米韓首脳会談と焦る文在寅

今日はこの話題です。
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1.鳴らない、電話


2月4日、アメリカのバイデン大統領は、韓国の文在寅大統領と電話会談を行いました。両首脳は悪化した日韓関係について「日韓関係の改善と韓米日協力が地域内の平和と繁栄に重要だ」との認識で一致したと韓国大統領府報道官が発表しました。

韓国では、米韓首脳会談については、前々からいつ行われるのかとその時期に関心が集まっていました。

1月28日、韓国日報は、韓国の鄭義溶外相候補が、記者団に対し「米韓同盟は韓国外交の根幹だ……米韓首脳による電話会談も近く行われるものと期待している」との考えを示し、韓国政府関係者も「はっきりとした時期は決まっていないが、数日内に電話会談が実現する」と話していました。

記事では「文在寅大統領が『米韓同盟に異常信号が灯った』という指摘を避けるためには、来週明けまでには電話会談が行われなければならない」と指摘したのですけれども、週明けではなく週中になってようやくの開催です。

当初は日米首脳電話会談後まもなく、米韓首脳会談も行われるだろうと多寡を括っていた韓国大統領府も焦りを覚えているようですけれども、一部では、中韓電話会談が影響しているのではという見方も出ていました。

1月26日、文大統領と習主席とで電話会談が行われたのですけれども、その中で文大統領は「中国共産党建党100周年に心から祝意を表する。習近平主席の強固な指導の下、中国は新型コロナ感染症との闘いで成功を収め、主要なエコノミーの中で唯一プラス成長を実現した。中国は国際的な地位と影響力を日増しに高めており、第2の百年奮闘目標に向けて重要な一歩を踏み出した。韓国は世界の気候変動問題において中国の発揮している指導力を称賛する。中国側と気候変動や持続可能な開発などの問題で意思疎通と協調を継続していきたい」と祝意を述べたのですね。

これにアメリカが不快感を覚え、米韓首脳会談を後回しにしたのではないかという見方です。

これについて韓国大統領府は「韓国と中国の首脳電話会談は、旧正月の新年の挨拶を兼ねて行われたもので、昨年から協議されたものであった」としていますけれども、こんなコメントで国内は誤魔化せてもアメリカには通じないでしょう。


2.習・文電話会談が良くなかった


2月1日、アメリカの次期上院外交委員長である民主党のロバート・メネンデス上院議員は、朝鮮日報のオンラインインタビューで文在寅大統領が中国の習近平主席との電話会談で「中国共産党創立100周年を心からお祝いする」と述べたことについて、「失望したdiscouraging)し、心配になる(concerning)……中国が香港の人々にしたことや、台湾に加えている脅威などは、本当に懸念される。そのような歴史を大いに喜ぶことに何があるのか、私はよく分からない」と疑義を呈しました。

そして、「文大統領が習近平へのお世辞(flatter)のためにそんなことを言ったかもしれないが、最終的にはそれを、我々は世界や韓国と共有する価値がないという点を理解していることを願う……こんなことのために私たちは一緒に血を流して韓国の防衛と朝鮮半島の非核化のために続けて、リソースを投入したものではない……アメリカは韓国が中国に対抗して、必ずアメリカ側につかなければならないとお願いするものではない……破壊的な戦争の後、韓国を強い国、信じられない経済的成長を作ったその原則を擁護してもらうこと……これは米中対決で韓国がアメリカ側につくといった問題ではなく、我々が共有する民主主義、自由市場、法治、反腐敗、紛争の平和外交的な解決、人権などの価値を守るための問題」と痛烈に批判しました。

更に、「私たちが知っている韓国人は常に民主主義を愛し、人権を遵守し、国際秩序、法治、公平で開かれた取引市場を信じていた……中国が南シナ海でやっていることを見れば、韓国が歴史のどちらの側に立ちたいと思うべきか分かるでしょう」と釘を刺しています。

もう"激おこ"です。習・文電話会談が良くなかったことは明らかです。


3.中国にはツートラックしない文在寅


昨年11月26日に行われた中韓外相会談後、文大統領は王毅国務委員兼外相と接見して「韓半島平和プロセスの過程で中国が見せた役割と協力に感謝の意を表する」と、南北関係への持続的な支持と協力を求めました。これに王部長は「南北関係の発展をはじめとする韓半島平和プロセスを支持し、今後も一緒に協力していく」と応じています。

この中韓外相会談で、10項目の合意が交わされているのですけれども、文政権の朝鮮半島平和プロセスなどに深く関与してきた中国専門家は、1月26日の中韓電話首脳会談は、この昨年11月の中韓外相会談で交わされた10項目の合意を文在寅大統領と習近平主席が再確認し、合わせて安保問題が議論された可能性が高いと指摘しています。

その昨年11月26日に合意した10項目というのは次の通りです。
経済分野
(1)一帯一路
(2)韓中日自由貿易協定(FTA)
(3)東アジア地域包括的経済協定(RCEP)発効促進と多国間自由貿易の保護、開放型世界経済の建設促進における協力(4)韓中関係未来発展委員会の設置

外交安保分野
(5)北東アジアにおける感染病防疫協力体制の構築
(6)韓中2+2(外交+国防)対話の開始
(7)韓半島平和安定のための外交安保的協力
(8)第9回韓中日首脳会談
(9)今後2年間の韓中文化交流
(10)北京と平昌の冬季五輪協力
中国に対し、人権問題の一つもいうことなく、上記の10項目を合意したとなると、傍から見れば韓国は中国側なのだと見られてもおかしくありません。

日本に対して、反日言動を繰り返しておきながら、ツートラックだなんだと経済協力を求めるのなら、中国に対しても同じくツートラックだと言って、10項目の合意をしつつ、中国の人権問題を批判することだって出来るはずです。


4.中国の言うことにはおとなしく従う。それが文在寅の処世術じゃないの?


一方、中国は中国で、韓国を手駒として使う意図があるという指摘があります。

JB Press のアレックス・リー記者は「中国は、バイデン政権の外交安保の方向を予見し、文在寅大統領を介して、米国の立場を変えたい意図が明白だ。米韓同盟の枠組みの中、韓国が中朝が期待する態度を見せることは容易ではないが、米大統領選挙後、いまだ安定していない米国の隙をついて、最大限の戦略的安保利益を確保したいという思惑がありそうだ」と述べています。

中国にしてみれば、韓国をレッドチームに入れておけば、対中包囲網を破る足掛かりになりますし、ある意味"厄介な"北朝鮮を挟み撃ちにすることも出来ますから。

アレックス・リー記者は「バイデン政権は対北朝鮮強硬策を明らかにしている。また、中国を包囲するインド太平洋戦略で、米韓同盟が重要な役割を果たすことを求めるだろう」と述べていますけれども、文在寅大統領がそれに素直に答えるとも思えません。

元朝日新聞ソウル支局記者で、時事インサイド編集局長の李敦熙氏は、文大統領について「2021年春までに何としても米韓首脳会談を実現させ、バイデン新政権を米朝対話の場に引きずり出し、米朝関係の進展につなげ、南北関係も進展させていく」という戦略を考えていると指摘しています。

そして、ある韓国政府関係者の話として「文大統領はバイデン米大統領との首脳会談を3月中に開催しようとしている。実現すれば、文大統領は金正恩朝鮮労働党総書記とバイデン大統領との米朝首脳会談を強力に仲裁しようとするだろう……米朝首脳会談が実現すれば、続けて南北首脳会談も実現する……文大統領は2021年秋前に3回目の南北首脳会談を持ち、2021年終わりか2022年初めに金正恩総書記をソウルに招待するという計画を持っている」と述べています。

アメリカを「激おこ」させておきながら、米朝首脳会談を仲裁とは実に厚かましいことこの上ないと思います。

実際、先に紹介したロバート・メネンデス上院議員は、朝鮮日報のインタビューで「トランプがしていた、リスク負担が多くて個人的な外交は効果がなかったことを認めなければならない。北朝鮮は核・ミサイル計画を進展させた……こうした歴史を知りながら、なぜそれがバイデン政権が継続すべき政策だと言えるのか、私はよく分からない……我々がもしそのようなことを続けたいと思っているなら、それは『災いのもと(recipe for disaster)』だ」と文大統領の対北外交戦略を真っ向否定しています。

文在寅大統領の任期も残すところあと1年。

今の状況を考える限り、時間切れで終わる公算の方が高いのではないかと思いますね。


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