
1.日本も傍観していられない
8月16日、自民党の甘利明税制調査会長はフジテレビの日曜報道「THE PRIME」で、安全保障上のリスクを理由にアメリカのトランプ大統領が90日以内の米事業売却を命じた中国企業の動画投稿アプリ「TikTok」を巡り、「色んな国がリスクを提示しているわけですから、日本も傍観していられない……トランプ大統領だけではなくイギリス、インドなど各国がそのリスクに段々気が付き始めている……顔認証や虹彩認証で一番問題になるなりすましの危険がある」としたほか、アプリ以外にも、「ユーザーがスマホに持っているほかのデータにアクセスして抜かれる危険性がある」と指摘。
更に、日本企業に対して、「データは中国企業と組んだら全部抜かれるという前提でビジネスをしていかなければならない」と述べ、機微技術が漏洩した場合、「自由と民主主義と法の支配という共通の価値観を共有するサプライチェーンから日本だけ外される危険性がある……日本は最も危機感の薄い国、企業だ」と警告しました。。
機微情報というのは要するに最先端技術ということだと思いますけれども、政権幹部がここまでハッキリと指摘したことは非常に重要です。
先日、アメリカ政府が「5G Clean Network」構想を掲げ、その対象企業を発表していますけれども、ああいう具合に、中国に情報が抜かれたらその企業はサプライチェーンから外されるということです。
2.アメリカのデカップリング政策のターゲットにされぬように
甘利明税制調査会長は、このようなアメリカの動きを前々から指摘していました。
こちらの甘利氏のサイトでは2018年12月の記事で次の様に述べています。
こうしている間にも、米国株価は一年半前の水準まで大幅下落をし、日経平均株価は2万円を切りました。中国の景気が低迷をし、周辺国の対中輸出も影響を受けています。米中間で強制技術移転や、知財の盗用と米国が指摘している問題について中国が何らかの改善策を提示しない限りこの問題は前進をしません。アメリカ政府調達のサプライチェーンに関する対中国デカップリング(サプライチェーンから外す行為)は、かなり現実味を帯びた行動になっています。甘利氏は約2年前の段階で「アメリカのデカップリング政策のターゲットにされぬように」と警告していたのですね。
この枠組は、ファイブアイズ(諜報情報を共有する旧英連邦)へと広がりを見せています。各国各企業が中国市場を手放せるわけがない、と高をくくっている中国や中国企業もアメリカの姿勢が本気であることに狼狽を隠せません。アメリカの対中国警戒感は、トランプ政権になってから醸成されたものではありません。
数年来の懸念が具体的形となって表れたのが今と理解をしたほうがいいと思います。「アメリカの技術や知財を流用し、孔子学院を先兵として大学や研究所やシンクタンクに影響力を及ぼし、中国批判を抑えつつ先端技術を取り込んでいく。そしてそれを軍事技術に転用し、アメリカを脅かす。中国も成熟化をすれば、国際社会を支えるオブリゲーションを持つと期待したのは間違いだった。」これが、アメリカの対中国に対する姿勢の変化の土台です。各国各企業は世界第二の中国市場に参加しつつ、アメリカのデカップリング政策のターゲットにされぬよう、どうすみ分けをしていくかが問われていきます。
3.中国拠点で生産している製品はほぼ「地産地消」
甘利氏は、PRIMEで「日本は最も危機感の薄い国、企業だ」と述べていますけれども、実際中国に進出している邦人企業は危機感が薄いことは否めません。
昨年末から今年初めに日本貿易振興機構(JETRO)が分析したレポートによると、米中貿易戦争に影響について、中国進出日系企業は、「製品の大部分は中国の国内市場向けであるため、影響は限定的」とか、「中国拠点で生産している製品はほぼ『地産地消』であるため影響がほとんどない」といった声や「中国の南部で生産しているが、周辺国のサプライチェーンと比較しても中国が圧倒的に強い。かつては人件費の高騰で中国から生産を移管することも考えたが、今はそれよりも現地で部品を調達できるかどうかを重視しているため、移転する予定はない」とか、「中国にはサプライヤーの集積があり、産業の厚みがある。また、人材は優秀で、中国と同じ環境を持つ国はあまりない」という具合に、今年頭の段階ではあまり撤退という選択肢にはあまり積極的ではありませんでした。
中国に進出している日本企業は2012年から748社減少したなどという調査もありますけれども、 2020年2月現在、日本企業の中国進出、約1万3600社あることを考えると雀の涙です。
4.中国からの撤退を急げ
先日、アメリカは対ファーウェイ追加制裁として、アメリカの技術を使った外国メーカーの製品であっても半導体などの部品の提供を認めないことを発表しました。
商務省は「世界のどの企業であってもファーウェイのために働くならアメリカの監視の対象になる」と宣言していますから、ファーウェイに納品する企業のかなりの部分は対象になるのではないかと思います。
今はまだ、制裁対象はファーウェイはじめ数社ですけれども、状況によっては制裁対象が拡大されるか分かりません。
中国に進出している一万三千を超える邦人企業の内、製造業は5559社、卸売業が4505社あり、これらだけで7割を占めています。
もしファーウェイ以外の製造業、卸売業に制裁が拡大されたら一気に窮地に陥りますし、ましては機微情報を中国に抜かれようものなら一発でアウトです。
いくら中国で地産地消しているから影響ないと多寡を括っていたとしても、中国に情報を抜かれたとして本社ごと制裁をくらったら、元も子もありません。
ですから、中国に進出している企業は、今、影響ないからとのんびりしているのではなく、先を見越して、中国からの撤退を急ぐべきではないかと思いますね。

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