
1.予防効果は一切ない
8月5日、大阪府の吉村洋文知事は記者会見で、武漢ウイルス対策で「ポビドンヨード」成分を含むうがい薬の使用を呼び掛けた結果、全国で品切れが相次いだことについて「予防効果があるということは一切ないし、そういうことも言ってない」と釈明しました。
これは前日4日、吉村知事が記者会見で「嘘みたいなほんとの話をするが、うがい薬でうがいをすると新型コロナウイルスの陽性者が減っていくのではないかという研究結果が出た」と述べたことが発端です。
研究は、今年6月から7月にかけて宿泊施設で療養していた軽症や無症状の患者、40人余りを対象に、ポビドンヨードが含まれたうがい薬で、1日に4回、うがいをしてどうなるかというものです。
その結果、うがいをした患者は4日目に唾液のPCR検査の陽性率が9%ほどになったのに対し、うがいをしなかった患者は陽性率が40%だったということです。
研究を担当した「大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター」の松山晃文・次世代創薬創生センター長は、「唾液のウイルスを減らすことで、家庭での身近な人どうしの感染などを減らす効果があるのではないかと期待している。数十例や数百例でははっきりとは言えないので、大規模な研究で確かめたい」と話しています。
まぁ、検証も十分に終わっていない段階での研究結果を早々に発表するのはちょっとどうかと思わなくもありませんけれども、拡大する大阪府の感染状況に抑えが効かなかったのかもしれません。
案の定、発表後、うがい薬は薬局から消え、買占め転売の嵐となり、吉村知事は慌てて火消しに回ることとなった訳です。
2.うがいは入り口の掃除
件の研究はまだ、論文にはなっておらず、他人への感染抑制の実証については「これから」と言う段階です。要するに、「イソジンでうがいしたら喉が消毒されて、唾液中の武漢ウイルスが減りました」というだけのことで、重症化抑制はおろか感染予防も何処まで効くのか分かりません。
まぁ、筆者には、言葉は悪いですけれども、せいぜい宴会か何かで酒の回し飲みをするとき、うがいをしてからやれば感染リスクが減りますよ程度のものにしか聞こえません。もっとも、筆者はうがい後の「イソジン臭」が残ったままで酒を飲みたくはありませんけれど。
吉村知事の発言について、高鳥毛敏雄・関西大教授は、「咳など風邪症状がある人には有効かもしれない」とする一方で、「予防できると過信させるのは害になりかねない……口の中や胃腸には常在菌があり、そういったバランスを乱してしまう恐れもある……使い方を間違えると毒にもなる。アレルギーを持っている人も少なくない。対象をしっかり示して推奨する必要がある。呼びかけは知事の勇み足だと思う」と苦言を呈しています。
また、京都大の川村孝名誉教授は「うがいは入り口の掃除にすぎず、有効かどうかは分からない。今後の研究でメリットよりデメリットが大きいとなれば、逆効果の可能性もある。十分な効能が約束されていないものを人に伝えるのは危うい」と警鐘を鳴らしています。
3.偽陰性の増加
そもそも、感染してしまったら、その時期にもよりますけれども、喉は元より、鼻腔や気管支や肺の奥にまで武漢ウイルスは入りこんでいる場合だって当然ある訳で、そこで喉の武漢ウイルスをうがい薬で除去したとて、重症化の抑止になるとは思えません。
それに、一度うがいをすればそれでOKという訳でもありません。
先に紹介した研究担当の松山センター長は「うがいをしたあと、1時間程度でウイルスの量が再び増えるケースもある。うがい薬を使って、何回もうがいをすると喉を痛める可能性もあるので、注意が必要だ」と述べました。
一時間ごとにうがいするなど、現実問題として無理な話です。やはり気休め程度にしかならないと思いますね。
それ以上に、「イソジンによる武漢ウイルス消毒」が世間に拡がった場合、懸念されることがあります。
それは、偽陰性の増加です。
これは、既にネット等で指摘されていますけれども、唾液からウイルスを一時的に除去できるとなると、本当は感染しているのに、唾液によるPCR検査をすり抜けてしまうケースが増えるのではないかということです。
あるテレビ番組にリモート出演した日本感染症学会の佐藤昭裕専門医は、陽性者が陰性判定を求めて悪用しないかと懸念を抱いていると指摘しています。
先日、PCR検査要請で入院していた40代の男性患者が、病棟の鍵を壊して脱走したなんて報道がありましたけれども、確かに、隔離されるのは嫌だからと、検査前に入念にうがいしまくって、PCR検査をパスしようとする輩もでてきてもおかしくありません。
4.サマーキャンプでクラスター感染
それに、そもそも、PCR検査で陰性になったからといってそれで、武漢ウイルス感染のリスクがゼロになる訳ではありません。
7月31日、アメリカの疾病対策センター(CDC)は、ジョージア州で6月に開かれたサマーキャンプに参加した子供数百人が武漢ウイルスに感染したことが分かったと報告しました。
CDCの報告書によると、サマーキャンプは滞在型で1週間ほどにわたり開かれ、参加者は、子供達とスタッフ合わせて597人。そのうち少なくとも260人の感染が確認されたとのことです。
検査を受けられたのは全参加者の58%だったということですから、都合346人程度検査して260人が感染していたという計算になります。物凄い高確率です。
尤も、参加者は全員が到着前12日以内の武漢ウイルス検査で陰性だったことの証明を取って参加。主催者側も予防措置として、対人距離の確保、用具などの頻繁な消毒、子供達を同じ少人数グループにとどめたり、共有スペースの交代利用をしていました。
ただ、マスクについては、参加者全員ではなく、スタッフのみにマスク着用を義務付けていたようです。
幸い、キャンプ参加者の年齢は6~19歳で、運営スタッフの大半も21歳以下と若く、感染者の74%は発熱、頭痛、喉の痛みなどの軽症で、他は症状がなかったとのことです。
まぁ、マスクをつけていなかったとはいえ、12日前まで陰性と確認されていたのにこれですからね。
これについて、7月27日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演したニュースキャスターの辛坊治郎氏は、Jリーグが選手スタッフ全員2週間に1回定期のPCR検査を受けているにも関わらず、全員陰性だった選手スタッフから次の検査で陽性者が出ている事例を上げ、2週間に1回の検査では、意味がないと述べ、更に陽性でも無症状であれば、病院内を動き回て感染拡大させていくと指摘しています。
その通りです。
これらを見る限り、いくらPCR検査を増やしたところで、陽性者の発見・隔離と重症化させないケアは出来ても感染そのものの拡大は抑えることは出来ないのではないかと思います。
5.評判を落とした吉村知事
吉村知事の「うがい薬」発言について、筆者は非常に唐突だなという印象を受けたのですけれども、ネットでは利権絡みではないかという噂も出回っているようです。https://twitter.com/search?q=%E5%90%89%E6%9D%91%E3%80%80%E4%B8%AD%E5%9B%BD&src=typed_query
ポビドンヨードが含まれるうがい薬については、「明治うがい薬」や「イソジン」がありますけれども、これらは明治HD(明治ファルマ)や塩野義製薬が製造販売しています。
8月4日の吉村知事の発言後、両社株価は急騰。明治HDの株価に至っては年初来高値を更新しました。
このうち塩野義製薬は7月13日、中国平安保険集団との合弁会社「平安塩野義有限公司」を8月に上海に設立すると発表しています。

中国は、武漢ウイルスのワクチン開発情報をアメリカから盗んでいるとして、トランプ政権が目の敵にしているこの時期に製薬会社が中国と合弁企業を立ち上げるとは、間の抜けたというか、首を傾げる経営センスだと思いますけれども、それはさておき、7月27日、中国の何振良・駐大阪総領事が吉村知事を表敬訪問しています。http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=37423
2月に大阪総領事として赴任してから5ヶ月も経ってから大阪知事に表敬訪問とは、これが慣例なのかもしれませんけれども、それからわずか一週間であの唐突なうがい薬発言です。
また、作家の百田尚樹氏は7月31日に「最近、吉村知事が中国に近づいている感じがするので、少し警戒心を持っている。中国からのインバウンドはたしかに経済的な効果は見込めるが、それに頼りすぎるのは危険。どっぷり浸かると、麻薬になる。中国なしにはいられない身体になる。それが中国の狙い。」となんとも意味深なツイートを残しています。
勿論、これらは只のネット上の噂ですし、確証もありませんけれども、巷には武漢ウイルスに困り果て、藁にも縋りたい思いの方で溢れています。
そんな中、武漢ウイルスを使って利権を貪るようなことは万が一でもあってはならないと思います。
慌てて火消しに走っている吉村知事ですけれども、今回はちょっと味噌をつけたというか自身の評判を落とす結果になるのではないかと思いますね。

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