
1.日印物品役務相互提供協定
9月10日、政府は自衛隊とインド軍の間で食料や弾薬を融通する物品役務相互提供協定(ACSA)に署名したと発表しました。
この日、安倍総理はインドのモディ首相と約30分間の電話会談を行い、ACSA署名を歓迎。安倍総理は「両首脳がインド太平洋ビジョンを実施に移し、両国間の特別戦略的グローバルパートナーシップをさらなる高みに引き上げることができた」と強調し、任期途中で総理を辞任することを説明しました。
これに対し、モディ首相は、「安倍首相の個人的献身とリーダーシップにより、日印関係は大いに強化された」と労いの言葉を掛けたということです。
翌11日、安倍総理は「自衛隊とインド軍との緊密な連携が促進され、日印両国が協力して、国際社会の平和と安全に積極的に貢献していく。その大きな礎となるものです」とツイートしたのですけれども、お祝いのリプライが殺到しています。
筆者は8月20日のエントリー「蠢く中国と対中同盟」でACSAについて取り上げていますけれども、今回の日印ACSA締結によって、日印米豪4ケ国対中同盟が現実のものとなって近づいてきたように思います。
2.悲願のセキュリティ・ダイヤモンド
日印米豪4ケ国同盟は安倍政権にとって日本を守るための悲願とでもいうべき戦略です。
筆者は第二次安倍政権発足直後の2013年01月14日のエントリー「安倍総理のセキュリティ・ダイヤモンド構想」で、国際的な言論NPO組織に「プロジェクト・シンジケート(Project Syndicate)」に、2012年12月27日付けで、「Asia’s Democratic Security Diamond(アジアのセキュリティダイアモンド)」という安倍総理の論文が掲載されたことを取り上げたことがあります。
これは、オーストラリア、インド、日本、ハワイによって、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋権益を保護するダイアモンドを形成する戦略構想なのですけれども、今回のインドとのACSA締結で、この「セキュリティ・ダイヤモンド」が7年余かけてようやくにして実現出来たのではないかと思います。
憲政史上最長かつ最強とも言われた安倍内閣にして、その殆どの時間を費やしての実現です。やはり外交で何等かの大きな成果を出すためには、長期政権がいかに重要なのかを思い知らされます。
3.イギリスとの新経済連携協定
安倍政権の外交構想はそれだけではありません。
9月11日、茂木外務大臣とイギリスのトラス国際貿易相は、日英の新たな経済連携協定(EPA)をめぐる閣僚協議を行い、一部の農産品の関税水準など、残されていた課題で折り合い、日英交渉は大筋合意に達しました。
今回結ばれた日英経済連携協定は、去年2月に発効したEUとのEPAおおむね引き継ぐものであり、幅広い品目の関税が撤廃されます。
日英両政府は来年1月1日の発効を目指し、署名を経たうえで、それぞれの国内手続きを急ぐ方針としています。
茂木外相は記者会見で「およそ3ヶ月という異例のスピードで大筋合意することができた。TPP11やEUとのEPA、日米貿易協定に続いて、自由で公正な貿易体制の推進を日本が主導し、成果をあげることができた……今回、電子商取引をはじめ、EUとのEPAより、先進的かつハイレベルなルールに合意したことで、日英間の貿易投資のさらなる促進につながることが期待される。EUとのEPAで日本が得ていた利益を継続し、イギリスにある日系企業のビジネスの継続性も確保することが可能となる」と意義を強調しました。
一方、イギリスのトラス国際貿易相も「EUと日本との経済連携協定を上回る内容で、すばらしい合意になった。イギリスがEUから離脱したあと、独立した貿易国として結ぶ初めての主要な協定であり、テクノロジーや食品などの分野に大きな利益をもたらすことになる……日本からはTPPへの参加を支援してもらっており、明確な道筋を作っていきたい。来年初めにも正式に加盟申請の計画を出したい」とTPPへの参加に関し、今回の大筋合意が重要なステップになるという認識を示しました。
これでより一層日英の関係が強化されることになります。
8月22日のエントリー「シックス・アイズと二重の中国包囲網」でも述べましたけれども、たとえ日本がファイブアイズに参加できなかったとしても、日英関係が強化されることで、先に述べた、日米印豪のセキュリティダイヤモンドとファイブアイズ五ヶ国とを日本がハブになって結びつけると同時に、そのまま対中包囲網を形成することになります。
余りにも大きい安倍総理の置き土産。次の政権でも是非この土産を活かしていただきたいと思いますね。
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