
1.共同通信の「日本、中国批判声明に参加拒否」記事
香港安全法制めぐる中国批判声明に関する共同通信の記事がフェイクではないかと話題になっています。
件の記事は「香港安全法制めぐる中国批判声明に日本は参加拒否 欧米は失望も」というもので、5月28日に米英豪加の4ヶ国が出した中国を批判する共同声明への参加を拒んだというものです。
この記事には反論が殺到し、自民党の片山さつき議員は外務次官と話したとして、G7で香港問題につき中国大使を呼んで抗議したのは日本だけであり、その声明には独仏も参加していないとツイート。
同じく自民の山田宏議員も、当初各国足並みの揃わない時期未定の共同声明ではなく、速やかに明確な形でわが国が独自の声明を出した。後追いでEUが同様の「深い懸念」声明となったというのが事実だと、酷い印象操作記事と批判しています。
確かにEUが「深い懸念」の声明をしたのが5月29日ですから、山田議員の指摘するとおりです。
何より、件の共同通信の記事をそのまま転載していた産経がその後記事を削除していることからみても、フェイクの可能性はあると思われます。
2.日本語版と英語版の違い
件の共同の記事は、いかにも日本が中国に配慮したせいで欧米諸国との亀裂を生むかのような書き方をしているのですけれども、同じ共同の記事でも英語版だと少しニュアンスが異なります。
次に件の記事の日本語版と英語版の要旨を比較してみます。
日本語版:「香港安全法制めぐる中国批判声明に日本は参加拒否 欧米は失望も」
・香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していた
・米国など関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている。
・中国の習近平国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙いがあるとみられる。
・日本の決断は欧米諸国との亀裂を生む恐れがある。
大まかな主旨そのものはどちらも同じなのですけれども、英語版は日本の決定のみならず、日本が中国に抗議していること、および中国が日本に圧力を掛けていることなど、その背景も報じているのに対し、日本語版はその背景を記載していないという違いがあります。
英語版:「Japan opts not to join U.S., others in rapping China for Hong Kong law」
・中国が香港に安全保障法を課すことについて、アメリカ、イギリス、オーストラリア、およびカナダはその動きに対する彼らの「深い懸念」を表明する声明を出した。
・日本は声明発表に参加するようために、水面下でアプローチされたが、拒否した。
・東京の決定はワシントンなどに失望して受け取られた。
・東京の決定は安全保障上の重要な同盟国である米国や、隣国であり世界第2位の経済大国である中国との関係を管理する上で、日本が直面している困難なバランスをとる行為だ
・中国と米国の間の緊張がさらに高まると、習近平国家主席を国賓として迎えるという日本の計画も複雑になる。習近平の訪問が延期された後の日付は設定されていない。
・一方、日本は、中国が香港に法律を強制しようとする動きについて、「深刻な懸念」を表明した。
・中国外務省の趙麗賢報道官は、中国の内政への明白な干渉だと共同声明を強く批判した。
・中国外務省の趙麗賢報道官は、東京に対して、米国や欧州諸国と距離を置くようにとの警告を発した。
3.みなさん、決して、欺されてはいけません!
日本語版の記事で、その背景を載せていないことが、意図的なものなのかどうかは分かりませんけれども、そもそもにして記事の内容自体からしてフェイクではないのかという指摘もあります。
自民の長尾たかし議員は「米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたという事実はないようだ」として、誤報の可能性をツイートしています。
また、自民の青山繁晴議員もブログで、かつて自身が共同通信の記者であった経験も踏まえた上で、アメリカ政府内のごくごく一部の人物の雑談に基づいて原稿を書いていると考えている、と述べ、「日本政府の内部で事実確認をしないまま、あるいはできないまま、一方的にアメリカ側のそれも一部の言いぶりをそのまま記事にした疑いが濃い」と辛辣に批判しています。
もしこの指摘が正しいとすれば、共同通信は、裏取りも出来ていない記事を下記、さらに日本語版ではその背景すら載せず、輪を掛けてあやふやにした記事を掲載したということになります。
4.だしいりたまご
今回の武漢ウイルスに関連して、テレビやネットでは様々な医療情報が錯綜しています。WHOからして、最初はマスクなど要らないとしていたのが、最近になって効果があるから推奨するなんていっている状況です。
こうしたネットを含めた不確かな医療情報について、「外科医けいゆう」の名で"わかりやすい医療情報"をツイートしている山本健人氏は、ネット情報を見極めるポイントとして、7つの頭文字をとって「だしいりたまご」というものを提案しています。
それは次の通りです。
①「だ」=誰が言っている?山本健人氏は、信頼できる情報を選び取るためには、専門家個人の意見より、多くの専門家が一致している意見=コンセンサスを見つけることが大切だとし、「多数の専門家の最大公約数」とも言えるのが、WHOや厚生労働省など公的機関が発表している情報である、と述べています。
②「し」=出典はある?
③「い」=いつ発信された?
④「り」=リプライ欄にどんな意見がある?
⑤「た」=たたき(攻撃)が目的の投稿ではないか?
⑥「ま」=まずは一旦 保留しよう
⑦「ご」=公的情報は確認した?
ここで件の共同通信の記事を「だしいりたまご」で分析すると次のようになるかと思います。
①「だ」=誰が言っている? =複数の関係国当局者これを見る限り、少なくとも、山本健人氏の指摘する多くの専門家が一致している意見=コンセンサスがあるようには見えません。
②「し」=出典はある? =なし
③「い」=いつ発信された? =6月7日
④「り」=リプライ欄にどんな意見がある? =賛否両論
⑤「た」=たたき(攻撃)が目的の投稿ではないか? =不明(疑いあり)
⑥「ま」=まずは一旦 保留しよう =***
⑦「ご」=公的情報は確認した? =与党議員、外務事務次官は否定、産経は削除
尤も、6月8日、この共同通信の記事に対して、菅義偉官房長官は「わが国の立場を直接、中国側に明確に申入れを行っている。国際社会に対しても明確に発信してきている。欧米は評価しており、失望の声が伝えられると言う事実は全くない」と否定しています。
「多数の専門家の最大公約数」とも言える公的機関である日本政府が明確に否定している以上、件の共同通信の記事はフェイクであるというコンセンサスが取れつつあると見てよいのではないかと思います。
マスコミ報道については、山本健人氏が挙げた「だしいりたまご」を使った精査を利用するのは有効なのかもしれませんね。
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