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1.アメリカ人の対中感情は過去最悪
アメリカの情報調査のシンクタンク「ピュー・リサーチセンター」は6月16日から7月14日に掛けて、アメリカの成人1003人を対象に世論調査をしました。
その結果、アメリカ人の対中感情が非常に悪化していることが明らかになりました。
『中国に対して、とても嫌いだ』と回答した比率は42%、中国に対する否定的な見解全体では実に73%にも達しています。これは「ピュー・リサーチセンター」が調査を始めてからの15年間での最高値です。
また武漢ウイルスについても、全体の64%が「中国がコロナ事態に誤った対処をした」と答え、78%が「中国政府には、新型コロナが武漢から全世界に拡散したことに対する責任がある」と答えています。
更に、中国の人権侵害については73%が「アメリカは、米中関係に害となっても中国の人権問題を改善するために努力すべきだ」と一層強い措置を求めています。
ピュー・リサーチ・センターの4月の調査では、中国に対し「好意的でない」と答えた国民の割合は前年比で6ポイント増加の66%でしたから、僅か3ケ月で73%と7ポイント増加したことになります。つまりアメリカで急速に対中感情が悪化しているということです。
この調査は支持政党や教育水準、年齢に関係なく現れているのですけれども、7割以上が「米中関係に害」となっても、アメリカは改善させるべきだと答えていることは注目に値します。
なるほど、これなら共和党民主党どちらも大統領選で中国叩きになる訳です。
2.G7による中国国家安全法非難は「日本が主導」
7月30日、ポンペオ国務長官は、上院外交委員会の公聴会で、G7外相が中国政府の「香港国家安全維持法」導入に「重大な懸念」を表明したことについて「日本がG7を主導した」と称賛。
中国が進出を強める南シナ海をめぐり、日本やオーストラリア、英国などの友好国と連携を強化していると述べました。
そして、中国政府が各国で展開する「孔子学院」をスウェーデンが閉鎖したことや、インドが多数の中国製アプリを禁止したことに言及し、各国で中国への反発が高まっていると述べ、アメリカの精力的な外交により、国際社会は中国共産党の脅威に対して目覚めたと語り、中国認識の「潮目は変わった」と強調しました。
昨日のエントリーで、戦略国際問題研究所(CSIS)が自民党の親中派を名指しで批判する一方で、ポンペオ国務長官がG7外相会談を主導したと称賛する。
トランプ政権が中国共産党と中国人民を分けているように、日本についても、対中強硬派と対中宥和派とで分けて扱うようにしているのかもしれません。
3.記者団の批判に世界観で切り返したポンペオ国務長官
このようにトランプ政権は反中同盟の構築に動いているのですけれども、懐疑的な見方もあります。
7月28日、ポンペオ国務長官はワシントンで開催されたアメリカとオーストラリアによる外交・国防(2プラス2)閣僚会議直後の記者会見で、「トランプ政権は欧州に対して敵対的な貿易政策を推進しており、『民主主義国家の同盟』は欧州の同盟諸国には実践不可能との指摘がある」との質問が飛び出したのがそれです。
貿易政策で欧州に喧嘩を売っておきながら、反中で手を結ぼうなどと虫が良すぎるのではないかということです。
この質問に対し、ポンペオ国務長官は「中国に対抗してアメリカを選べというのではない。これは圧政と独裁政権に対抗する自由と民主主義を選択することに関する問題だ……私は欧州全域のわれわれのパートナーたち、そしてインド、日本、韓国、今日ここに来ているオーストラリアのパートナー、さらに世界全体の民主主義の友人たちがわれわれの時代における挑戦を理解していると確信する……我々の時代における挑戦は、自由を大切なものと考え、法治に基盤を置く経済的繁栄を願うこれらの国々が、国民のためにそれを守るため共に結集することにある」と答えたのですね。
見事な答えだと思います。なぜなら、この答えは「戦略の階層」の最上位の概念である「世界観」の階層からの見解であるからです。
戦略の階層については、これまで何度も取り上げているので、繰り返しませんけれども、戦略は上位の階層になればなるほど普遍性を持ち、そこから下の階層を規定・支配する構造になっています。
記者会見の質問は「欧州に対する貿易政策」という、「軍事戦略」あるいは「作戦」といった戦略の7階層のうち上から4番目ないし5番目の次元であるのに対し、ポンペオ国務長官は「自由と民主主義」という戦略の階層最上位の「世界観」を盾にしました。
「世界観」はその下の階層の戦略を全て含みますから、当然「欧州に対する貿易政策」なども包含されてしまいます。「自由と民主主義」という世界観は「欧州に対する貿易政策」と対立・矛盾するものではなく、内包するものという訳です。
この辺りは、流石アメリカです。
4.近寄りすぎた中国から離れてアメリカ側に戻ろう
前節で取り上げた7月28日の記者会見で、ポンペオ国務長官は、自由と民主主義のパートナーの一つとして、韓国を指名しました。
ポンペオ国務長官の発言について朝鮮日報は「アメリカ中心の反中キャンペーンに参加するよう要求したものだ」との解釈を述べています。
韓国観察者の鈴置高史氏によると、こうしたアメリカの圧力に韓国保守は「近寄りすぎた中国から離れ、アメリカ側に戻ろう」と言い出したのだそうです。
7月13日に開かれた「韓中ビジョンフォーラム」でも、そのような意見が相次いだようです。
鈴置高史氏は、そのフォーラムでの議論の中軸はソウル大学のチョン・ジェホ教授の外交・安保に関する基調演説で、「アメリカと中国は域内の国家に対し「我が方なのか、そうではないのか」と問いただし続ける。今のところ中国だけが、自分の側ではないと見なした時に経済制裁を加えるが、米国は制裁しない。だが、米中の戦略的な覇権競争が先鋭化すれば、米国も中国と同様に「懲罰」を下すことになって、ゲームは複雑化するであろう」とそのポイントを紹介しています。
5.米中どちらにもつかない韓国は聡明だ
けれども、当然ながら、韓国がそうすんなりとアメリカ側に戻る筈がないという見方もあります。
7月27日、アメリカ外交専門誌のナショナル・インタレストは「韓国はトランプ政権の『反中国』の呼び掛けに抵抗する決意だ」と報じています。
ナショナル・インタレストは「韓国が米中間で選択を迫られたのは今回が初めてではないが、韓国の優先事項は中国を恒久的な敵対国にしないことだ……韓国は、中国に対抗する友好国を徴集しようとするアメリカの試みを拒否する唯一の国ではない。特にポンペオ国務長官が先週行ったような中国攻撃によるメリットは、中国政府を怒らせること以外には何もない」と指摘しています。
要するに、全然信用していないということですね。
一方、中国は韓国がアメリカ側にいかないように持ち上げて見せています。
7月30日、環球時報は、中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院の王俊生研究員の評論記事を掲載しました。
記事では「米中間で中立を保ち、どちらかに偏らない立場をとるというのが韓国政府の基本的な姿勢だ」と前置きした上で、中国との経済関係の重要性や歴史的文化的繋がり、そして、トランプ政権がパリ協定、ユネスコ、国連人権理事会などを相次いで脱退していることは韓国のグローバル化政策と一致せず、駐留米軍の費用負担要求や、米韓間の輸入関税問題なども韓国人に中国との関係強化の必要性を認識させているとして、「アメリカが韓国に対し絶えず自国側につくよう圧力をかける中、韓国が"どちらにもつかない"立場を堅持していることは、称賛に値する」と評価しています。
これで韓国がいい気分になるのかどうかは分かりませんけれども、逆にいえば、中国も韓国を持ち上げてみせてやらなければならない程追いつめられているということでもあると思います。
今後韓国が米中間でコウモリを続けるのかどうか分かりませんけれども、日本は日本で巻き込まれないように粛々と韓国との縁切りを進めていってよいのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
インド辛え~
自分は、北米プログの「外からみる日本、みられる日本(カナダ在住の邦人)」によく書き込みをしております。 以下のシカゴ在住の邦人様の書き込みと分析をご覧頂けますでしょうか?。
>トランプ大統領の支持率低迷は間違いなく新型コロナ蔓延のためです。何か日本では勘違いされている部分があるように思いますが、大統領選の争点は常に国内問題で、中国問題なんかは大半のアメリカ人にとって大したことではありません。
日本人は概して真面目で、お人好しですが、諸外国の人たちは自己主張して他人とトラブルになることなんかなんとも思っていないと、経験上思います。
だから米中の小競り合いなんか大げさに考えず(何をどう争ったって、現実には寸止めで終わると思います)、どうしたら漁夫の利を得られるか、に集中すべきではないかと私なんかは思うのですが。
他のアメリカ国内在住の日本人達(cf. カリフォルニア州・ニューヨーク州・ラスベガス……ect.)も、アメリカの内政問題意識が焦点で…、ポンペイオ演説程、対中国にアメリカ人達が熱くなって無いのが現実!。との話は聞きます。
むしろ熱くなっているのは、「政治的なバイアスの掛かっている、アメリカのマスコミ報道各社?」では無いでしょうか?。
今世論調査で…トランプ大統領が不利なのは、確かですが、中国共産党の政治的バイアスの掛かっている「バイデン候補」が、大統領討論会を無事五分五分で切り抜けられれば?、の話では。