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1.難民保護法案を野党が共同提出
2月18日、立憲民主党、国民民主党、共産党、沖縄の風、れいわ新選組、社会民主党と共同では、「難民等保護法案・入管法改正案(難民等の保護に関する法律案、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案)」を参院に提出しました。
この法案では、学識経験者らで構成する独立性の高い委員会が、国際的な基準に沿って難民認定できるように定めています。
筆頭発議者である立憲民主の石橋通宏議員は法案提出後に記者会見で、日本で2019年に難民申請者1万人のうち認定されたのはわずか0.4%にあたる44人だったことを紹介し「本来であれば難民として保護されるべき方々、保護すべき方々がわが国では保護されていないことが根本的な問題。戦後ずっと、難民条約を批准した以降も日本の出入国管理制度の中に難民認定・保護の政策、制度が法律上も制度上も押し込まれてしまったがために、本来は適正に受け入れるべき、審査をすべき難民の申請者が残念ながら基本的には管理するという制度の中で、基本的にはできるだけ入れない、できるだけ帰っていただくという制度、建付けの中で今の今まで運用されてきてしまったことに、根本的、根源的問題がある。これを変えないと、いくら弥縫策的に上辺だけのパッチワーク的な対応をしようとしても、根本が変わらなければ変わらない」と、入管法から切り離して難民保護法案を新設する趣旨を説明しました。
2.難民の定義
日本の難民認定率が、異常に低い理由は様々ありますけれども、大きな理由の一つとして、難民認定審査の厳しさが挙げられています。
日本は、1970年代後半のインドシナ難民漂着を切っ掛けに、1981年に難民条約に加入しました。
難民条約の第一条には「難民の定義」がされているのですけれども、日本はこの難民の定義を厳格に守り難民認定していると指摘されています。
その難民条約の第一条「難民の定義」から一部抜粋します。
第1条【「難民」の定義】難民条約が定義する難民とは、「国際避難民機関憲章で認められた者」か、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあり、保護を受けることができない者」という訳です。
A この条約の適用上、「難民」とは、次の者をいう。
(1)1926年5月12日の取極、1928年6月30日の取極、1933年10月28日の条約、1938年2月10日の条約、1939年9月14 の議 定書または国際避難民機関憲章により難民と認められている者。国際避難民機関がその活動期間中いずれかの者について難民としての要件を満たしていないと決定したことは、当該者が(2)の条件をみたす場合に当該者に対し難民の地位を与えることを妨げるものではない。
(2)1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者またはそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まない者。
二以上の国籍を有する者の場合には、「国籍国」とは、その者がその国籍を有する国のいずれをもいい、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するという正当な理由なくいずれか一の国籍国の保護を受けなかったとしても、国籍国の保護がないとは認められない。
日本の難民認定は「事実の認定」に重きが置かれ、本人の主張と出身国の情報を突き合わせながら判断していきます。日本の場合は、それらの情報の収集を本人が行うように求められ、情報が信用できるかどうかについて高い基準を設けています。
3.難民受け入れとウイグル人ジェノサイド問題は別
今回の野党の難民保護法案について、日本ウイグル連盟会長のトゥール・ムハメット氏は「日本における難民受け入れとウイグル人ジェノサイド問題を分けて考えて欲しいです。ウイグル人ジェノサイド問題を利用して、日本の難民受け入れ問題を解決したい、という一部の政治的意図には、ウイグル人として賛同することは出来ません」とツイートしています。
確かにある問題を出汁にして現行法をなし崩しにしてしまうというのは、ままあることだと思います。しかも、今回の難民保護法案は、学識経験者らで構成する委員会が難民認定できるようにするという、入管法から切り離した法案ですから、抜け道ですし、なし崩しといってよいかと思います。
トゥール・ムハメット氏は、ウイグル人ジェノサイド問題を利用して、政治的意図を押し通すなと述べています。これはその通りだと思います。問題はジェノサイドであって、難民ではないからです。
ただ、あくまでも、現行法でウイグル人難民を認めることは、間接的にウイグル人ジェノサイドを認定することになるのではないかという気もします。
なぜなら、難民条約に従えば、ウイグル人難民は「ウイグル人あるいは政治的意見を理由に中国から迫害を受けている」ことを意味するからです。それを日本が難民認定することはそのまま中国がウイグル人を迫害していると認めたことになります。
「中国のウイグル弾圧をジェノサイドと認められない日本政府」で、日本が中国によるウイグル人ジェノサイドを認められない理由は、ジェノサイド条約に加盟しておらず、憲法九条が邪魔をしていることを紹介しましたけれども、ジェノサイド条約に加盟できないのであれば、既に加盟している難民条約を使って、ウイグル人ジェノサイドを間接的に認めるという手もあるかもしれません。
しかも、現行の法律では難民との事実認定は、本人の主張と出身国の情報を突き合わせながら判断することになっています。当然ながら中国はジェノサイドなど認めないでしょうから、ウイグルの人達の主張と中国政府の情報は合致することはありません。にも拘わらず難民認定できたとしたら、中国政府が嘘あるいは隠蔽していると国際的に宣言することになります。
翻って、野党が提出した難民保護法案では入管法を無視して、委員会とやらが"勝手に"難民認定することで、中国のジェノサイド認定をスルーすることになる訳です。これは結果的に中国をサポートすることになります。
4.難民受け入れは慎重に判断すべきだ
2020年1月に内閣府が発表した「基本的法制度に関する世論調査」と「外国人の受け入れに伴う環境整備に関する世論調査」の結果では、難民や人道上の配慮が必要な人の受け入れについて「どちらかといえば慎重に受け入れるべきである」「慎重に受け入れるべきである」は56.9%と、「積極的に受け入れるべきである」「どちらかといえば積極的に受け入れるべきである」のは24.0%とは倍以上のスコアになっています。
慎重に受け入れるべきだとする理由で最多は「受け入れる人の中に、犯罪者などが混ざっていた場合には、治安が悪化する心配があるから」が67.2%。2位は「受け入れることで、文化や価値観、生活習慣などの違いによる社会的摩擦が生じるなど、暮らしにくくなることが心配だから」の39.3%となっています。要するに治安を心配しているということです。
また、「これまでの日本における、難民及び人道上の配慮が必要な人の受入れ数についてどう思いますか」という設問に対しては、1位が「どちらかといえば少ないと思う」の30.1%と2位の「少ないと思う」の24.5%で、過半数を超えていますけれども、3位には「日本の受入れ数は、難民認定制度に従い判断された結果であるから、多い少ないの問題ではないと思う」との回答が19.1%もあったのですね。
まぁ、難民認定というと、ともすれば、受け入れ側の問題のように取り上げられることが多いように思いますけれども、認定制度の内容の厳格さを利用して、中国政府はウイグル人をジェノサイドしているのだと認定する手があることは頭の片隅においておいてもよいかもしれません。
ただ、日本国籍取得を希望するウイグルの人達への中国当局による執拗な弾圧を考えると、ウイグル人個人に直接圧力を掛けて、難民申請そのものをさせないようにしてくる可能性が高いと思います。
やはり国としてジェノサイド認定をするのが先であり、国際社会として取り組む問題であると思います。
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