ワクチン外交という世界大戦

今日はこの話題です。
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1.トーマス・バッハの中国ワクチン発言と撤回


3月12日、3日間に渡って行われたIOC総会にて会長再選を圧倒的得票で決めた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が記者会見を行い、東京五輪・パラリンピック出場選手の武漢ウイルスワクチン接種に関しての自らの発言を翻しました。

バッハ会長は、「アスリートと国内オリンピック委員会は、予防接種に関し、各国が定めた指針や規則に従うことがIOCの原則。接種も義務付けていない。これは明確な政府の責任であり、この点で、我々は干渉しない」と述べました。

けれども、バッハ会長は前日11日、IOC総会で、中国のオリンピック委員会から「東京大会と北京大会の選手や関係者に対して中国製のワクチンを提供する」という申し出があったことを明らかにしていました。バッハ会長は、大会の各参加者に2発のワクチンを接種するのに十分なワクチン投与量を確保できるとし、オリンピックとパラリンピックのチームのためにIOCはワクチンの追加費用を支払う準備ができていると述べていました。

この発言は日本側に事前調整なしの一方的なものであったらしく、丸川珠代五輪相は「事前に伺っておらず、調整もなかった……中国製ワクチンが承認された国で判断されるもの」と語り、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長も、事前の話どころか総会後も説明はなかったとし、「IOCと組織委は密接でなければいけないが、この問題は政府がどの国のワクチンを承認しているかによる……北京五輪まで1年を切っている中国が非常に重要と捉えてIOCと話を進めたのでは」とコメントしていました。

バッハ会長は、予防接種に関しては各国の責任だ、接種も義務付けていないなどと発言していますけれども、遡ること3月3日、「日本国民、都民、大会に参加する全ての人に対し、安全を提供する。IOCは皆さまの側に立っている。できればワクチン接種をして東京に来てほしいと各国オリンピック委員会(NOC)に働きかけている。相当数の各国オリンピック委員会(NOC)が東京大会に先立ったワクチン接種を担保している。日本に対して大事なメッセージだと思っている。五輪参加者はワクチン接種をできるだけして、連帯感を日本国民に示したい」と述べていたのですね。

それを背景に11日には中国製ワクチンの申し出があって、追加費用も払うなどと発言したことを考えると、元々は中国製ワクチンを打たせる気満々だったのではないかと疑ってしまいます。

そこまでして中国製ワクチンに前のめりだったバッハ会長が、急に自身の発言を撤回したということは、各国からの反発ないし問い合わせが予想以上にあったのかもしれません。


2.IOCは超世界政府ではない


東京五輪の次、2022年の北京冬季五輪については、人権問題を理由にアメリカなどでボイコット論が浮上しています。

12日、北京冬季五輪に反対する国際人権団体のメンバーらがオンラインの記者会見で、バッハ会長に対し「中国の圧政に目をつぶらず、五輪開催を考え直すべきだ」と呼び掛け、各国政府やスポンサーなどに参加ボイコットを訴えました。

バッハ会長は「この問題を非常に真剣に受け止めている」とした上で、「組織委員会と緊密に協力しながら、サプライチェーン、労働者の権利、報道の自由など多くの問題を監視している」と表明したものの、「私は今日、政治的指導者として選出されたわけではなく、IOCには政治的権限はない……政治的中立性を尊重することで、オリンピック憲章に定められた使命を果たすことができる……私達は今日、国連システムや多くのステークホルダーとどのように協力しているかを見てきたが、これらはすべて、政治的中立性を貫くことで初めて可能になるのだ」と、IOCは国連安全保障理事会やG7、G20でも解決できないような問題を解決する"超世界政府"ではないとコメントしました。

IOCに政治的権限がなく、政治的中立性を貫くというのであれば、ワクチンにしても最初から各国の判断に委ねるとすべきですし、ましてや中国製ワクチンをIOCが購入して提供するなどできないはずです。

なぜなら、どのワクチンを承認し、どのように接種するかは各国が判断すべきことであるからです。それを中国製ワクチンを提供するなどというのは思いっきり政治干渉することになります。

実際、中国製ワクチンが世界全ての国で承認されている訳でもない現状で、IOCが中国製ワクチンを提供云々というのは勇み足というべきでしょう。

もっといえば、IOCが政治的中立性を貫くという原則に従うのであれば、アメリカやその他の国が北京冬季五輪をボイコットしたとしても、IOCはワクチンと同じく、ボイコットは各国の判断だとするしかありません。

バッハ会長は中国のワクチン提供について「連帯の精神に基づく提案に感謝する。東京大会の安全性を確保するうえで新たな画期的なことだ」と褒め称えました。聞く人によれば、東京五輪が安全に行うためには中国のワクチンが必要だと受け取られかねない発言です。

世界はIOCに中国の人権問題を解決しろと求めているのではありません。中国に加担するなと言っているのです。


3.ワクチン外交という世界大戦


実際、中国政府は、発展途上国へのワクチン無償提供や輸出を通じて政治的影響力を高める「ワクチン外交」を展開しています。

例えば、南米のガイアナは、2月4日に台湾と実質的な大使館の役割を担う台湾の代表機関「台湾弁公室」を設置することで合意していたのですけれども、中国によるガイアナへのワクチンの提供が承認されたという発表がなされた直後に台湾との合意を撤回。ガイアナ外務省は公式サイトで「中国政府との外交関係と、『一つの中国』を認める立場は変わらない。台湾側とは意思疎通で食い違いがあった」と説明しています。

ワクチンを餌にした露骨な圧力を匂わせます。

中国政府は発展途上国69ヶ国にワクチンを無償提供し、43ヶ国に輸出する計画を立てているようですけれども、それらの国に同じように政治的圧力を掛けてくることは容易に予想できます。

評論家の石平氏は「中国は東京五輪のためでなく、北京五輪をボイコットさせないための伏線を敷こうと考えているのではないか。『ワクチン提供で、人権弾圧が払拭できればいい』と画策している可能性もある。もし、接種が進めば、『中国のおかげで東京五輪が成功した!』と宣伝するだろう。日本は米国などと協力して、信頼性の高いワクチンを早く確保すべきだ」とコメントしていますけれども、その通りだと思います。

もっとも、ワクチン外交は中国だけではありません。インドもそうです。

インドはジェネリック医薬品の最大の供給国であると同時にワクチン製造大国としても知られています。インドのワクチンは、イギリス製薬大手アストラゼネカのワクチンを自国でライセンス生産したもので、モルディブに対し1月、2月とそれぞれ10万回分計20万回分を無償提供。2月時点でバングラデシュに200万回分、ミャンマーに170万回分、ネパールに100万回分、スリランカとアフガニスタンにいずれも50万回分送り、各国への無償提供分は計647万回分に上っています。

また、先日行われたクアッド首脳会談では、アメリカのバイデン大統領がワクチンの生産拡大を加速させる連携を表明し、日米豪印で、インド太平洋地域の発展途上国へのワクチン支援協力で一致。来年末までにワクチン10億回分を供給するとしています。

なにやら銃弾の代わりにワクチンが飛び交う状況ですけれども、殺すのではなく、命を助ける方向ですから、その意味では銃弾よりもずっとよいと思います。ただ、それだけに本当に命を救うのか、どれだけ救えるのかという信頼度がより重要になってくると思いますし、それが勝敗を分けるのではないかと思いますね。


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