
1.王毅外相が欧州からフルボッコ
中国の王毅外相が8月24日から欧州五ヶ国を訪問しました。
その目的は無論、米中対立が激化する中、欧州を味方につけ、中国包囲網を作らせないことにあると見られていました。
ところが王毅外相は行く国の全てでボコボコにされてしまいました。
イタリアでは、コンテ首相に会談を拒否され、なんとか会談まで持ち込めたディ・マイオ外相臣には「国家安全保障法の施行の影響に引き続き注意を払う」と釘を刺されました。
オランダでは、ブロック外相に「中国共産党によるウイグル人への弾圧、香港の自由への懸念」を表明されました。
ノルウェーでは、北極圏の共同計画について対談する予定だったのが、王毅外相が「香港活動家にノーベル平和賞を与えることはできない」と発言して批判を浴び、さらに「新型コロナウイルスは中国起源ではない」との発言が物議を醸しました。
フランスではマクロン大統領に「ファーウェイの機器を規制はしないが、通信セキュリティーの観点からヨーロッパの5Gを採用するだろう」と通告された上に、香港や新疆ウイグル族の人権状況に対する深刻な懸念を伝えられ、公式声明はなし。ドリアン外務相と会談するも会談後の記者会見はありませんでした。
フランスの新聞「ジュルナル・デュ・ディマンシュ(Le Journal duDimanche)」は、王毅外相の訪欧の目的を、欧米間の結びつきを弱体化し、北京と欧州の個別国との二国間関係を強化し、結束された欧州に直面することを避けるためだとした上で、ファーウェイ5G問題から台湾問題まで、フランスと中国の間では対立が深まっていると指摘。欧州での中国人気は過去最低になっているが、王氏の訪問は人気回復にあまり役立っていないようだと報じました。
要するに失敗だったと論評した訳です。
2.中国に対する幼稚な思い込みからの決別
王毅外相の「戦狼外交」はドイツでも失敗しました。
ドイツを訪問した王毅外相は、台湾を訪問したチェコ上院議長に対して「高額を支払うことになるぞ」と恫喝発言して非難を浴び、それについて、マース外相との共同記者会見の場で、マース外相から「脅迫のようなやり方はそぐわない」と批判されています。
作家の川口マーン惠美氏は、共同記者会見でのマース外相と王毅外相は、ニコリともせず、ほとんど目も合わせないという凍りつくように冷たい態度だったそうで、演技かと思うほどの異常さだったと述べています。
記者会見の模様を伝えたZDF・国営第2テレビは、自身のホームページで王毅外相の訪独について「中国に対する幼稚な思い込みからの決別」という記事を掲載し、中国を手厳しく批判しています。
記事では、ウイグルで100万人が収容所に入れられていることや、香港で人権や協定が破られていること。そして、チェコの議員団が台湾を訪問したあと王毅外相に恐喝されていることも、中国がファーウェイが、ウイグル人の監視と抑圧に多大な貢献をしていることも、書いています。
そして、これらについて王毅外相が「内政干渉だ」と反発していることについてさえも「北京のプロパガンダである」と斬って捨てているのですね。
あれほど中国べったりであったドイツにして、この論調なのですから、ようやくにして、ドイツ、欧州も中国共産党の正体を知り始めたのかもしれません。
3.王毅外相の尻拭いと戦狼の限界
王毅外相の訪欧が終わって直ぐ、今度は、中国で外交を統括する楊潔チ政治局委員が、ミャンマー、スペイン、ギリシャを訪れました。
国営の新華社通信によると、スペインでは3日、サンチェス首相と会談し、スペイン産の農作物の輸入を約束するなど経済関係の強化で一致。翌4日にはギリシャのサケラロプル大統領とミツォタキス首相と相次いで会談し、「一帯一路」の事業として中国企業が整備しているギリシャ最大の港、ピレウス港のプロジェクトを引き続き推し進めていくことを確認しました。
楊潔チ政治局委員と王毅外相という、中国外交の実務を握るトップ2の人物が順に動くのは前例がなく、中国当局としては、武漢ウイルスへの対応や香港国家安全維持法の施行、そして、台湾を訪問したチェコの上院議長に示した強硬な姿勢をめぐってヨーロッパで広がる中国への反発を和らげたい狙いがあるとみられています。
「次々と暴露される中国の浸透工作」のエントリーで、9月にチェコを訪れたアメリカのポンペオ国務長官が欧州諸国に中国共産党に抵抗するように呼びかけたことを取り上げましたけれども、楊潔チ氏と王外相の今回の欧州訪問国には、ポンペオ長官が訪問した国は一つも含まれていません。
つまり、米中どちらも欧州各国を自国の側に取り込もうとしているともいえ、既に、オセロの如く、欧州は米中対立の代理戦争の盤面となっているのかもしれません。
ただ、アメリカは人権に対する基本的価値観と経済と二つの武器があるのに対し、中国は経済だけですから、その経済が尽きてしまえば、その次がありません。
現在のウイグルは香港などへの対応や「戦狼外交」を止めない限り、近々にアメリカの中国に対する経済的制裁がストップすることがないであろうことを考えると、中国の札束で頬を叩く作戦がいつまで続くが分かりません。
あるとすれば、トランプが大統領選で敗北し、バイデンが新大統領になったときに、新たな仕掛けをしてくることくらいのように思えます。
激動する世界。2020年後半も大変なことになりそうです。
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