
1.日本は事実を客観的に伝えるべき
11月30日と12月1日の両日、「第16回東京−北京フォーラム」が行われました。
このフォーラムは日本の民間団体「言論NPO」などが毎年行っているもので、今年は、武漢ウイルスの影響もあって東京と北京の会場をオンラインで結んでの開催となりました。
初日の11月30日の開幕式には、先日の尖閣発言で物議を醸した王毅外相がビデオメッセージを寄せました。
ビデオメッセージで王毅外相は、ビジネス関係者の往来が30日から再開されたことについて、「経済活動の再開についての協力を加速させ、経済回復の重要な支えとなることを信じている」と期待感を示す一方で、日中の世論調査で日本人の対中好感度が悪化したことについて、「正確さはともかく両国国民の感情の差は事実である。我々は重視し、深く考えるべきだ……一部の日本国民の中国に対する認識は真実と全面的な情報が欠如し、偏っている……多くの国際機関の独自調査によると、中国国民の党と政府への満足度は長年にわたって90%以上である。このような事実を日本メディアは客観的に伝えるべきだ」と注文をつけました。
相変わらずの傲岸不遜振りです。
中国では、メディアは中国共産党や政府の道具であり宣伝機関ですから、こういう発想になってしまうのでしょう。
ただ、筆者にしてみれば、日本のメディアは客観的に伝えるどころか、中国に忖度しているでしょうと言いたいくらいです。
2.中国の対外大宣伝
中国政府は、2009年に450億人民元もの巨費を費やして、全世界に「対外大宣伝」プランを策定し実施を始めました。
当時、中国は政府の官製通信社・新華社がタイムズスクエアに北米総局を開設。「人民日報」傘下の人民ネットがマンハッタンのエンパイアステートビル30階に事務所を構えました。
その後、中国の対外大宣伝は加速。2009年には米国国際衛星テレビ買収や、米国中国語テレビチャンネル「天下衛視」を買収。
2015年にはアリババが香港英字紙の南華早報メディア事業を321億円で買収。2018年には実業家のパトリック・スンシオン氏がロサンゼルス・タイムズを買収しています。
当時、ソーシャル・メディアでは、ロサンゼルス・タイムズが中国の外国宣伝メディアになったという声で溢れました。
けれどもこうした事実を日本のメディアが報じたとは聞きません。中国が対外宣伝工作をしていることは日本人の多くは知っていると思いますけれども、おおやけには報じられない。
先の「東京−北京フォーラム」では、中国に新たに着任した日本の垂秀夫大使もオンラインで参加し挨拶しているのですけれども、垂大使は日中間の懸念について、その原因は両国間の信頼関係の欠如にあると指摘し、世論調査で日本の対中好感度が悪化した理由について、沖縄県尖閣諸島や南シナ海の問題が挙げられていることを踏まえ、「このような深刻な事態に至った原因はどこにあるのか、反転させるために何ができるのか、真剣に考える必要がある。具体的な問題については中国側にも言い分があるかもしれないが、それらをあげつらっているだけでは何の解決にもならない」と釘を刺しています。
けれども、そんな苦言を聞くような中国ならば、こんなことになってはいません。
3.日本人は恐ろしい民族だ
今回のアメリカの大統領選の混乱の裏に中国が暗躍しているという噂がネットを中心に流れていますけれども、オーストラリアの政治アナリストで中国共産党による情報工作活動に詳しいジョン・ガーノー氏は中国の浸透工作について、活動は多岐にわたり、文化事業や商談を装ったイベントから宣伝工作、いざというときに頼れる人脈の確保まであるとしています。
そして、中国によるソーシャルメディアへの投稿について、特定の陣営に露骨に加担するものではないと述べています。
たとえば、警官による黒人殺しの問題では、人権派の主張も保守派の主張も等しく拡散させていました。これについてガーノー氏は「中国は攪乱はするが、破壊はしない」と述べ、正面切ってアメリカと敵対するのではなく、アメリカ社会に入り込んで、自分たちの味方を増やそうとしていると指摘しています。
今のトランプ政権は中国の浸透工作を明確に認識して、排除を始めましたけれども、まだ始まったばかりです。
今年2月にワシントンで開かれた全国州知事会の会合で、ポンペオ国務長官は中国共産党が州や地方都市のレベルでも親中派を見つけ出し、手懐けようとしていると語りました。
ポンペオ国務長官は、中国のある機関が州知事の「親中度」を採点した報告書を作成していると明かし、その報告書によると、全米50州の知事のうち17人が「親中派」、14人が「中立」、6人が「強硬派」に分類されていたそうです。
4.日本は分断しにくい国
当然こうした工作は当然、日本でも行われていると考えるべきです。ただそれがアメリカと同じようにいくかはまた別の話です。
先にみたとおり、中国の浸透工作は、相手国を分断して、味方を増やすというものですけれども、中国からみて日本は非常に分断しにくい国と見ているのではないかと筆者は思っています。
なぜなら、分断する為には、まず意見の対立があり、それをエスカレートさせなければならないからです。
勿論、日本の世論にも意見の対立はあります。それが当たり前です。けれどもその対立が「暴力行為」を伴うところまではいかない。
今年5月、警視庁の渋谷署員から威圧的な職務質問を受けたなどと主張するクルド人男性らが抗議デモを実施しましたけれども、そこにANTIFAと思しき「極左暴力集団」が紛れ込んでいたと指摘されていました。ところが、アメリカのような暴動が起こるわけでもなく、そのまま終わっています。仮に、その「極左暴力集団」が暴動を扇動をしようとしていたとしても、見事に不発に終わったであろうと予想されます。
たとえ、意見の対立があったとしても、それがエスカレートするためには、相手に対する憎しみというか何らかの相当な激情がなければ中々そこまでいかないものです。
日本人は良くも悪くも憎しみを表に出す民族ではありません。どこかの半島とは違います。
憎しみを余り持たない相手を炊きつけるのは中々大変です。勿論、日本にも「極左暴力集団」がいて、彼らが暴力行為に及ぶことはありますけれども、そんなことをしても日本人はドン引きするだけで、共感を得ることはありません。暴動を扇動しにくい人々だということです。
5.日本民族が恐ろしい理由
中国メディアの捜狐はこのほど、「日本民族が恐ろしい理由を考察する」と題する記事を掲載し、中国人が「日本人に恐怖を覚える理由」を述べています。
記事では、過去に開催されたサッカーワールドカップでは、日本代表の選手たちが毎試合ロッカールームを清掃して会場を後にしていたことが世界的に大きな注目を集めたことを紹介し、驚くべきは「試合に負けた後も同じように繰り返されたことだ」と述べました。
そして、「第2次世界大戦の終戦時」に、満州から引き揚げる日本人のなかには「それまで住んでいた家を綺麗に片付けて後にした人がいた」と伝え、家の鍵を引き継いだ中国人は綺麗に片付けられた家の中を見て「日本人は恐ろしいと感嘆したそうだ」と紹介しています。
これらの事例から、日本人にとって「最後のロッカールーム」は泣き叫んだり、わめいたりする場ではなく、「気持ちを整理し、次の挑戦に向けて心を切り替える場」なのだろうとし、こうした精神性だからこそ、日本は第2次世界大戦の敗戦後もあっという間に復興できたのではないかと主張しています。
また、日本人が恐ろしいのは「日本に強者を崇拝する文化」があることも理由の1つだとし、日本人は強者を崇拝しながら強者から多くを学び、最終的に強者を上回る能力があると伝え、こうした長所こそ中国人が「日本人に恐怖を覚える理由」だと述べています。
この記事が伝える「最後のロッカールーム」にしても「家を綺麗に片付けて後にした」ことにしても、日本人は「憎しみ」や「恨み」を表に出さずに飲み込んで耐え忍ぶ、あるいは水に流すという気質が大きく影響しているように思います。
日本人にとって、ごく普通のこれら行動や考え方に中国人が本当に「恐怖を覚える」のであれば、それはそれで、一種の「抑止力」となって働く可能性があると思います。
それは、耐え忍んでいる感情がいつ爆発して、何をするか分からない、コントロールできないという恐怖に似た感情かもしれません。
実際に、「極左暴力集団」が今の日本国内で暴力を伴う内乱を起こそうとしても空振る可能性が高い。かといって、メディアを手玉にとって、日本人を洗脳しようとしても、日に日に既存メディアの信頼性が落ちる現状では、それも厳しいと思われます。
その意味で、一番、怖いのは、今回のアメリカ大統領選で明らかになった、ツイッターやフェイスブックの「検閲」なのかもしれません。言いたい事をいうことすら出来ない、偏った情報しか聞けないという状況では正しい判断も出来なくなりますからね。
その意味では、社会のネット化が進むのは結構だと思いますけれども、アメリカ大統領選を見るにつけ、デジタルだけに頼ることにも危険が潜んでいると思います。
であれば、バックアップ的な意味で、家族やローカルな共同体、手紙やはがきといったアナログ的な繋がりもそれなりに残しておくことも大事ではないかと思いますね。
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