台湾の国家認定と中国共産党の超限世論戦

今日はこの話題です。
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1.台湾は強力な民主主義国家


3月10日、アメリカ下院外交委員会の公聴会で、ブリンケン国務長官が台湾を「国」と呼んだことが話題になっています。

この日、外交政策アジェンダに関する下院外交委員会の公聴会が行われたのですけれども、その最後に、共和党のヤング・キム下院議員が「台湾には強力な民主制度があり、国際社会に貢献しており、世界保健機関(WHO)に加盟する権利がある」としてバイデン政権に対し、来たる民主主義サミットに台湾を含め、自由貿易協定について台湾との交渉を開始するよう求めました。

これに対し、ブリンケン国務長官は、「台湾は自国民だけでなく世界にも貢献可能な強力な民主主義国家であることに関して貴殿と見解を共有している」とし、台湾は「自国民だけでなく、世界に貢献できる国だ。COVIDはその良い例だ」と答えました。

1979年にカーター政権下で台湾との外交関係と打ち切って以降、国務省は台湾を国と呼ぶことを避け、「戦略的曖昧性」を維持してきましたけれども、とうとう国務長官が台湾を国と呼んだことで、大きく一歩踏み出した形です。

このブリンケン国務長官の発言について、アメリカのメディアは「口を滑らせたのか、それとも長期的な政策に賛成したのかは、時が経てばわかる」としていますけれども、筆者は18日にアラスカで行われる米中外相会談を控えての、中国に対する踏み絵的牽制ではないかと思います。

つまり、アメリカが台湾を国として認める発言をしてもなお、中国が外相会談を行うのであれば、台湾は国であると黙認することになりますから。

11日、台湾外交部の欧江安報道官は定例記者会見でブリンケン国務長官に、台湾への明白な支援と台湾の民主主義の承認に対して感謝を表明し、「我が政府は民主主義、公衆衛生、経済分野で台湾・アメリカ間のグローバルパートナーシップを長期的かつ具体的に構築して強化していくためにバイデン政権と密接に取り組んでいく」との声明を発表しました。


2.アメリカの外交優先順位


このように外交的駆け引きが垣間見られるブリンケン国務長官の発言ですけれども、バイデン政権はいかなる外交を繰り出していくのか。

実は冒頭で取り上げた3月10日の下院公聴会の開会に当たって、ブリンケン国務長官は挨拶でバイデン政権の外交優先順位についてのべています。
それは次の通りです。
1)COVID-19を止め、世界的な健康の安全を強化する
2)できるだけ多くのアメリカ人に安全と機会を提供する、より安定した包括的な世界経済を構築する
3)人権にコミットし、紛争を起こさず、市場の信頼性を高めるために、国内外で民主主義を刷新する
4)人道的で効果的な移民システムの構築に取り組む
5)同盟国やパートナーとの関係を活性化する
6)気候変動に対処し、グリーンエネルギー革命を推進する。
7)悪意のある人物に対する防御を強化して、テクノロジーにおけるリーダーシップを確保する
8)21世紀最大の地政学的試験である中国との関係を管理する
上から順に、武漢ウイルス対応、経済対策、その次に人権が来て、同盟関係強化、グリーンエネルギー、国防と続いて、最後に中国との関係を管理するとしています。

ここで筆者が注目するのは、同盟関係強化の上に人道と民主主義の刷新が置かれているということです。これはつまり、同盟強化とて、人道と民主主義がその前提にあるということであり、その文脈で同盟強化を求めてくるのではないかと思います。


3.世界を敵と味方に二分する諸刃の剣


では、ブリンケン国務長官が挙げた「人道と民主主義の刷新」とは何か。

昨年の始め、バイデン大統領は外交専門誌上で自らの政見を発表し、その中で、就任1年目に民主主義のサミットを実行すると提言しています。

その趣旨は「政治腐敗との闘い」、「権威主義からの防衛」、「自国及び外国での人権の促進」という三領域へのコミットメントを各国から引き出すというものです。

その上で、アメリカとその他の民主国家の協力によって、中国に対して世界経済の50%以上を持つ存在として交渉することで、環境、労働、貿易、テクノロジー、透明性、そしてルールへの民主的利益や価値を埋め込むとしています。

また、このサミットには、政府関係者だけでなく民主主義の防衛の最前線で活躍する各国の市民社会組織が招かれることも明記されているのですけれども、台湾は、この民主主義サミットへの参加を目指し、蕭美琴(しょうびきん)駐米代表を通じてバイデン政権への働き掛けを続けてきました。

今回のブリンケン国務長官の「台湾は国だ」発言も、民主主義サミットに参加させる"前振り"の意味合いも含まれているようにも見えます。

その一方で、「民主主義サミット構想」において、逆に「民主主義ではない」とされた国は、このサミットで決定する様々な制裁措置の対象になる可能性があるのではないかと危ぶむ声もあります。

その意味では、この「民主主義サミット構想」は民主主義で線を引いて、世界を敵と味方に二分する諸刃の剣な面があるとも言えます。


4.中国共産党の超限世論戦


実際、バイデン政権は民主主義ではない存在である中国共産党政権を「人道面」から圧力を掛けています。

2月11日に行われた、米中首脳電話会談では、バイデン大統領が、中国の経済面での威圧的で不公正な行いや、香港への統制強化、新疆ウイグル自治区での人権侵害、それに台湾への対応など地域で独断的な行為を強めていることに懸念を表明したのに対し、習近平主席は「台湾、香港、新疆ウイグル自治区などの問題は中国の内政であり、主権と領土の保全に関わる。アメリカは中国の核心的利益を尊重し、慎重に行動すべきだ」と平行線に終わっています。

もっとも、冒頭で取り上げた下院外交委員会の公聴会で、ブリンケン国務長官は「中国の行動や態度がアメリカや同盟国の安全保障などの懸念となっていることに対し、率直な言葉で説明する重要な機会だ」と説明し、与野党議員から相次いだ香港の民主派弾圧や新疆ウイグル自治区での人権侵害についても「当然、会談でも取り上げる」と述べていますから、圧力はそのまま続くと思われます。

これらについて、路徳社は次のように指摘しています。
◆中共はすでに「人道に対する罪とジェノサイド」を変えることは不可能であることを理解しているため、中共の公式メディアが中国人と中共を混同しようとしている。中共はこの行動で中国人と米国人を敵対させ、14億の中国人に中共の責任を負わせようとしている。

◆中共はジェノサイドという事実を変えられないのなら、米中談判を通じ、世論上でジェノサイドの問題について、お互いを攻撃させようとしている。そのため、「米国」「ファイブ・アイズ」「NATO加盟国」はこれから、中共が引き起こした超限世論戦での攻撃を受けることになるだろう。
このように路徳社は、中国は「人道に対する罪とジェノサイド」について世論戦を仕掛け、アメリカ、ファイブ・アイズ、NATO加盟国を攻撃するというのですね。

具体的には、アメリカや欧米はジェノサイドを行った過去があるではないか、と「どっちもどっち論」を持ち出して大論争に巻き込んでくることが考えられます。


5.アメリカも先住民を虐殺した


実は、中国は、この「アメリカも先住民を虐殺した」論を一昨年末当たりから言い始めています。

2019年12月3日、アメリカ下院がウイグル人を不当に拘束するなどしている中国を批判し、人権侵害に関わった当局者に対し制裁の発動を求める法案(ウイグル人権法案)を可決したもですけれども、これに対し翌4日、中国外務省の華春瑩報道官は、中国のウイグル人政策は「人権、民族、宗教に対するものではなく、暴力、テロ、分離主義的な動きと戦うためのもの」だと主張しました。

華報道官は「2世紀にわたるアメリカの歴史は、先住のインディアンの血と涙で汚されている。彼らのほうが先にこの大陸に住んでいたのに、19世紀以降アメリカは西漸運動を通じて、武力に物を言わせて先住のインディアンを排除し、虐殺して、広大な土地を占領し、膨大な自然資源を収奪してきた……そればかりか、アメリカは先住民に同化政策を押し付け、彼らを殺し、排除し、追放して、市民権を認めなかった……今では彼らはアメリカの人口のわずか2.09%を占めるにすぎない。居留地のインフラは未整備で、水も電力も不足し、インターネットへのアクセスもできず、失業、貧困、感染症、低い生活水準など、先住民は数々の困難に直面している。こうした衝撃的な事実を前にして、アメリカの政治家は知らん顔ができるのか。彼らの良心はどこへ行った」と、法案を通したアメリカ議会を「無知」で「恥知らず」と非難しました。

また、今年2月19日の中国外交部の定例記者会見で、カナダ保守党がカナダ政府に対し中国政府が新疆で行った行為を「ジェノサイド」と認めるよう要求したことや、アメリカ議会の一部議員が下院で「ウイグル強制労働防止法案」の修正版を再び提出したことについて問われると、「『ジェノサイド』はカナダやアメリカ、オーストラリアなどではかつて現実に存在した事実だ。1870年代、カナダ政府は先住民の同化を政府の議事日程に組み入れ、「インディアンをその子供時代に殺す」ことを公の場で吹聴した。アメリカは建国後100年近くの間、西部開拓を通じてはばかりなくネイティブアメリカンを追放し、殺戮した。オーストラリアはかつて悪名高い『白豪政策』を取り、先住民を絶滅させようとした」と反論しました。

確かに、路徳社が指摘するように「人道に対する罪とジェノサイド」で、アメリカやファイブ・アイズに世論戦を仕掛けてきているように見えます。


6.世界は超限世論戦にどう対抗するか


路徳社はアメリカ、ファイブ・アイズ、NATO加盟国に対し世論戦を仕掛けてくると述べていますけれども、あるいは日本に対しても同じ文脈で世論工作を掛けてくるかもしれません。

たとえば、アメリカの原爆投下や東京大空襲をジェノサイドだとして日米分断を図るといった工作です。

これらはジェノサイドであることは事実ですけれども、だからといって日本が反米に転ぶようなことにはならないのではないかと思います。

今後、日本共産党や立憲民主あたりが急に原爆投下や東京大空襲をジェノサイドで人権云々など言い出したとしても、反米になるどころか、これは中国の工作活動だと逆に怪しまれるのではないかと思います。畢竟、中国への警戒心を更に呼び起こし、中国への好感度は増々なくなっていくのではないかと思います。

2016年5月27日に当時のオバマ大統領が現職大統領として初めて被爆地・広島を訪問し、原爆死没者慰霊碑に献花・追悼しましたけれども、これで「原爆ジェノサイドは過去のものだ」という意味を政治的に持たせたことになると思います。

ですから、今更、中国は原爆ジェノサイドで日本に世論工作を掛けてきても逆効果に終わるのではないかと思います。

一方、ジェノサイドで「脛に傷」を持っている国は、この中国の世論戦にどう対応するのか。またぞろ昨年のBlack Lives Matter運動のような扇動暴動が起こされる可能性も頭の片隅に置いておいた方がよいかもしれませんね。


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