TikTokとサイレントインベージョン

今日はこの話題です。
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1.科学者を引抜く拠点を設けていた中国


この程、アメリカ国務省とオーストラリア戦略的政策研究所(ASPI)が実施した調査で、中国が企業や大学などから科学者を引き抜くために独自のネットワークを世界各地に構築していたことが報告されました。

調査によると、中国はアメリカ・ドイツ・オーストラリア・イギリス・カナダ・日本・フランスなどを中心に世界各地に約600カ所の人材募集拠点を設け、それを通じて、先進国を始めとする優秀な科学者や技術を集めていたとのことです。

中でもアメリカの拠点が最も多く、全体の約4分の1に当たる146ヶ所の拠点があったと報告されています。

中国は2006年頃から人材募集拠点の設立を開始し、2016年頃から設立数が急増。2018年だけで115ヶ所以上が設立されたということです。

人材募集拠点の運営は、中国人の企業・専門家・同窓会・学生グループ・学者協会などに委託され、表向きには科学者向けに中国旅行を企画しているような拠点もあったそうです。

そして、各団体には運営費として年間2万2000ドル(約211万円)、獲得した科学者1人あたり2万9000ドル(約306万円)が支払われていたと報告されています。

これら人材募集拠点は主に中国の国家外国専家局および中国共産党中央統一戦線工作部を主体として運営されており、人材募集だけでなく、情報収集・技術移転・反体制運動への対抗といった中国政府への支援を目的として運営されていたことも明らかになっています。

これまでこの種の盗用工作は中国の国家プロジェクトとして注目されていたのですけれども、これら人材採用プログラムの80%以上が地方レベルで実施されていると報告されています。

Figure 1 The spectrum of the CCP’s technology transfer efforts.jpg



2.孔子学院と漢弁


8月13日、アメリカのポンペオ国務長官は、アメリカ国内の大学などで中国語を教えている「孔子学院」という機関について、「中国の政治的な宣伝などを行い教育に悪影響を及ぼしている」として、外国の大使館などと同じ、外国政府の機関に指定すると発表しました。

これにより、アメリカに75ヶ所ある「孔子学院」は、今後、職員の名前や運営資金、教育の内容などをアメリカ政府に届け出ることが義務づけられることになりました。

アメリカは2018年2月に、FBI長官が、中国政府のスパイ活動に利用されている疑いで孔子学院を「捜査対象」としていると明らかにしていましたけれども、その結果が外国政府機関認定だということですね。

このようにトランプ政権は中国の浸透工作を徹底的に排除する方向で動いています。

これに対して無防備なのが日本です。

北京の孔子学院本部のホームページによると、日本国内には、早稲田大や立命館大、桜美林大など15の大学に孔子学院があります。

「孔子学院」の背後には、「漢弁(ハンバン)」と呼ばれる中国教育省傘下の組織があり、資金提供を受けていると言われています。

「孔子学院」の教員や教材は中国から提供され、受け入れ側に人事権やカリキュラムの作成権限が殆どないとみられ、日本の場合、法令による設置認可や届け出が必要ない。資金源や運営方法、授業内容をだれからも問われることなく、大学間協力で次々と設置されてきた経緯があります。

アメリカの大学にある孔子学院では天安門事件、チベット、台湾などについて、中国政府の主張に沿った宣伝活動が行われ、学内での自由な議論が妨げられたとの批判も出ているそうで、アメリカ以外にもカナダや欧州の大学で、孔子学院を自主的に閉鎖するケースが相次いでいるます。

平成30年2月の衆院予算委員会分科会で、自民党の杉田水脈氏がFBIの対応を踏まえ、「日本は非常に無防備ではないかという指摘がある」と指摘していますけれども、日本ではまだ閉鎖の動きは見られません。


3.台湾市民の個人情報を狙った中国


先日、TikTokが個人情報を抜き取っているのではないかと話題に上がっていましたけれども、サイバー攻撃による情報抜き取りも報告されています。

8月19日、台湾調査局のサイバーセキュリティ調査室は、中国のハッカーが台湾政府の情報や市民の個人情報を目的としたハッキング攻撃を行っていたことを発表しました。

サイバーセキュリティ調査室の劉家宗・副主任は記者会見で、過去2年にわたって中国のハッカーが機密文書を盗むために、台湾政府にサービスを提供する少なくとも4つのテクノロジー企業のシステムに侵入していたことを明らかにしました。

中国が2018年に開始した攻撃は10の政府機関と職員6000人のメールアドレスをターゲットにしており、政府の情報と市民の個人情報を狙ったとのことで、ネットワークに侵入し、独自の暗号化された接続を使用して盗んだデータを持ち出したとしています。

5月には台湾の石油会社が攻撃され、8月初頭には台湾を拠点とするセキュリティ企業のCyCraftや台湾の半導体企業がハッキングのターゲットとなっていたことも発表されています。

台湾では中国のストリーミングサービス「iQiyi」と「Tencent Holdings」の利用禁止が検討されているとのことで、TikTok以外にも危ない中華アプリがあることを窺わせます。


4.TikTokの大キャンペーン


個人情報を抜くリスクがあるという懸念から、アメリカで事業売却命令が出され絞め出しを食らい始めているTikTokですけれども、ここにきて逆に大キャンペーンを始めています。

CNN、Yahooファイナンス、ロサンゼルス・タイムズ紙などの海外メディアによると、TikTokは一人でも多くのユーザーにTikTokを利用してもらおうと、アメリカで23日の週からで過去最大級の広告キャンペーンを展開しているそうです。

CMはTikTok、Twitter、InstagramなどのSNSのほかHulu、Spotifyなどのデジタルメディア、ラジオ放送、ケーブルテレビ、屋外ビジョンなどで放映されるとしています。

TikTokのグローバルマーケティング責任者でHuluの元幹部Nick Tran氏は、今回の広告キャンペーンはTikTokコミュニティーを祝し、TikTokをカルチャーの一部にまで高めてくれた投稿者たちに感謝を示すためのものだと述べており、キャンペーンはTikTokの評判と好感度を上げるための重要な手段と見られています。

最近、日本でもTikTokのテレビCMが目につきだしているような気もするのですけれども、あるいはTikTokは全世界的にキャンペーンを始めているのかもしれません。


5.炎上した琉球新報


先日、ネットで琉球新報がTikTokを擁護しているとの書き込みが一部で話題になっているようです。

件の記事は24日付の「人気アプリ使えなくなる? モバイルプリンスの知っとくto得トーク[173]」という記事で、内容自体は、大きい国・企業の衝突によってユーザーが損害を受けているという現状認識レベルのもので、左程どうということはないと思うのですけれども、どうやら、記事の中にある「17日時点でTikTokが個人情報を抜き取っている事実は確認されていません」という注釈が目の敵にされたようです。

まぁ琉球新報は、先日、アメリカのCSISの報告書で、中国は沖縄の新聞に資金を提供し影響力を及ぼしていると指摘されるや否や「当社は中国の資金提供は受けていない」と反応していましたけれども、これまでの琉球新報の記事その他から、ある程度世間がそうした目で見ていることは否定できないと思いますし、そうした背景があればこそ、今回の記事について、ネットが琉球新報叩きに走った可能性も考えられます。

ただ、その一方で、注意すべき点があります。それは今現在「TikTokが個人情報を抜き取っている事実が確認されなくても、未来永劫そうであるという保証はない」ということです。

これまで何度も指摘していますけれども、中国は「国家情報法」で「市民はもちろん、すべての国家機関、軍隊、政党、社会的グループ、企業、事業団体」に対して、必要な時には「諜報活動」を支援することを義務付けています。

TikTokは中国企業ですから、この恐ろしい法律から逃れることはできません。国家情報法が無くならない限り、TikTokに対する懸念が消えることはないのですね。

件の記事は今現在のTikTokのことは書いていても、今述べたような国家情報法によって個人情報が抜かれるという、「将来の懸念」については触れられていません。

この記事を書いたのは琉球新報の記者ではなく、フリーライターの「モバイルプリンス/島袋コウ」という人なのですけれども、この人は、2018年2月から沖縄県サイバー防犯PR大使に任命されているのですね。

であれば、「防犯」という観点からみたTikTokの危険性についても触れておくべきではなかったのかとも思います。


6.鍵を握るサイレントインベージョン耐性


生活から切り離せない存在だとPRすることで、生き残りを図っているTikTokですけれども、筆者はこのTikTokのキャンペーンの行方に注目しています。

なぜなら、中国のサイレント・インベージョンに対する、一般国民の「耐性」がどの程度あるのかの指標になるのではないかと思うからです。

普通、市井の人は今の生活が第一で、何年も先の話はどうしても感度が落ちてしまいます。「国家百年の計」という言葉はあっても「生活百年の計」とは言いません。

また、日本ではよく「外交は票にならない」と言われますけれども、国民にとって今の生活から遠ければ遠い程、関心や感度が低くなっていくものと筆者は考えています。

中国はそこに付けこんでいる。

最初は静かに気づかれないように侵略を始め、表に出た時には雁字搦めでもう抜け出せないようになっている。そういうやり方です。

もし、TikTokが生活に密着し、絶対欠かせないものになっていたとしたら、それに代わる別のモノがあり、かつ普及でもしない限り、そこから離れるのは容易ではありません。

アメリカがTikTokを排除ではなく、事業売却させようとしているのも、或いは、既に生活に密着しているが故に簡単に切り話すことが難しいと見ているからなのかもしれません。

ただ、TikTokのような動画アプリについては他にも似たようなアプリがあるようですから、まだ比較的乗り換え易い環境はあるといえます。

けれども、一旦馴染んだアプリを捨てて別のアプリにいくのは面倒だと考える人はいるでしょうから、右から左という訳にも中々いかないのではないかと思います。

その意味では、TikTokの「TikTokは生活に欠かせないものだキャンペーン」は急所を突いた手かもしれません。


7.TikTokを生活から引き剥がせるか


その上でTikTokを敢えて捨てさせる手があるとすれば、やはりTikTokが危険なものであると周知し、理解させるしかないのではないかと思います。

8月11日、厚生労働省は、武漢ウイルス接触確認アプリCOCOAのダウンロード数が8月24日現在で約1464万件に到達したと発表しました。

これはリリース開始した6月19日から数えて約2ヶ月で日本国民の1割とちょっとがCOCOAをダウンロードした計算になります。

武漢ウイルスは、これまで命に関わるウイルスだとマスコミが散々煽っていることもあり、今現在、国民にとって「今の生活に関わる」関心事だといえます。

それでも今現在、約1割と少しの浸透なのですね。

それに対し、TikTokは、個人情報を抜いている証拠はないから「直ちに影響ない」ように見え、かつ「生活に欠かせないものだ」と大CMを打っている訳です。

そんなTikTokを自分の生活から切り離す決断をさせるのはそう簡単ではないのではないかということです。

ですから、ユーザー側から積極的にTikTokを排除させるのは、TikTokが個人情報を抜いていたという明確な証拠が挙げられるか、TikTokが危険なものであるということが広く知られる必要があると思います。

果たして、TikTokの大キャンペーンが成功するか失敗するか、その結果は中国による「サイレント・インベージョン」の行方を占うことになるかもしれません。


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この記事へのコメント

  • おじじ

    The Wall Street Journal(WSJ)によると、ショートムービーアプリのTikTokは昨年末まで、暗号レイヤーを使ってGoogle(グーグル)のポリシーを回避し、ユーザーがオプトアウトできないAndroid端末のMACアドレスを介してユーザーを追跡していたことが判明した。そのレポートによると、ユーザーはこの追跡方法について知らされていなかったという。
    甘利さんが、フジテレビで危険性を強調したのも、わかる気がする。
    2020年08月26日 11:04

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