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1.北朝鮮による報復の聖戦
6月20日、北朝鮮の朝鮮中央テレビは、韓国に向けて飛ばすビラの準備が進められている様子を写した写真を公開しました。
写真には、文在寅大統領の顔が印刷されたビラに大量のたばこの吸い殻がまかれている写真もあるそうです。
先日、韓国の脱北者団体が金正恩党委員長を批判するビラを撒いていますけれども、北朝鮮はこれに対する「報復の聖戦」と位置付けています。
朝鮮中央テレビは、「各地で大規模な対南ビラ散布のための準備が猛烈に進められている……北南関係を破綻させた南の当局を糾弾する告発状が山のように積まれている」とし、準備が整えば大規模なビラの散布を実施すると報じています。
これに対し、韓国統一省は、韓国から北朝鮮に向けたビラの散布を徹底的に取り締まっているとのコメントを発表し、「ビラの散布は南北関係の発展に役立たない」と、計画の中断を求めました。
けれども、韓国は口先だけの嘘つきだと散々に罵倒している北朝鮮に対して、「ビラの散布を徹底的に取り締まっている」といったところで、また嘘をついて騙そうとしているのか、と冷たく突き放されるのが落ちです。
韓国政府の発表は、それこそ南北緊張の緩和に役立たないと思いますね。
2.北朝鮮が定めた四つの目標
先日、北朝鮮は開城工業地区内の「南北連絡事務所」を爆破しましたけれども、その後、韓国に対する4つの目標を定めました。
それは次の通りです。
1.金剛山観光地区と開城工業地区に連隊級北朝鮮軍部隊を再配置今回の対韓ビラは上記のうちの4番目に相当するものと思われます。
2.非武装地帯(DMZ)から撤退したミンギョン警戒所(見張り台)の復活
3.西南海上前線を含む北朝鮮軍全体に1号戦闘勤務体系に改善し、各種の軍事訓練再開
4.DMZ全体において、民間人の出入りエリアを開放。民間人による大規模な対韓ビラ散布について、段階別実践行動に突入
NK知識人連帯代表で2003年に脱北した金興光(キム・フンガン)氏は、こうした金与正氏の振舞いについて、挑発行動の前後に金正恩委員長の影が見えない点、挑発行動が金与正氏の存在と地位を高め、指揮命令体制を確立することを目指している点、そして、反韓の名分を立てて挑発するやり方が金正恩委員長とは違っている点の3点を上げ、最近の北朝鮮の最高権力者は金与正氏のように見える、と述べています。
取り分け、金興光氏は2番目について、これは「党の唯一領導体系確立の10大原則」に完全に違反する現象だと指摘しています。
3.党の唯一的領導体系確立の十大原則
「党の唯一的領導体系確立の十大原則」とは、北朝鮮の朝鮮労働党が1974年に定めた、全国民、全組織の行動規範で事実上の最高規範です。北朝鮮の中学生以上の全国民に暗記、暗唱が義務づけられ、この「10大原則」に違反することは犯罪とされ、処罰の対象となるとされています。
この十大原則は2013年に金正恩委員長により改定・改題されました。
その改定された条文の概要は次の通りです。
第1条 全社会を金日成・金正日主義化するために命をささげて闘争するべきである。「唯一的領導体系」とは、ただ一人の領導者だけが北朝鮮社会をあまねく指導し、あらゆる決定権限を持つとするシステムのことで要するに独裁制のことです。
第2条 偉大な金日成同志と金正日同志を我が党と人民の永遠の首領、主体の太陽として高く奉じるべきである。
第3条 偉大な金日成同志と金正日同志の権威、党の権威を絶対化し、決死擁護すべきである。
第4条 偉大な金日成同志と金正日同志の革命思想とその具現である党の路線と政策で徹底的に武装すべきである。
第5条 偉大な金日成同志と金正日同志の遺訓、党の路線と方針貫徹で無条件性の原則を徹底的に守るべきである。
第6条 領導者を中心とする全党の思想意志的統一と革命的団結をあらゆる面から強化すべきである。
第7条 偉大な金日成同志と金正日同志に倣い、高尚な精神道徳的風貌と革命的事業方法、人民的事業作風を備えるべきである。
第8条 党と首領が抱かせてくれた政治的生命を大切に刻み、党の信任と配慮に高い政治的自覚と事業実績で応えるべきである。
第9条 党の唯一的領導の下に全党、全国、全軍が一つとなって動く強い組織規律を打ち立てるべきである。
第10条 偉大な金日成同志が開拓し、金日成同志と金正日同志が導いて来た主体革命偉業、先軍革命偉業を代を継いで最後まで継承・完成すべきである。
第9条で「党の唯一的領導の下に全党、全国、全軍が一つとなって動く」となっているのに対し、金正恩委員長がいる限り、第6条で規定されている「党の唯一的領導者」でない筈の金与正氏が党や軍を動かすのは、明らかにこの十大原則に反しています。
これが反しない条件は唯一つ。金与正氏が「党の唯一的領導者」である場合だけです。
4.金与正の無慈悲なチャーハン
前述の金興光氏は、「金与正氏が挑発行動を続けるのは、自身の新政体制の確立を急ぐためではり、今の挑発を続け、確実に権力基盤を固めた後で来年あたり南北関係改善の秋波を投げ掛ける。来年は、韓国大統領選挙の前年にあたり、韓国政府は喜んでこの餌に喰いついてくるだろう。金与正氏はそこまで見通しているのだ」と指摘しています。
金興光氏の指摘の通りだとすれば、金与正氏は連日挑発を続けては、ビラを撒いたり、監視所を作ったり、軍を配置したりといった具体的行動を公開した上で、決定的破局には至らないように、わざと"牛歩"の歩みで進めてくることも考えられます。
いわゆるチャーハンをちょっとづつ作ってみせるという訳です。
ただ筆者がちょっと気になるのは、金与正氏の談話にやたらと、韓国がビラを撒いたことを批判している点です。
「南北緊張はどこまでエスカレートするか」のエントリーでも述べましたけれども、韓国が、北朝鮮にビラを散布する『人間のくず』の脱北者を罰して見せることをすれば、金与正氏がそれを持って成果とし、権力基盤を固め、鉾を収めて見せるのではないかと希望的観測を持ってしまいます。
6月15日、世論調査会社リアルメーターが施行した6月第2週の世論調査では、韓国の文在寅大統領の支持率は3週連続で下落し、60%を割り込んでいます。
このまま金与正氏が、"チャーハン"を少しずつ炒め、ずるずると年末まで引っ張れば、文政権の支持率とてどうなるか分かりません。
金与正氏の"チャーハン"は意外と文在寅大統領を追いつめるのかもしれませんね。
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