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1.菅総裁誕生
9月14日、自民党総裁選の投開票が行われ、事前予測通り、菅官房長官が総裁に選出されました。
得票数は菅官房長官が377票と総数534票のうち7割を抑え圧勝しました。
注目の2位は岸田氏が89票(17%)と石破氏の68票(13%)を躱しました。
地方票は菅官房長官が89票、石破氏が42票、岸田氏が10票ですから、議員票は石破氏が26票。岸田氏が79票獲得したことになります。石破氏、岸田氏の派閥からの積み上げは石破氏が7票。岸田氏が32票。やはり石破氏は議員からはそっぽを向かれているようです。
さて、新総裁に選出された菅官房長官は、挨拶で「日本のリーダーとして、国家国民の為に、大変な御尽力いただきました安倍内閣総理大臣に、心から感謝申しあげる次第で御座います」と安倍総理への感謝を述べ、「新型コロナウイルスの国難にあって、政治の空白が許されない。安倍首相が進めてきた取り組みを継承し進めていかなければならない」と語りました。そして自身が目指す社会像として、「自助、共助、公助、絆」を強調し、「役所の縦割り、既得権益、あしき前例主義を打破して規制改革を進める。国民のために働く内閣を作っていく」と意気込みを語りました。
2.アメリカ国民が大統領を選ぶ前に選挙で選ばれた首相がいるだろう
これで菅総裁の次期総理がほぼ確定した訳ですけれども、次には党人事、組閣等々、次に注目が集まります。
中でも、燻っているのが、早期解散です。
9月9日、河野太郎防衛相はアメリカのシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)主催のオンラインイベントに参加し「来年の東京五輪・パラリンピックに備えなければならず、総選挙を実施できる期間は非常に限られている……新首相は恐らくその機会をつかむ。アメリカ国民が大統領を選ぶ前に、選挙で選ばれた首相がいるだろう」と自身の見通しを語りました。
筆者は7月17日のエントリー「今秋解散はあるか」で、9月解散、10月総選挙説を取り上げましたけれども、確かに河野防衛相が述べたように、武漢ウイルスが落ち着きを見せ始めていることと、来年の東京五輪等々の日程を考えれば、今秋の解散総選挙が現実解として挙がるのは左程現実離れした話ではありません。
3.解散は次の総理が決めること
ただ、現役閣僚の解散予測発言は、多方面に波紋を投げかけたのは事実です。河野防衛相の発言について政権幹部の間からは、「解散は次の総理が決めること」とか、 「そういうところが子どもだ」などと冷ややかな反応が相次いでいるそうで、一部で囁かれている、次期菅政権での官房長官就任も危ぶむ声も出ているようです。
批判を受けてか、誰かから窘められたのか。11日、河野防衛相は記者会見で自身の発言について「今後口を慎んでいきたい。余計なことを言わないようにしたい。言うべき人が言うべきものだ」と反省の弁を述べました。
その一方、記者から「今後丸くなってしまうのか」と問われると「そうなりたくないですね」と応じていますから、正直なところがどうなるか分かりません。
その解散について「言うべき人」となった菅総裁ですけれども、8日、テレビ朝日の番組で、衆院解散・総選挙について、武漢ウイルスの感染収束が最優先とした上で「こういう状況では解散とか、そういうことではない」と、慎重な姿勢を示しました。
菅総裁は、感染状況が落ち着いてきたとの見方に関し「専門家の話をうかがわなければ駄目だ……まだまだ国民の皆さんは怯えているから、一日も早く安心して生活する、日常を取り戻す環境を整えるのが政府の仕事だ」と述べました。
菅総裁は3日の時点では解散総選挙について別の民放番組で「状況次第」と含みを持たせていたのですけれども、少し慎重モードに入った形です。
4.下手したらすぐかもしれない
そんな中、13日、麻生太郎副総理は新潟県新発田市での講演で、次期政権は国民の審判を経ていないと批判されるだろうと指摘した上で、「それならば解散という感じがしないでもない。……タイミングは極めて大事だ。私の内閣でもすぐにやりたかったが、リーマンショックで足止めされ、その後、大敗の全責任を負う総裁となった……総理大臣は解散権を使う場合に最も悩む。いずれにせよ、1年以内に衆議院選挙は確実に行われる。下手したらすぐかもしれないと、早期解散もありうるという見方を示しました。
「今秋解散はあるか」のエントリーでも述べましたけれども、麻生副総理は、もとより今秋解散を主張していました。それに加え、今回の発言は、早期解散予測を口にして党内の顰蹙を買った河野防衛相を庇うと同時に、菅総裁に対し、解散に踏み切るようにと催促したように見えます。
当時の麻生政権がリーマンショックに見舞われ、解散のタイミングを逸した結果、自民党が大敗し、下野することになったのを過去の教訓にして、勝てるときに解散すべきだと決意を促したのではないかと思います。
嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、「菅政権は総選挙を経ていないので『正統性』に一抹の不安があり、早く解散総選挙をしたいと考えているはずだ。実際、2008年の麻生政権では早期に解散総選挙を打てず、『追い込まれ解散』となり自民党下野となった。その状況を菅氏はそばで見ていた」と述べています。
5.せっかく総裁になったので仕事をしたいなと思う
実際、自民党の政党支持率は他の野党を圧倒しています。
9月4日から6日にかけて日本テレビ系列各局と読売新聞社の共同世論調査では、自民党の政党支持率は41%と先月の33%から8ポイントアップしたのに対し、立憲民主など野党は軒並み一桁前半の支持率となっています。
この傾向は他社の調査でも同じで、自民党を支持すると回答した人は共同で45.8%(12.9ポイント増)、朝日が40%(10ポイント増)、毎日が39%(10ポイント増)で、野党各党はおおむね支持率を下げています。
確かにこの状況では、麻生副総理が解散に言及するのも無理はありません。
こうした世論の傾向について、政治意識論に携わる埼玉大の松本正生教授は、「安倍政権は、迅速に結果がわかるRDD方式の世論調査が報道各社に普及してからの長期政権だったこともあり、首相の辞任表明後に内閣支持率を調べた今回の調査は異例で、過去の事例と比較しようがない。おそらく『病を押して長く政権を運営し、ご苦労さま』という、ある種の『ねぎらい』が表れたのでしょう」と述べています。
そして、政党支持率については「党員・党友投票を『省略』し、ほぼ派閥の『談合』で次の首相を決める旧態依然としたやり方の自民党なのに、支持率は大きく上昇している。これは安倍さんへの『ねぎらい』、そして安倍路線を引き継ぐとみられる菅義偉官房長官への期待とともに、自民党へも一時的に注目が集まっているのでしょう……逆に野党は、新党の代表選をやっているにも関わらず支持率を下げている。有権者に、存在がほとんど認識されていない状況です」と指摘しています。
その上で、「今は一時的に新しい首相、政権に注目が集まっていますが、国民の関心は再び新型コロナや不景気に対する政権の対応に戻るでしょう。世論調査では、新型コロナに対する政策の成果で支持率などが判断されると思われます」とこの高い支持率が長続きするとは限らないとしています。
また前田幸男・東大教授は「コロナ対策がうまく行っていない時のようなネガティブな報道は減り、中立的な報道の量が増えたことで、支持率低下に歯止めがかかったと言えます。中立的な露出であれば、支持率は上がる傾向があります。平成から令和への『改元』で報道量が増えた時も、安倍内閣の支持率は上昇しました……自民党総裁選に関する報道も、異なる意見を戦わせるようなものではなく中立的なものが多いため、自民党の支持率を高めることになります。総裁選のようなイベントもメディア露出が増えます。2000年代の民主党代表選もそうでした」とメディアの報道姿勢が影響しているとの見方を示しました。
その一方で、「一部の世論調査を見る限り、菅氏を推す人は多くなっていますが、新内閣が安倍内閣の政策を継承することには多数派が反対しています。今後は政策での成果が大きく注目されますので、安倍政権の時とどう差別化して政策を推し進めるか、難しい課題を抱えることになると思います」とこちらも自民への高支持率は一時的なものとしています。
支持率が一時的なものであれば、猶更、高い内に選挙した方が自民にとっては良いことは言うまでもありません。
もっとも菅総裁自身は解散総選挙については「新型コロナの収束と同時に経済を立て直すことが大事だ」と述べました。「専門家の考え方を参考にしながら判断する。『下火になってきた』とならないと難しいのではないか……収束してすぐにやるかというとそういうことでもない。全体を見ながら判断したい」と述べ、「せっかく総裁になったので仕事をしたいなと思う」と付け加え、慎重姿勢を示しています。
というわけで、まずは党内人事と組閣に注目し、その後、また総選挙について考えてみたいと思います。
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