその通りだ、と思わせるだけの態度なり、証拠なりを出さなければなりません。

それを鉄道建設を止めるだの、旅行にいくなだのといって圧力を掛けて黙らせようとするのは、結局、民主国家の民衆を納得させられるものが出せないからでしょう。

中国が「戦狼外交」を見直すのかどうか分かりませんけれども、今のまま突っ走れば、やはり民主国家から排除される流れは避けようがないのではないかと思いますね。


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