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1.ミャンマーのクーデター
2月1日、ミャンマーの与党・国民民主連盟(NLD)の報道官は、国軍によるクーデターが発生し、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相やウィン・ミン大統領など政府高官など与党幹部らが拘束されたと発表しました。
対するミャンマー国軍は、政権が、国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官に「移譲された」とし、政権を奪取したと発表しています。
軍事クーデターです。
今回のクーデターの背景には、昨年11月に実施された総選挙の結果があるとみられています。総選挙では、国民民主連盟(NLD)が全476議席のうち396議席を獲得し、国軍系の最大野党である連邦団結発展党(USDP)は33議席に留まり惨敗しました。
これについて国軍は選挙で不正があったとし、政府・与党に対して再選挙を要求するとともに、1日に召集される予定だった総選挙後初の国会のボイコットを示唆。1月26日には、国軍の報道官が政府が誠意ある対応を示さなければ、軍事クーデターを否定しない旨の発言をしていました。
2.政治に強い影響力を持つミャンマー国軍
元々、ミャンマーは軍が政治に強い影響力を持っています。
ミャンマーの憲法は、軍事政権時代の2008年に制定されたのですけれども、軍は国防相や内務相を指名する権利や、有事には軍の最高司令官が大統領の職務を代行できるなど、強い権限が与えられていて、議会でも実に4分の1の議席を持っています。
アウン・サン・スー・チー氏ら与党はこの憲法を改正しようと試み、去年の1月に議会に憲法改正案を提出しました。
改憲案は国軍最高司令官の指名によって上下両院で25%を占める軍人議員の段階的削減のほか、国軍最高司令官の人選を承認する国防治安評議会の構成を文民出身者が過半数となるように見直すことなどが盛り込まれていました。更に大統領の条件から「配偶者や子が外国市民でないこと」との規定も削除し、アウン・サン・スー・チー氏の就任を可能にするとともに改憲要件も緩和するというものです。
もっとも、ミャンマーの憲法改正には、議会の4分の3を超える賛成が必要で、4分の1の議席は軍が握っていますから、憲法改正は難しいとされていました。
昨年3月、この憲法改正案についてミャンマー議会は採決をとったのですけれども、案の定、提案した135項目のうち、改憲に必要な75%超の賛成を得たものはわずか3項目で、いずれも文言の修正にとどまりました。軍人議員の削減など実質的な変更を伴う改憲案は全て否決という結果に終わっています。
そうした背景のもと、昨年11月に行われた総選挙では与党が圧勝。実に83%の議席を獲得した訳です。
これに対して、野党やミャンマー軍は、有権者名簿に数百万人に上る名前の重複が見られるなど、多くの不備や不正があったと訴え、政府や選挙管理委員会に対して調査や対応を迫っていました。
2月1日は、ミャンマーの総選挙のあと初めてとなる議会が開幕する日だったのですけれども、軍は、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主化勢力が強い民意を背景に憲法改正を進めれば、軍人議員の中から造反者が出るなど、軍が一気に権力を失うことを恐れたため、この日にクーデターを起こしたのではないかとの見方もあるようです。
3.各国の反応
今回の軍事クーデターに対し、欧州各国は鋭く反応しました。
アメリカ・バイデン政権のサキ大統領報道官は、アウン・サン・スー・チー氏やウィン・ミン大統領の即時解放を求め、解放されなければ責任者たちに対して行動を取ると対抗措置の可能性を示唆。さらに、国軍の行動は民主制度への移行を台無しにするものであり、アメリカはミャンマー国民の味方であると述べました。
イギリスのジョンソン首相もツイッターで「ミャンマーにおけるクーデターとアウン・サン・スー・チー氏を含む文民の投獄を非難する……選挙の結果は尊重されねばならず、文民の指導者は釈放されなければならない」とコメントし、オーストラリアのペイン外相も法の遵守と捕まった政府高官らの即時解放を訴えました。
更に、国連のグテレス事務総長は全権を軍に移管するのは「民主的改革に深刻な打撃を与える」と危機感を示しています。
一方、アジア各国の反応はまちまちです。
日本は、茂木外相が「重大な懸念」を表明する談話を発表し、拘束されたスー・チー氏ら関係者の解放を求め、インドネシア外務省は「ミャンマーのすべての人が自制心を働かせ、状況を悪化させない解決策を見つけるために対話をすべきだ」と述べ、シンガポール外務省の報道官も「ミャンマーはASEANの主要メンバーであり、できるだけ早く正常に戻ることを願う」と、事態を懸念するコメントを出しました。
他方、フィリピンのロケ大統領報道官は「あくまでも内政問題であり、口を出すつもりはない」と述べ、カンボジアのフン・セン首相は「ミャンマーの内政問題にはコメントしない」と静観する構えをみせています。
この背景にはASEANの内政不干渉の原則に従い、慎重な内容も目立った。
インドネシア外務省は「ミャンマーのすべての人が自制心を働かせ、状況を悪化させない解決策を見つけるために対話をすべきだ」と訴えた。シンガポール外務省の報道官も「ミャンマーはASEANの主要メンバーであり、(同国内が)できるだけ早く正常に戻ることを願う」と、事態を懸念するコメントを出した。
一方、フィリピンのロケ大統領報道官は記者会見で「あくまでも(ミャンマーの)内政問題であり、口を出すつもりはない」と述べ、突き放す姿勢を示した。カンボジアのフン・セン首相は「ミャンマーの内政問題にはコメントしない」と静観する構えをみせています。
こうしたASEAN諸国の反応は、植民地から独立後、国内の分離独立運動や共産主義勢力による反政府運動が外国からの介入によって活発化することを避けるため、互いに内政不干渉を確認しあっているからという背景も指摘されています。
4.ミャンマーを重視する習近平
こういった情勢のなかで注目されるのが中国です。
中国外務省は2月1日の会見でミャンマーのクーデターについて「中国はミャンマーの友好的な隣国である……各当事者が憲法と法律の枠組みの中で意見の相違を適切に処理し、政治と社会の安定を維持することを望む」と直接の批判を避けました。
その裏にはミャンマーと中国との経済的結びつきがあると指摘されています。
軍事政権時代の1980年代後半から2000年代後半までの20年間、ミャンマーは欧米諸国から厳しい経済制裁を受けていました。
その空隙を狙ったのが中国、インド、タイなどの新興国でした。中でも、中国の進出は目覚ましく、国際通貨基金(IMF)の統計によると、2018年段階で中国の対ミャンマー貿易額は約118億ドルにのぼり、その金額は世界1位で、2位のタイ(約57億ドル)以下を大きく引き離しています。
更に、中国にとってミャンマーは天然ガスやルビーの生産国であるだけでなく、陸路でインド洋に抜けるルート上にもあるため、習近平政権も一帯一路の戦略上、ミャンマーを重視しているとされています。
5.対中包囲網の突破を目論む中国
ただ、筆者は、中国がミャンマーの肩を持つ裏には、一帯一路以外にも大きな狙いがあると見ています。
それは、対中包囲網の突破です。
アメリカのバイデン政権はミャンマーのクーデターに対し、対抗措置を取る可能性を示唆していますけれども、その実、どんな対抗手段を取るのかという問題があります。
たとえば、かつてのように経済制裁を行ったとしても、それはミャンマーを増々中国側に追いやるだけであり、対中包囲網を崩すことにも繋がります。ついでいえば、経済制裁による圧力は、トランプ政権のやり方ですから、トランプ流を悉く否定するバイデン政権にとってはバツが悪いというのもあるかもしれません。
一方、軍事制裁が出来るかというと、バイデン氏は国防総省へのアクセスも拒絶され、閣僚も全然任命できていない状況です。これで軍事行動が起こせるのかどうか疑問ですし、中国にしてみれば、バイデン氏がアメリカ軍をどこまで動かせるのか探ることだって出来ますね。おそらく今のバイデン政権では軍事介入はできないと中国は踏んでいるのではないかと思います。
もし、バイデン政権が何ら有効な対抗手段を取れず、ミャンマーに介入も出来ないとなると、今度は同盟国への信頼を失います。
同盟国はバイデン政権は口で綺麗事をいうだけでに、何もしてくれないとなれば、同盟関係が揺らぎますし、離反しいうことを聞かなくなる恐れすらあります。これはそのまま、バイデン政権がやろうとしていた、同盟国と協調しての対中包囲網を自分自身で崩すことになります。
つまり中国にとってはアメリカが介入してもしなくても、対中包囲網を突破する糸口が掴めるということであり、バイデン政権の足元を見た戦略ではないかと思います。
バイデン氏はのっけからアメリカの大統領足りえるかを問われる状況に追い込まれてしまったかもしれませんね。
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