
1.中国共産党の脅威に抵抗することはより困難だ
8月12日、アメリカのポンペオ国務長官は訪問中のチェコでの演説で、中国が世界経済大国としての経済力を使い世界に影響を及ぼしているとし、冷戦時代のソ連よりもアメリカにとって手強い相手との認識を示しました。
ポンペオ国務長官は「第二次冷戦が起きているわけではない」としつつも「中国共産党の脅威に抵抗することはより困難だ……中国共産党は旧ソ連とは異なり、われわれの経済や政策、社会と深く絡み合っている」と述べ、欧州諸国に中国共産党に抵抗するように呼びかけました。
2.東欧の玄関口チェコ
チェコは欧州の中でも中国との関係が深い国です。
チェコは欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)双方に加盟していることから、中国はチェコを中・東欧諸国の玄関口のみならずチェコを足掛かりに西欧諸国に対する影響力を高めたいとの狙いもあるとも言われています。
2013年、チェコは、ゼマン大統領就任以後、対中関係の強化を図ってきました。ゼマン大統領は訪中を繰り返し、2015年に中国が戦争勝利70周年記念の軍事パレードを実施した際も、欧米諸国のほとんどが国家元首出席を見送る中、北京に赴いて、中国との親密ぶりをアピール。2016年に習近平主席がチェコを訪問した際には、首都プラハでデモ隊の動きを封じ込めています。
更に、この年にチベットのダライ・ラマ14世猊下がチェコを訪れた際、ゼマン大統領はダライ・ラマ14世猊下と面会後、「一つの中国」原則を支持する声明を出すなど最大限の配慮を見せています。
3.中国は信頼できないパートナーだ
ただ、そんなチェコのゼマン政権でも、中国を快く思わない人もいます。
今年1月、チェコの人気政治家だったクベラ上院議長が急死したのですけれども、彼は在任中に法輪功、キリスト教徒、ウイグル人およびチベット人を支持する131号決議案を通過させ、政府と大統領に中国共産党に迫害の停止と良心の囚人の釈放を求めるよう促すなど、中国批判の急先鋒でした。
クベラ氏は今年計画されていたチェコ企業の台湾訪問団の団長を務めることになっていたのですけれども、中国側は反発。チェコの中国大使館が、「台湾行きを強行するならチェコ企業に報復する」などと脅迫していた事実がメディアによって明らかにされています。
クベラ氏の後任にはミロシュ・ビストルチル氏が就いたのですけれども、彼はクベラ氏の計画を引き継ぎ、8月末に台湾を訪問すると述べています。
そして、同じく反中姿勢を明らかにしているのが、プラハのズデニェク・フジブ市長です。
プラハと北京は2016年に姉妹都市協定が締結されていたのですけれども、フジプ氏が2018年11月に市長に就任すると、姉妹都市協定の中に「一つの中国」原則の順守を記す条項が含まれていたことに違和感を抱き、中国側にこの条項を削除するよう求めました。
中国はそれを受け入れず、逆にプラハ・フィルハーモニアなど4楽団の中国巡回公演を中止するなどの報復措置に出たのですけれども、フジブ氏は動じず、昨年10月、北京との姉妹都市協定を解消しています。
更にフジプ市長は昨年3月に訪台し、蔡英文総統らと会談するなど台湾に接近。今年1月には、台北と姉妹都市協定を結びました。フジプ市長はその直後に、中国を「信頼できないパートナー」と非難したと伝えられています。
このフジブ市長もビストルチル上院議長に同行し8月末に台湾を訪問するとしています。
アメリカのポンペオ国務長官は、チェコの代表団の台湾訪問を強く支持したと伝えられていますけれども、こうした背景を元にチェコを訪問したとすると、チェコのゼマン政権に楔を打つというか、チェコの親中勢力への牽制も兼ねているのかもしれません。
4.次々と暴露される中国の浸透工作
ここにきて急激に中国による各国への浸透工作が明るみになってきています。
インドネシアでは、2018年から今年半ばに掛けてTikTokを運営するバイトダンス本社が地元の管理担当者らにニュースアプリ「Babe」に掲載された中国当局に「否定的」とみられる記事を削除するよう指示されたとの証言が報じられています。
また、パプアニューギニアでは、国家サイバーセキュリティセンター向けにファーウェイが構築したセキュリティシステムが当初計画されていた設計とは異なり、とうの昔にサポートが終わっている、時代遅れの暗号化ソフトウェアを組み込んでいて、穴だらけであることなどが分かっています。
これは、オーストラリア政府外務貿易省による全65ページのレポートの中で明らかになっているのですけれども、正にアメリカのポンペオ国務長官が演説で「われわれの経済や政策、社会と深く絡み合っている」と述べたことを傍証するかのようなレポートです。
或いは、アメリカ政府からオーストラリア政府へ何らかの情報が流れているのかもしれません。
これらについて、中国の王毅外相は「確固たる証拠もなく、アメリカは中国の民間企業に対するグローバルキャンペーンを開始した……これはいじめの典型例だ。アメリカの目標は科学技術の独占を維持することだが、他の国々への開発の正当な権利を否定していることは、誰から見ても簡単かつ明確にわかる。いじめを隠すことさえしない。これは公正取引の国際ルールに違反するだけでなく、自由な世界市場環境をも傷つけている」と非難していますけれども、戦狼外交を掲げて、チェコやその他の国を恫喝している国が口に出来る台詞ではないと思います。
おそらく、アメリカは対中包囲網を作ると同時に、経済、情報の両面で中国を遮断、補給路を断つ戦略を取っているように見えるのですけれども、仮にそうだとすると、今後も中国が、世界各国に、どのような浸透工作、サイレントインベージョンをしていたのかが次々と暴露されていくのかもしれませんね。
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