
1.香港立法会選挙延期
7月31日、香港政府トップの林鄭月娥行政長官は記者会見で、今年9月6日に予定されていた立法会の議員選挙について「新型コロナウイルスの感染が広がっており、市民の安全を守るため」として1年間延期すると発表しました。
この決定について、著名な民主活動家の黄之鋒氏は「中国政府は反対勢力の過半数獲得を阻止するため、さまざまな手段を取っている。選挙の延期は親中派が負けることを恐れているためだ。中国政府が議員を直接任命しようと考えていることは明らかだ」と、民主派の躍進を阻止しようとする中国政府の意向を受けた判断だとして強く反発しています。
また、民主派の政党「公民党」も「香港の人々の選挙権を奪うもので、コロナ対策を口実としたあからさまな選挙の操作だ」などと延期の決定を厳しく非難しています。
2.民主派候補立候補資格取り消し
香港当局の締め付けはこれだけではありません。
前日の7月30日、香港選挙管理当局は政府に批判的な立場の民主派候補12人について、「香港特別行政区基本法」に従って立候補資格を取り消しています。
資格を取り消されたのは、先に取り上げた民主化活動家の黄之鋒氏を含む活動家4人と、岑敖暉(レスター・シュム)氏ら区議会議員4人のほか、現職の立法会議員4人です。
香港政府は民主派候補12人について、議員に求められる憲法上の義務を順守しているとみなされないとして、次の4つを理由に挙げています。
1)香港独立を提唱あるいは奨励したこと香港政府は声明で「一部メンバーが主張するような政治的検閲や言論の自由の制限、選挙に立候補する権利の剥奪が起きる可能性はまったくない」としつつ、さらに立候補資格を失う者が出る可能性は排除できないと付け加えました。更なる被選挙権の剥奪を匂わせています。
2)香港問題への外国政府による介入を要請したこと
3)中国中央政府による国家安全維持法(国安法)の義務に対して「基本的に反発」を示したこと
4)香港政府を特定の政治的要求に強制的に応じさせるため、香港政府によって導入された立法案を「見境なく否決して、立法会メンバーとしての職務を執行する意向」を示したこと
中国による統制強化への市民の反発を追い風に、9月の立法会選挙で、過半数の議席獲得を目指していた民主派は厳しい状況に追い込まれたといえます。
3.「リンゴ日報」創業者逮捕
8月10日、香港警察は民主派寄り香港紙「リンゴ日報」を発行する壱伝媒(ネクスト・デジタル)のオフィスを家宅捜索し、創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏を国家安全維持法違反容疑などで逮捕しました。
香港メディアによると、黎氏は外国勢力と結託し、国家の安全に危害を加えた疑いが持たれていて、他にも黎氏の息子など、同紙関係者ら少なくとも6人が逮捕されたようです。
「リンゴ日報」は1995年に香港で創刊された繁体字中国語・広東語の日刊の大衆紙です。
自由主義を標榜する反北京・親民主派の代表的な新聞で、1日の発行部数は30万部。香港の広東語新聞の中では「東方日報」に次ぐ発行部数第2位となっています。
リンゴ日報という名は「もしアダムとイブがリンゴを口にしなかったら、世界に善悪はなくニュースも存在しなかっただろう」という意味を込め創業者の黎智英によって名づけられました。
リンゴ日報は、内容は芸能人の動向、企業や政治家のスキャンダル内部告発、流行の着こなしなど。ネットの話題など人々が飛びつくものが多く、時に人気と論争のもとになっているようです。
政治的には、西側メディアや香港民主派に近く、香港特別行政区政府や北京の中国共産党政権・中国中央政府に反対の立場を取る香港でも数少ない新聞です。
香港返還前から中国政府に対し激しい批判を加えてきたため、中国大陸では発行が禁止され、リンゴ日報のウェブサイトは「金盾」により中国国内からのアクセスが遮断されています。
中国および当局が「リンゴ日報」のどれをもって「国家の安全に危害を加えた」とするのかわ分かりませんけれども、「リンゴ日報」を潰すことで、香港の民主化運動を潰そうと目論んだとしてもおかしくありません。
4.香港市民全員にPCR検査
更に筆者には気になることがあります。それは香港市民に対する武漢ウイルスのPCR検査です。
8月7日、香港政府は武漢ウイルスの感染が再び拡大していることを受け、香港の全市民740万人を対象にPCR検査を行うと発表しました。
検査は1回までは無料で、香港島に臨時の検査施設を建設し、早ければ2週間後から実施するとしています。
検査に関し、香港では検査した人のDNAが採取され中国本土に送られるという噂が立っていたのですけれども、林鄭長官は噂はデタラメだとのべ検査の強制はしないとしています。
香港市民全員にPCR検査をするということは香港当局は検査を受けた市民の個人情報を得ることになります。顔から氏名から住所まで全てです。DNAも勿論そうです。
そうなればあとは簡単。香港選挙で民主派候補の演説に出向いたり、手伝ったりした人をマークしておいて、後で因縁をつけてしょっぴくことだってできます。民主派として立候補しそうな人を予め立候補停止にすることも可能です。
まぁ、強制でないから検査しなければ大丈夫だという見方もなくもありませんけれども、そこはそれ中国です。
なんとなれば、当局が武漢ウイルスの無症状感染者を香港市中に解き放って、香港市中に感染を広げてやることも出来ます。不安に駆られた市民がこぞってPCR検査を受けにきたら、その時点で思う壺になっているかもしれません。
5.連携を強めるファイブアイズ
8月9日、香港政府が、立法会の議員選挙を1年間延期したことについて、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアとニュージーランドの5ヶ国の外相は共同声明で「こうした動きは、香港の安定と繁栄の基盤となってきた民主的なプロセスを損なうものだ……中国政府は、香港の人々に『一国二制度』の原則に基づく自治と自由を約束していて、その約束を守らなければならない。香港政府に対し、早急に選挙を行うことを求める」と、立法会の議員選挙の早期実施を求めました。
中国の動きにすかさずファイブアイズが批判の共同声明を出したことは、ファイブアイズの連携の強さを示すものであると同時に、対中連合の核になっていることを内外に示していると思います。
8月9日、アメリカのポンペオ国務長官は「世界は、香港での民主化活動家の逮捕や新疆でのイスラム教徒少数民族の統制など、中国共産党の市民への強要と統制の努力の例をより多く目の当たりにしてきた。これらの行動は一過性のものではない」とツイートしていますけれども、正に、世界は、香港で自由と民主を抑圧する中国の姿を目の当たりにしている訳です。
8月13日から、アメリカは国防権限法2019の第二段を発動し、中国パージがより本格化します。
日本もいつまでもどっちつかずの態度で逃げることは出来ません。日本がブルーチームの一員であると明確にフラッグを掲げる時が目前に迫っていると考えるべきだと思いますね。
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