
1.外国企業説明責任法
12月18日、アメリカのトランプ大統領が外国企業説明責任法(Holding Foreign Companies Accountable Act)に署名し法律として発行されました。
この法律は与党・共和党と野党・民主党の超党派議員が提出していたもので、2020年5月に上院で可決した後、下院で継続審議を得て、12月2日に可決されました。
今回の大統領署名で、アメリカに上場する有価証券の発行元が外国政府に所有あるいは管理下にないかを証明するよう求めるもので、発行者が海外の会計事務所を用い、公開企業会計監視委員会(PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)による監査が行えない場合は、この証明を必ず行わなければならないとするものです。
この法律によって、企業は次の情報を明らかにしなければならなくなります。
・発行者の株式の何割を政府機関が所有しているか
・政府機関が支配的な財務上の利害関係を有しているかどうか
・発行者の役員会のメンバーおよび定款に、中国共産党が含まれているかどうか
法律の名称こそ外国企業となっていますけれども、中身に中国共産党(Sec3b-4/-5)と出ているように、明らかに中国企業を狙った法律です。
米中経済安保調査委員会(U.S.-CHINA ECONOMIC AND SECURITY REVIEW COMMISSION)によると、先に合衆国主要株式市場に上場している中国企業は「217社」だそうで、最低でもこれだけの中国企業がターゲットになってた訳です。
2.規制強化の流れは変わらない
アメリカでは公開企業会計監視委員会(PCAOB)が、米上場企業の監査を担当する監査法人を定期的に検査し、財務諸表の質を担保しているのですけれども、オバマ大統領の時代に、中国企業に対する監査をザルにしてしまい、アメリカ当局の検査が十分に入ってきませんでした。
その結果、粉飾決算を行っているような中国企業がアメリカに上場し、投資家に甚大な被害を与える事例が発生していました。
今回の法律で、アメリカに上場する企業が公開企業会計監視委員会(PCAOB)による監査状況の点検を3年連続で拒んだ場合、株式の売買は禁止となります。
また、この法律は、超党派の賛成を集めて提出されたことから、仮に民主党のバイデン氏が次期大統領に就任した場合も、規制強化の流れは変わらないとの見方が強いようです。
この法律について、市場分析情報サイト「スマートカルマ」を運営するエクイタス・リサーチのパートナー、スマート・シン氏は、監査法人への検査を中国当局が容認することは考えにくいと指摘し、「中国当局が何らかの譲歩をするとしても、恐らくぎりぎり3年後になる」と述べ、それまでの間に大半の中国企業は保険の意味で香港などでの重複上場を目指すと予想しています。
実際、今年は香港市場で12件、金額にして過去最多の191億ドル規模の重複上場がありました。具体的には電子商取引(EC) の京東商城(JDドットコム)、オンラインゲームの網易(ネットイーズ)、ファストフードチェーンの「KFC」や「ピザハット」のフランチャイズ権を持つヤム・チャイナなどです。
まぁ、次期政権にもよりますけれども、大きな流れとして、アメリカは中国排除に舵を切った訳です。
3.輸出禁止措置
アメリカの対中制裁はまだまだ強化されています。
12月18日、アメリカ商務省は、中国の軍事活動に利用されているとして、中国の半導体受託製造大手「中芯国際集成電路製造(SMIC)」など60社超を輸出禁止措置の対象に追加したと発表しました。
ロス商務長官は声明で「好戦的な敵対勢力の軍事力強化に米国の先端技術が使われることを許さない」と述べました。
対中制裁が強まる中、SMICは中国が半導体の国産化を強化する上で中心的な存在となっています。
けれども、半導体を作る製造装置は日米欧で独占しています。次の図は2019年の半導体製造装置の企業別シェアですけれども、仮にアメリカ製半導体製造装置が使えなくなるだけで、生産は事実上ストップしてしまいます。
それに今あるアメリカ製製造装置とて、メンテもしてくれなくなるでしょうから、今のラインを騙し騙し使ったとて、段々不良品も増えてくるだろうと思います。

4.傾く紫光集団
12月10日、中国の国有半導体大手の紫光集団は自社社債「18紫光04」の今年度の利息を期日どおりに支払えないと発表しました。
紫光集団は中国国内で理工系最高学府の清華大学を母体とするハイテク企業グループで、傘下にITサービスなどを手がけるユニスプレンダー、半導体設計大手の紫光国芯微電子、半導体設計大手の紫光展鋭、フラッシュメモリー大手の長江存儲科技などを収めています。
今回支払えないとした社債は2018年12月7日に発行されたもので、発行規模は50億元(約797億円)、償還期限は5年、表面利率は5.20%と紫光集団の償還期限前の社債のなかで最大です。
それだけでなく、紫光集団は傘下の紫光国際が海外で発行した額面4億5000万ドル(約470億円)、表面利率6.0%の社債がデフォルトしたことも明らかにしました。
紫光集団が債務危機に陥った原因として積極的なM&A(合併買収)とそれに必要な資金を過度に債券発行に依存したことにあるとされています。
半導体産業は資金の初期投資から回収までの期間が長くことから、一定の実績がある企業を買収する場合には高いプレミアムを上乗せしなければならないケースが多いとされています。
紫光集団が買収した企業の純資産(簿価)と実際の買収価格の差額、いわゆる「のれん代」は、2019年末時点で539億元(約8593億円)にも上り、資金調達に発行した社債も2019年1~3月期に2本の社債を発行した後、新規起債は困難になっています。
紫光集団は外部の投資家を呼び込むことで債務危機を乗り切ろうと試み、2018年8月から、国有資本の出資を受ける意向を繰り返し表明してきたのですけれども、上手くいっていません。
そんな中での今回のアメリカによる輸出禁輸制裁です。
今後、中国国内の半導体企業は半導体生産が出来なくなる可能性が高くなりました。そんな企業に投資する投資家などある筈もなく。今後紫光集団はかなり厳しい状況に追い込まれることになると思います。もちろん、これは他の中国半導体企業も同じです。
中国経済が傾くのか。動向に注目です。
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