
1.菅総理とバイデン氏の電話会談
11月12日、菅総理はアメリカ大統領選挙で"勝利宣言"した民主党のバイデン氏とおよそ15分間の初めての電話会談を行いました。
会談の内容については、総理官邸のサイトに菅総理のコメントが公開されていますけれども、冒頭、菅総理がバイデン氏と副大統領候補のハリス上院議員に祝意を伝えたうえで、「日米同盟は、厳しさを増すわが国周辺地域と国際社会の平和と繁栄にとって不可欠であり、一層の強化が必要だ。自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、連携していきたい」と述べたのに対し、バイデン氏は「日米安保条約5条の尖閣諸島への適用について、コミットする。日米同盟を強化し、インド太平洋地域の平和と安定に向けて協力していきたい」と応じたということです。
会談後、菅総理は記者団に対し「バイデン次期大統領とともに日米同盟の強化に向けた取り組みを進めていくうえで、大変、意義のある電話会談だった。アメリカ訪問については、今後、しかるべきタイミングで調整することになる」と述べ、加藤官房長官も、午前の記者会見で、「日米安保条約第5条の沖縄県の尖閣諸島への適用については、インド太平洋地域の厳しい安全保障環境の中、日米同盟の抑止力を次期政権でも、引き続き強化する意志が表明されたということで非常に意義がある」と述べました。
一部には、まだ大統領が決まっていない段階で、バイデン氏に祝意を送り、次期大統領というのは如何なものかという批判も出ていますけれども、バイデン氏が自分が次の大統領なのだという既成事実を作りたいという"弱み"に付けこんで、「アメリカは尖閣の防衛義務がある」という言質を取りにいったのだとしたら、それはそれで悪くはないと思います。
ただ、それでも、もしトランプ大統領が大逆転するようなことがあれば、それに対するフォローは必要になります。その時は、もう安倍前総理にお出まし願うしかないでしょうね。
筆者とすれば、既に安倍前総理がトランプ大統領に裏で手を回していると願いたいところです。
2.ジャパンタイムスの記事
けれども、言質を取ったとしても、その言質が本当にそう受け止めてよいのかという観点があります。というのも、報道によっては違う内容を報じているところもあるからです。
菅総理や日本のマスコミは、バイデン氏が「日米安保条約5条の尖閣諸島への適用について、コミットする」と報じていますけれども、ジャパンタイムスは「Suga says he got Biden's backing on Senkakus in first phone talks」という記事で、バイデン氏は島々の名前には言及していなかったとしています。
なんでも、会談に同席していた日本政府高官によると、バイデン氏は安全保障同盟の強化に関する菅首相の発言に反応して第5条を持ち出し、尖閣諸島が対象となることは東京側の理解であり、島の支配権については議論しなかったとのことです。
ジャパンタイムスの報道が正しいとすると、言葉は悪いですけれども、「アメリカは尖閣を守ってくれるだろう」と日本が"勝手"に解釈していることになります。
3.ビビる台湾
日本以上に中国の脅威に晒されている台湾はもっと敏感です。
8日、台湾の蔡英文総統はバイデン氏とハリス上院議員に、「あなた方と一緒に仕事しながら友情を深め、国際社会に貢献することを楽しみにしている」との祝福のメッセージをツイッターで送りました。
与党、民主進歩党の幹部は「バイデン氏は中国よりもロシアを脅威だと考えているようだ。私たちが最も懸念しているのは米中が接近し、台湾は再び孤立してしまうことだ」と話したそうですけれども、蔡政権は今後、さまざまなルートを使ってバイデン氏周辺と接触し、信頼関係づくりに動き出すとみられています。
台湾にしてみれば、"親中"との見方もあるバイデン氏が大統領になって対中姿勢が融和に変わることは一番懸念されるところですからね。
こうした懸念について、台湾で対中政策を担う大陸委員会のトップ、陳明通主任委員は「アメリカの大統領交代で心配する必要はない。バイデン氏の中国に対する戦術には一定の変化があるかもしれないが、対中戦略自体に変わりはないだろう……過去のコメントや台湾への支持を踏まえると、バイデン氏は台湾と米国の関係強化に引き続き取り組むことが見込まれる」とアメリカの台湾への支持が根本的に変わるとは考えにくいと強調しています。
4.沈黙する中共
では、その焦点の中国はというとバイデン氏に祝電も送らず、沈黙を守っています。
その理由について、ドイツのフランクフルター紙が次の4つを上げています。
a)選挙結果に納得のいかないトランプ大統領が来年1月20日の任期切れまでに、中国に対してさらなる攻撃的なアクションを起こし、中国の利益が再び損なわれる可能性がある。なるほど、どれも有り得る理由です。
b)トランプ大統領が敗北宣言をしていない時点で祝電を送れば、「中国が選挙干渉を行った」という陰謀論を助長することになる恐れがある
c)バイデン氏が選挙運動中に新疆ウイグル自治区の問題などを取り上げて中国共産党や習近平国家主席を痛烈に非難してきたため、今祝電を送ってもバイデン氏の機嫌を取ることは難しいと考えている
d)現在のトランプ大統領の言動が「アメリカの民主制度はひどい」という中国側の利益になる論調を生み出しており、敢えて態度を示さないことでこの論調をさらに勢いづかせる狙いを持っているためだ
アメリカ大統領選の再集計、訴訟の行方がどうなるか分かりませんけれども、アメリカの次期大統領が誰になるのかは日本や台湾は勿論、世界に大きな影響を与えることは間違いありません。
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おじじ