連携する日米台と取り残される韓国

今日はこの話題です。
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1.サプライチェーンを見直す


2月24日、アメリカのバイデン大統領は、半導体など安全保障上で重要部材のサプライチェーン(供給網)を見直す大統領令に署名しました。

大統領令は「半導体」、「電気自動車(EV)などに使う高容量電池」、「医薬品」、「レアアースを含む重要鉱物」の重点4品目の供給網を100日以内に見直し、防衛やITなど6分野は1年以内に戦略をまとめることを求めるものです。

具体的には、中国など対立国に依存する品目を洗い出した上で、安定して製品を確保できるよう、調達先の分散や国内生産強化といった具体策を打ち出すことや、企業の提携や工場建設を後押しするため、補助金などの企業支援策を検討すると見られています。

アメリカ政府高官は「供給網の脆弱性を減らすため、同盟国やパートナーと協力する」と述べています。

現在、半導体では受託生産世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)が拠点を構える台湾、レアアースでは生産大手ライナス社を擁するオーストラリアをそれぞれ巻き込み、日本など同盟国と協力する構想を描き、在庫や生産の調整、情報共有を行うことや、連携対象の国や製品の拡大も検討するとしています。

この供給網再編は、バイデン氏が大統領選で公約に掲げていた「サプライチェーンの米国回帰」に沿った動きでもあります。

アメリカは先端技術供給の「脱中国」に舵を切りました。


2.取り残される韓国


バイデン氏が大統領令で掲げた重点4品目のうち半導体については、昨年秋頃から、世界全体で需給が逼迫しています。

というのも例の武漢ウイルスパンデミックによって、世界経済のデジタル化が加速。スマホや高性能コンピューター向けの最先端半導体の需要が高まりました。

また、トランプ前政権が、中国のファウンドリーであるSMIC(中芯国際集成電路製造)へ制裁を科したことで、車載半導体メーカーは委託先をSMICからTSMCへ切り替え、TSMCには供給能力を上回る注文が集まりました。その結果、車載半導体が不足し、米国ではフォードとGMが減産を決定するまでになっています。

労働組合を主な支持基盤としてきた民主党にとっても、半導体確保は重要課題となっています。

そこで、バイデン政権は、台湾当局や半導体ファウンドリー最大手であるTSMC(台湾積体電路製造)との関係強化に動き始め、日本の半導体産業へもアプローチを掛けてきています。

世界の半導体受託製造分野では、台湾のTSMCが54%、韓国のサムスン電子が17%程度のシェアを持っています。

昨年5月、サムスン電子はソウル南方の平沢市にあるファウンドリー事業向け施設で5ナノメートル半導体の製造ラインの建設を開始し、ファウンドリー事業の強化に取り組んでいます。TSMCが供給しきれないほど半導体需要が高まる中、サムスン電子のファウンドリー事業強化はその隙間を埋めるものとなる筈なのですけれども、バイデン政権は、サムスン電子よりも台湾のTSMCを重視する姿勢を見せています。

その理由として、韓国の文在寅政権の政策運営を不安視し安全保障に関わる半導体分野での協力は難しいと判断していることが挙げられます。

文在寅政権の対北融和、媚中政策は知られていますけれども、韓国ウォッチャーの鈴置高史氏によると、朝鮮日報が、韓国がアメリカから見放された証拠を列挙する記事を掲載。その中には「アメリカでは今後、韓国は100%中国に付き、日本は100%アメリカに付くという見方が主流となった。アメリカの政府も民間も中国の台頭に深い警戒を共有する時に、北朝鮮と中国に行き過ぎた好意を示し、日本には行き過ぎた敵意を見せる文在寅政権が重なった結果だ」という一文があるとのことです。

確かにこれでは、バイデン政権も韓国サムソン電子との協力には二の足を踏むのも道理です。技術協力などしようものなら、韓国から中国への情報漏洩の危険もあります。


3.TSMC筑波


TSMCも日米との連携強化に動き出しています。

2月9日、TSMCは全額出資子会社を設立し、茨城県つくば市に日本初となる本格的な開発拠点を年内に設けると発表しました。投資額は最大で186億円。この拠点では、高性能な3次元集積回路の製造技術開発を目指し、日本の企業などと共同で研究開発を進めるとのことです。

半導体業界に詳しい台湾の専門家によると、日本は半導体の製造装置や素材に強みがあることから、TSMCが素材に関する研究開発で日本と組むことにはメリットがあると見ているようです。

TSMCの進出については、地元でも期待感が高まっていて、2月10日、つくば市の五十嵐市長は定例会見で、TSMC側から「正式な話は来ていない」としつつも、「非常に大きく期待している。TSMCは半導体をけん引する企業で、世界的な信頼感も厚い。ぜひつくばで様々な展開をしてほしい……つくば市は非常に有為な人材が集まりやすい。ニーズを聞きながら支援をしていきたい」と話しました。

また、日本政府も今年度の第3次補正予算で先端半導体の製造技術の開発に向けた基金を900億円積み増ししていて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事業の公募を始めています。これにTSMCや日本の半導体関連メーカーが参加し、共同研究を進めるとみられています。

また、関係者によると、日本政府はTSMCに対し、国内で量産工場を建設することも要請しているようなのですけれども、現段階では、TSMCはコスト面も考慮し、当面は研究開発拠点の設置にとどめたようです。


4.TSMCアリゾナ


一方、TSMCの半導体製造工場建設計画が進んでいるのがアメリカです。

昨年11月10日、TSMCはアリゾナ州に新工場を運営する新会社を設立すると発表しました。資本金は35億ドル(約3700億円)。

製造ラインは12インチ(300ミリ)ウエハで5ナノプロセスを採用し、月産2万枚(約800ロット)を計画しているようです。工場は、2021年に着工し、24年に量産を予定していると見られています。

この工場は、トランプ前政権が強く希望して誘致を成功させたことで知られ、期待を集めているのですけれども、この工場は、アメリカ政府から多額の補助金が得られることを前提としていると伝えられています。

ただ、実際にアメリカに量産工場を建設するとなると様々な課題が山積みであることが明らかになってきました。

まず、アメリカでの建設コストが高いこと。

ある関係者は「TSMCのアリゾナはえらい苦労しているようだ。業者から見積もりを取っている段階だが、台湾と比べてとてつもない金額らしい。建設費用だけで6倍だとか……トランプ前政権に言われて地政学的リスクも含めて進出を決めたのだろうが、あの国に出るのは簡単ではない」とのことで、人件費も台湾と比べて3割以上高いものの、労働生産性は逆に低いため、数字以上にコストが嵩むとのことのようです。

実はTSMCにとってアリゾナでの先端半導体工場建設は台湾以外で初めてのことであり、想定外の出来事が多発しているようです。

通常、大規模または最先端の半導体工場の周辺には、多くの半導体サプライチェーンを完備する必要があります。製造ラインに合わせてピタリとチューニングされた基板や化学薬品など多くの材料・素材が要るのですね。

ところが、アメリカの各種規制が台湾や日本と異なり、従来のサプライチェーンをそっくりそのまま移設できず、台湾の人達もそれを知らなくて今、大混乱しているとのことです。

アリゾナ州には、既にインテル向けのサプライチェーンが完備されているのですけれども、そこにTSMC向けのサプライチェーンが乗り込んでこれないかもしれないという問題です。

しかも、アメリカ国内では、材料などを運搬・保管する物流網は十分に整備されていないという問題もあります。勿論、その全てをサプライヤーが単独で構築するのは簡単ではありません。

サプライヤーの再構築といっても。ゲームのように右から左に簡単に移せる訳ではありません。

果たして、TSMCの量産工場がアリゾナで立ち上がるのかどうか。「脱中国」を謀る一つの試金石になるかもしれません。


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