
1.南北連絡事務所爆破
6月16日、北朝鮮の朝鮮中央テレビは、北朝鮮の開城工業団地にある南北連絡事務所について「完全に破壊された」と報じました。
更に朝鮮中央テレビは南北連絡事務所から煙が上がる様子を撮影した映像を公開。テレビニュースでは、アナウンサーが「ゴミ共とこれを黙認した者らが罪の代価を十分受け取らなければならないという激怒した民心に従い、北南(南北)間の全ての通信連絡線を遮断したのに続き、我が方の該当部門では開城工業団地にあった北南共同連絡事務所を完全破壊する措置を実行した。16日14時50分、大きな爆音と共に北南共同連絡事務所が悲惨に破壊された」と報じています。
朝鮮半島筋によると、4階建ての建物の3、4階は失われ、1、2階は鉄骨だけが残っているようです。
南北共同連絡事務所は、2018月年9月に開設され、韓国と北朝鮮の当局者の協議の場になっていたのですけれども、韓国の脱北者団体が、金正恩委員長を批判するビラを撒いたことへの報復措置として、北朝鮮側が閉鎖し、破壊を予告する談話も出していました。
爆破が本当であれば、予告通り実施した形です。
2.不純な提案を許可しない
この爆破に国内外メディアは文在寅政権への大きな打撃となるだろうと伝えています。
CNNは「今回の爆破は非常に象徴的であり、約3年前に「新しい平和の時代」を宣言した両国間の関係が変曲点を迎える可能性がある」と報じ、朝日も「金正恩の妹の予告通り、北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破した……文在寅政権には対北政策成果の象徴の破壊によって大きな打撃になるしかない」と伝えています。
文大統領が、あれ程北朝鮮に尽くして、この仕打ちですからね、まぁ、そうとしか言い様がありません。
しかし、北朝鮮は更に追い打ちを掛けます。
17日、朝鮮中央通信は朝鮮人民軍総参謀部の報道官談話として、開城工業団地や金剛山観光地区に軍の部隊を配備するとし、また、軍事境界線近くや黄海での軍事演習を再開して戦闘準備を整えると報じました。
そして更に、韓国の文在寅大統領が特使派遣を北朝鮮に提案したものの、金与正氏が「不純な提案を許可しない」と断ったことも明らかにしています。
完全に見下されています。
また、重病説が囁かれている金正恩委員長が一向に姿を見せず、妹の与正氏が前面に出て差配しているところを見ると、或いは、権力を謙譲されたのだと国内外に見せつける為にあえて強硬に振舞って見せているようにも見えなくもありません。
3.弱腰の文在寅
対する韓国は、16日、国家安全保障会議(NSC)常任委会議を緊急招集。会議後、NSC事務処長は「北朝鮮側の南北共同連絡事務所破壊は南北関係の発展と韓半島の平和定着を望むすべての者の期待に背く行為だ……政府は、これによって発生するすべての事態の責任が全的に北朝鮮側にあることを確認した……北朝鮮側が状況を悪化させる措置を取り続ける場合、我々はその措置に強力に対応することを厳重に警告する」との声明を発表したました。
まぁ、声明自身は至極当たり前の内容ですし、休戦状態にある国家としては普通の反応だと思います。
けれども、注意したいのは、この国家安全保障会議を主催したのは、文在寅大統領ではないという点です。
当初は文在寅大統領が主宰するNSCの全体会議が開催されるとの見方もあったのですけれども、韓国大統領府は、鄭義溶・青瓦台国家安保室長鄭室長の主宰による常任委会議として行ったのですね。
大統領が主宰しない、全体会議ではなく、常任委会議に留めた。これは南北共同連絡事務所の破壊について、韓国は重大事だと考えていないというメッセージを北朝鮮に送ったことになります。また同時に大統領自ら対抗姿勢を見せなかったことで、北朝鮮に頭が上がらないということを内外に示していることにもなりかねません。
北朝鮮は、文大統領の弱腰を見て、宣言通り、開城工業団地や金剛山観光地区への軍の配備や、軍事境界線近くや黄海での軍事演習をやるのではないかと思いますし、既に軍の配備も終わったとの情報も流れています。
4.苦しい北朝鮮
では、なぜ北朝鮮が強硬な態度に出てきたのか。
ネット等では、例のフッ化水素など、これまで韓国が横流ししていた物資が入らなくなったから催促しているのだといった説も流れているようですけれども、事態はもっと深刻になっている可能性があります。
16日、読売新聞は「国連安全保障理事会と米国などの経済制裁で北朝鮮の外貨が早ければ2023年には枯渇する可能性がある」と報じました。
それによると、北朝鮮は2017年から続く制裁で外貨準備高が急減する中、武漢ウイルスの影響で北朝鮮が国境を封鎖したことで物資の配給が遅れているのだそうです。
読売新聞は「最近、北朝鮮が脱北者団体の対北朝鮮ビラ散布などを口実に韓国を圧力を加えているのもこうした苦境による焦りの表れとみられる」とし、韓国政府関係者の「金正恩国務委員長が個人的に関係を築いたトランプ大統領の再選が不透明なうえ、制裁解除の見通しが立たないのが大きな影響を与えている」との発言も取り上げています。
この指摘通り、2023年に外貨が枯渇するとすると、北朝鮮はかなり苦しい立場に追い込まれることになります。
元駐韓国特命全権大使である武藤正敏氏は、北朝鮮は韓国がアメリカを説得できず、対北朝鮮制裁決議の離脱もしない現状について、文政権が総選挙で大勝利を収めても、姿勢が変わらないのを見て、今回のような強硬な政策を決断にしたのだ、と述べています。
武藤氏は、文大統領が北朝鮮の軍事行動を牽制するためにすべきことは、アメリカのトランプ大統領との電話会談をしてアメリカが韓国の後ろに控えていることを北朝鮮に認識させること、または在韓米軍の駐留経費負担を増額させ、米韓の懸案だった本件を決着させることだと指摘していますけれども、今回の事態にNSCの全体会議を主催せず、部下に任せてしまうようでは、碌な決断が出来るとも思えません。
韓国に特大の文災害が降りかかる日は近いのかもしれませんね。
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