
1.日本学術会議新会員推薦六名を任命拒否
10月1日、日本学術会議は東京都内で総会を開き、山極寿一前会長が、推薦した新会員のうち6人が菅義偉首相により任命を拒否されたことを明らかにしました。
山極氏は退任の挨拶で「日本学術会議法第7条で『推薦に基づき』とあるのは重い規定。任命拒否は日本学術会議の歴史になかったことで重大だ。大変残念だ」と菅総理に説明を求めていると報告しました。
総会では拒否された6人の名前は公表されなかったのですけれども、報道では、小澤隆一東京慈恵会医科大学(憲法学)、岡田正則早稲田大学(行政法学)、松宮孝明立命館大学(刑事法学)、加藤陽子東京大学(歴史学)、芦名定道京都大学(キリスト教学)、宇野重規東京大学(政治学)の6人の教授が任命を拒否されたようです。
山極前会長は「日本学術会議は内閣府と密接な関係を持つが、命令を聞く組織ではない。科学者が業績を精査して推薦したのだから、説明もなく任命しないことは重大な問題だ」と強調し、新しい会長らが、この問題を議論し、今後対応するよう求めました。
日本学術会議の会員は210人で任期は6年。3年ごとに半数が改選されます。今回の改選にあたり、日本学術会議は8月31日に105人の推薦者を内閣府に提出したのですけれども、総会直前の9月28日夜に、6人を推薦名簿から外してきたということです。
2.法制局に解釈を確認した
これに対して、日本学術会議やメディアは挙って、「学問の自由の侵害だ」だとか、「学者の研究活動が萎縮する」などと批判しています。
これについて、10月2日、加藤勝信官房長官は記者会見で「任命権者の首相が日本学術会議法に基づいて任命を行った……運営にあたっては独立性は当然求められるが、あくまでも首相の所轄だ。任命にあたって私たちとして責任を果たしている……私どもとしては今回推薦していただいた名簿からプロセスを経て任命させていただいた、ということだ」と任命の見直しに否定的な考えを示しました。
そして、科学者の研究が萎縮する可能性についても「憲法に書いてある学問の自由はしっかり保障しなければならない……直接そうしたことにつながるものではない」と否定しました。
加藤勝信官房長官は、日本学術会議法について2018年に内閣府と内閣法制局が協議し「推薦と任命に関する法制局の考え方が整理された」とその「解釈を確認した」ことを明らかにしています。

3.日本学術会議法
さて、日本学術会議とは何ぞやということなのですけれども、その設立目的について「日本学術会議法」の前文に明記されています。それは次のとおりです。
日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。日本学術会議とは「わが国の平和的復興、人類社会の福祉、学術の進歩」の為に設立された団体だということです。
前述した日本学術会議総会で、山極前会長が指摘した、会員の推薦規定を記した第7条は次の通りとなっています。
第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。この第7条では任命について「内閣総理大臣が任命する」とあるだけで任命せねばならないとも任命拒否も出来るとも書かれていません。
2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。
3 会員の任期は、六年とし、三年ごとに、その半数を任命する。
4 補欠の会員の任期は、前任者の残任期間とする。
5 会員は、再任されることができない。ただし、補欠の会員は、一回に限り再任されること
ができる。
6 会員は、年齢七十年に達した時に退職する。
7 会員には、別に定める手当を支給する。
8 会員は、国会議員を兼ねることを妨げない。
また、日本学術会議の職務については、第3条に規定されています。それは次の通り。
第三条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う。山極前会長が、日本学術会議は政府の命令を聞く組織ではないと指摘したのは、第3条にある「独立して左の職務を行う」に依拠してのことだと思われます。
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。
4.会員として不適当な行為
加藤勝信官房長官は、日本学術会議法について2018年に解釈を確認し、拒否も出来るとしたと述べていますけれども、こちらのブログでは、「総理に任命拒否の裁量権があるかどうかについて、日本学術会議の存在する意義、役割、目的などから総合的に考えていく必要がある」とした上で、日本学術会は、政府の方針や政策から独立した存在であり、総理の指揮監督を受けてはならないはずであることから、「原則として任命拒否できないと考えるべき」と述べています。
これを見ると、菅内閣が確認した解釈と食い違ってしまうのですけれども、件のブログにも、「日本学術会議は内閣から独立して、その目的達成のために活動する機関ですから、明らかにその目的に反するような人が推薦者に含まれる場合は、例外的に拒否できる場合を認めても差し支えないのではないでしょうか」と例外も有り得ると述べています。
件のブログ主はその例として「論文盗用」、「重大犯罪」、「推薦のプロセス自体に不正」などを挙げていますけれども、日本学術会議法の雑則第26条で次のように規定しています。
第二十六条 内閣総理大臣は、会員に会員として不適当な行為があるときは、日本学術会議の申出に基づき、当該会員を退職させることができる。ちゃんとここで、日本学術会議会員の退職規定がされているのですね。
そもそもにして日本学術会議の設立目的は先に取り上げたとおり、「わが国の平和的復興、人類社会の福祉、学術の進歩」の為に設立された団体です。つまり、日本の平和的復興や人類社会の福祉に反する行為は「会員として不適当な行為」に当たると解釈することも出来るのではないかと思うのですね。
5.中国に手を貸していた日本学術会議
自民党の甘利明元経済再生担当相は、自身のブログで日本学術会議について次のように述べています。
日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には積極的に協力しています。甘利氏によると、日本学術会議は、日本の軍事研究には反対し協力しないとしている癖に、中国の軍事研究と一体となっている「千人計画」には積極的に協力しているというのですね。
他国の研究者を高額な年俸(報道によれば生活費と併せ年収8,000万円!)で招聘し、研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプランでその外国人研究者の本国のラボまでそっくり再現させているようです。
そして研究者には千人計画への参加を厳秘にする事を条件付けています。中国はかつての、研究の「軍民共同」から現在の「軍民融合」へと関係を深化させています。
つまり民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか
これが本当であれば、日本の平和的復興どころか日本に脅威を齎すことに力を貸していることになります。
日本学術会議や野党、マスコミは、今回の任命拒否について「説明しろ」と喧しいですけれども、本気でこれらの問題を穿りだして、日本学術会議が中国に手を貸していることなど、その闇が暴かれたらどうする積りなのでしょうか。
それを考えると、現段階で政府が任命拒否の理由を明かさないのは、わざとこの問題で大騒ぎさせてから、国会の場で全てを明らかにして、日本学術会議ごとバッサリする積りなのではないかとさえ穿ってしまいます。
6.赤狩りと既得権益
現在、中国との対決姿勢を強めるアメリカは着々と、国内から中国の切り離しを進めています。
FBIのレイ長官は「中国はアメリカへの留学生を知的財産の収集者として使っている」、「そのような科学者や留学生は深くて多様で広くて厄介だ」と中国人留学生への締め付けを強化を示唆し、アメリカ政府は中国人民解放軍と関係しているとして中国人留学生1000人のビザを取り消しました。
アメリカだけでなく、イギリス、オーストラリアも中国をターゲットにした「赤狩り」が急激に進んでいます。
当然、これらの国々と外交・安全保障上の連携を強める日本も対応を迫られている筈です。
今回の任命拒否について、橋下徹元大阪市長は、「日本学術会議推薦の6人、任命されず 菅首相に任命権➡︎学術会議のメンバーに入らなくても学問はできるのだから学問の自由の侵害になるわけがない。むしろ学術会議は軍事研究の禁止と全国の学者に圧力をかけているがこちらの方が学問の自由侵害。学術会議よ、目を覚ませ!」とツイートする一方、「学術会議メンバーの任命権は、霞ヶ関の行政組織に対する人事権の行使とは異なるので任命拒否の理由を説明せざるを得ない。他方、学術会議側もメンバーの推薦プロセスや推薦理由を明らかにすべき。一部の学者に気に入られるかどうかが重要な要素になっていないか?国会で明らかになることを望む」ともツイートしています。
橋下氏が「学術会議は軍事研究の禁止と全国の学者に圧力をかけている」と述べていますけれども、もし政府がこれらを「日本の平和的復興や人類社会の福祉に反する行為」だから任命拒否したと説明したとしてそれで納得するか分かりませんけれども、少なくとも菅政権は「既得権益」を壊し、何が「当たり前」であるのかを国民に示しているように思いますし、またそれが実現できるかは、やはり国民が菅政権をしっかり支持することに掛かって来るのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
弓取り
パチンコ屋の倒産を応援するブログ
https://pachitou.com/
です。
日比野
コメントありがとうございます。
ブログコメント欄での紹介の件、了解いたしました。よろしくお願いいたします。