
1.もっと対応必要だったと後悔するスウェーデン
6月2日、ブラジルの保健省は武漢ウイルス感染症による死者が前日から1262人増え、3万1199人となったと発表しました。死者数は世界で4番目に多く、累計感染者数は55万5383人とアメリカに次いで2番目に多くなっています。
未だに感染が拡大しているブラジルですけれども、2日、ボルソナロ大統領は大統領公邸で支持者を前に「全ての死を気の毒に思うが、あらゆる人は死ぬ宿命にある」と述べました。
ブラジルはこのままノーガード戦法で突っ込む構えを崩していません。
一方、ノーガード戦法を採ったことを後悔し始めている国もあります。スウェーデンです。
スウェーデン政府の武漢ウイルス対策を指揮してきた疫学者アンデシュ・テグネル氏は、ラジオインタビューで「今持っている同じ知識で同じ病気に見舞われた場合、我々の対応はスウェーデンが行ったことと他国が実施したことの間のどこかにあると思う」と述べています。
スウェーデンの死亡率は10万人当たり43人と世界でも最悪クラスで、隣国のデンマークとノルウェーよりずっと高くなっています。
テグネル氏は「スウェーデンでわれわれがやってきたことに改善の余地があるのは明らかだ」と話し、採用した戦略があまりにも多数の死者を出す結果になったと初めて公の場で認めました。
2.感染確認が増えることは覚悟の上
勿論、非常事態宣言が解除された日本でも、武漢ウイルスの脅威が無くなった訳ではなく、各地でぽつぽつと新規感染者が報告されています。
北九州市では、5月23日から6月3日まで12日連続で計124人の感染が確認。市内の医療機関3ヶ所、特別養護老人ホーム1ヶ所、小学校1カ所の計5ヶ所でクラスターが発生したと見られています。これら感染者が出た医療機関や学校では外来診療の中止や臨時休校が続き、市民は外出自粛を求められています。
中には武漢ウイルスとは無関係の症状で救急搬送された患者が、実は感染していたと分かる事例が相次いでいるそうで、市中感染は見えないところで広がっている可能性も考えられます。
ただ、急に北九州市で新規感染者が増えたのは、PCR検査方針を見直したことも影響しているとも言われています。
これまで北九州市は、濃厚接触者のうち症状のある人だけを対象に検査していたのですけれども、5月25日から症状がない人も含め濃厚接触者全員をPCR検査の対象としています。
5月30日、北九州市保健衛生部の東田倫子部長は会見で「感染確認が増えることは覚悟の上で、検査方針の見直しを行った。感染確認増加はある面、当然だといえるが、市民は不安にならずに感染予防に努めてほしい」と述べ、市の担当者は「感染者の把握を急ぐことで、知らぬ間の感染拡大を防ぎ、早期収束を目指す」とその狙いを明かしています。
北九州市は6月3日時点で864人の濃厚接触者を特定し、うち748人の検査を終えているのですけれども、感染が確認された124人のうち、無症状者は69人に上るそうです。感染しても半分以上は無症状だという訳です。
今回の感染拡大について、九州大大学院の柳教授は、「感染確認がゼロの間も市内で無症状や軽症の感染者が出ていた可能性と、市外から持ち込まれた可能性の2つがある」とした上で、積極的なPCR検査で無症状の感染者を洗い出す運用は効果的であり、各自治体は第2波への備えを徹底する必要があると指摘しています。
まぁ、検査体制を見直して濃厚接触者を全て検査するようにしたというのは裏を返せば、それだけ余裕が出来たということであり、当初は発熱があり、重篤になる危険がある感染者を優先してPCR検査をして医療崩壊を防ぎながら時間を稼ぎ、一月半の自粛要請を得て、第一波の武漢ウイルスの感染爆発を抑えたのは評価してもよいのではないかと思います。
3.中国は重要な資料を隠し最小限の資料だけ提供した
ただ、武漢ウイルスに対しては、ブラジルやスウェーデンのようなノーガード戦法もあれば、強力なロックダウンを採用するなど、各国によってこれほど対応にばらつきが出たのも、ひとつはWHOが特に初期の段階において中々明確な指針や提言を出さずに放置してしまったことも原因ではないかと思います。
アメリカのトランプ大統領から中国寄りだと批判されているWHOですけれども、6月2日、香港のサウスチャイナモーニングポストは、WHOの内部文書とEメール、内部の職員達とのインタビューを総合した結果として、WHO内部では中国の資料提供が遅いという不満がかなりあったと報じています。
それによると、去る1月に中国政府の研究所が武漢ウイルスのDNAを完全解読したにもかかわらず、中国は一週間以上経ってからその情報を公開したそうです。
WHOは表向き、中国の迅速な対応が光っていると称賛していたのですけれども、実際の非公開会議では、WHO関係者たちの間で、中国が武漢ウイルス拡散の推移と危険性を判断するのに十分な資料を共有しないままでいることに対して、不満の声が出ていたと伝えています。
WHO中国担当最高委員会の責任者は「中国官営放送であるCCTVに出演する15分前になって、やっと情報を我々に提供した」と暴露。
これについてサウスチャイナモーニングポストは、WHOがより多くの情報を速やかに得るために中国を褒め称えたとみられると伝えています。
酷いものです。中国共産党政府を褒め称えて情報が出てくるなどと、考えが甘いと言う他ありません。
4.テドロスの責任
ただ、感染症が発生した当事国の政府を公然と批判すると、情報共有をはじめ協力に消極的になる事例も過去にはあったようです。
WHOでアフリカ地域の緊急事態対応を統括するマイケル・ヤオ氏は、アフリカでコレラが発生したことを公表した際、プレッシャーを感じてWHOとの連絡を絶ってしまう国をいくつか見てきたとし、「データにアクセスできなくなり、最低でも特定の疾病のリスクを評価するだけの能力さえ利用できなくなってしまう」と述べています。
WHOのテドロス事務局長は、1月末に訪中していますけれども、関係者によれば、その際、習指導部への支持を公然と表明すれば、中国をライバル視する国を怒らせるリスクがあることを承知していたのだそうです。けれども、それと同時に武漢ウイルスが世界に広がっていく中で、中国政府の協力を失うリスクの方が大きいとも考えていたそうです。
訪中の際、テドロス事務局長の側近らは、対外的な印象を考慮して、あまり大仰でない文言を使うほうがいいとアドバイスしたのですけれども、テドロス事務局長は首を縦には振りませんでした。
関係者は「メッセージがどのように受け取られるかは分かっていた。テドロス氏はそうした面でやや脇の甘いときがある……その一方で、彼は頑固でもある」と述べていますから、脇で見ても甘いと思われていたということです。
結局、テドロス事務局長は中国指導部の対応を公の場で大げさに称賛したのですけれども、その後、中国当局者が内部告発を握りつぶし、感染症発生の情報を隠蔽していたとする証拠が次々と出てくることとなり、一部のWHO加盟国から、テドロス事務局長は、中国寄りだとの批判を招くこととなりました。
結果論ではありますけれども、中国を褒め称えて情報を引き出そうというテドロス事務局長の判断は現時点では間違っていたというべきだと思われます。
ただ最近になって、中国は重要な資料を隠し、最小限の資料だけ提供していたという報道が出てきたということは、それだけWHO内部でも、中国寄りになるのは拙いという声が大きくなっていることではないかと思います。
或いは、トランプ大統領がWHOから脱退すると宣言したことが効いているのかもしれません。
いずれにせよ、武漢ウイルスが落ち着いた後になるかもしれませんけれども、テドロス事務局長の責任が問われることは間違いないと思いますね。
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