
1.ロンドン・タイムズが日本政府が内密に東京五輪中止を決定と報道
1月21日、イギリスのロンドン・タイムズは、「日本が新型コロナウイルスのため東京五輪からの抜け道を探る」との見出しで「日本政府は内密に新型コロナウイルスのために東京五輪を中止しなければならないとの結論を出した。現在の焦点は次に開催枠が空いている2032年の五輪大会を確保することにある」と伝えました。
記事では「連立与党の古参議員の1人によると、すでに1年延期されている五輪大会の開催は、もう絶望的だということで意見が一致している……今の目標は東京が後日、五輪を主催できる可能性を残す形でメンツを保つ中止発表の手法を探し出すことにある」とし、ロンドン・タイムズへの情報提供者の「誰もそれ(中止決定)を最初に言い出したくはない。だが、ほぼ一致した意見としては困難過ぎるというものだ。個人的に五輪があるとは思わない」というコメントを紹介しています。
東京五輪の後は2024年にパリ、2028年にロスでの開催が決まっているのですけれども、水面下では開催地が決まっていない11年後の2032年まで東京五輪を延期するというBプランが進行しているとしています。
先日、ロンドンオリンピック組織委員副会長のキース・ミルズ氏は、イギリスBBCラジオのインタビューで、「ワクチンが我々の望む以上に早く行きわたり、最後の最後で状況が劇的に改善するケースは残っていると思う。だが、それは難しいだろう。個人的には現時点の南米、北米、アフリカ、欧州の世界中のパンデミックを見てみると可能性は低いように見える……もし東京で組織委員会に身を置いているのであれば中止の計画を用意するだろうし、間違いなく彼らは中止計画を持っていると思う。あと1か月か、そのあたりで決断の必要があるだろう」などと発言しています。
2.そんな事実は全くない
1月22日、日本政府は、「そのような事実は全くない……東京大会については、競技スケジュールと会場が決定されており、夏からの大会の成功に向けて、関係者が一丸となって準備に取り組んでいる……政府としては、感染症対策を万全に、安全・安心な大会の開催に向けて、引き続き、国際オリンピック委員会や大会組織委員会、東京都などと緊密に連携して、準備をしっかりと進めていく」とのコメントを発表し、ロンドン・タイムズの報道を否定しました。
また、大会組織委員会も「政府、東京都、組織委員会、IOC、IPCなどすべての関係機関が、ことしの夏の大会の開催に完全に注力している。組織委員会としては、一日も早い社会の回復を願い、ことしの夏の安全で安心な大会開催実現に向けて、引き続き、関係団体と緊密に連携し、準備に尽力していきたい」とのコメントを発表しています。
更に、東京大会の準備状況を監督するIOCのコーツ調整委員長は、地元オーストラリアのメディアの取材に対して「大会の中止に関する議論は何も行われていない。われわれは菅総理大臣や大会組織委員会の森会長からこの記事のようなメッセージを受け取っていない」と報道を否定。
オーストラリアオリンピック委員会も「オーストラリア選手団が東京大会に出場し、ウイルスに感染することなく帰国することを確実にするための計画を続行する」などと述べ、東京大会に予定どおり選手団を派遣する意向を表明しました。
そして、アメリカオリンピック・パラリンピック委員会も声明を発表し、「公式の連絡はすべてIOCや大会組織委員会、そして日本政府から入る。大会が予定どおり行われないことを示す情報は受け取っていない。われわれはこれまでどおりこの夏の大会に向けてアメリカの代表選手の健康と準備に集中していく」とコメントしています。
まぁ、要するに公式発表では、東京五輪は行うという"建前"を守っています。
3.日本政府とIOCのチキンレース
スクープを公式に否定されたロンドン・タイムズですけれども、ロンドン・タイムズは、1785年に"Daily Universal Register"として創刊され、1788年に"THE TIMES"と改名した、最も長い歴史を持つヨーロッパを代表する高級新聞です。
発行部数や報道の質で他紙を圧倒し、世界の歴史とイギリスの国策に影響を与える力を持っており、世界各国における新聞の模範とまで言われています。
そんな高級紙がこんな大きなニュースを誤報すれば、信用失墜になりますからね。筆者はロンドン・タイムズの記事は相当程度当たっているのではないかと思います。
では、なぜ政府やIOCは開催すると言い続けるのか。
これについて、立教大学法学部の早川吉尚教授は「まず五輪開催の決定権はIOCにある。これが大前提。日本には何の決定権もないんです……五輪を主催するIOCに対し、日本は場所を提供する立場。だから、日本が開催できませんって言えば、場所を貸す契約義務を果たさないのだから当然、莫大な賠償金が発生します」と指摘しています。
早川教授の見立てでは、賠償金金額は少なくともIOCの重要な基盤となっているアメリカ・テレビ局の放映権料を補填する金額が請求され、約1200億円にも及ぶそうです。
一方、IOCが中止を判断する場合について、開催都市契約の第66条に「IOCが本大会の中止を決めた場合」として「すべての損害賠償およびその他の利用可能な権利や救済を請求するIOCの権利を害することなく、即時に本契約を解除する権利を有する」と明記されていると述べています。
ただ、早川教授は「IOCは放映権料が入ることを前提に運営されているから、自ら中止を決断することは絶対にないでしょう。日本だって損害賠償を自分から払いにいくわけはない。『できない』とは言わないでしょうね」と述べています。
つまり、金を巡って日本とIOCとで壮大なチキンレースが行われているという訳です。
確かIOCは東京五輪の開催可否をWHOに判断してもらう云々の責任逃れをしていたことがあったように記憶していますけれども、先日、IOCの元副会長で名誉委員のケバン・ゴスパー氏は、国連に開催可否の判断を委ねる可能性に言及しています。
よほど自分で中止を宣言したくないようです。
4.無観客での開催案
他方、妥協案として無観客での開催案も上がっています。
1月22日、ロンドン五輪で組織委会長を務めた世界陸連のセバスチャン・コー会長は、イギリスBBC放送のテレビ番組に出演し、東京五輪について、「大会を開催できる唯一の方法があるとすれば、無観客だ。今は誰もがそれを受け入れると思う……選手がいてテレビ中継があれば、大会の大部分になる。現時点では競技団体やIOC、日本政府、大会組織委には開催する決意がある」と語っています。
確かに可能性としては無観客での開催はあり得ると思いますけれども、もしも無観客開催の前例が出来れば、金食い虫との批判もあるオリンピックは、今後、無観客開催も選択肢の一つとして検討されるかもしれません。
無観客であれば、極端な話、競技場だけあればよく、観客を迎え入れるためのインフラ整備も必要なくなります。そうなれば、金のない国や途上国でも開催できることになります。これはこれで、もともとのオリンピックの精神と外れている訳ではありませんから、悪い選択でもないと思います。
ただ、理念まみれともいわれるIOCがその美味しい餌を手放すことが出来るのか。
東京オリンピックを中止するのか、無観客で行うのか分かりませんけれども、武漢ウイルスはある意味、オリンピックの在り方を逆に問いかける機会にもなっているようにも思いますね。
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