

1.中国の制裁に屈せず
3月24日、ブリュッセル訪問中のアメリカのブリンケン米国務長官は、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長とボレル外交安全保障上級代表とそれぞれ会談しました。
会談で、ブリンケン氏とボレル氏は中国の広範な話題を議論するための対話の場を再開することで合意。政府高官や専門家レベルの会議の場を設け、経済問題や人権、安全保障、多国間主義といった中国との間で対立が起きそうなテーマから、気候変動など中国と協力が必要な議題を列挙したようです。
また、信頼できる複数政党制や民主主義、人権の保護などがインド太平洋地域の安定と繁栄に貢献すると確認しました。
「信頼できる複数政党制」なんて言葉から、明らかに一党独裁を続ける中国を牽制していることが分かります。
また、この日、ブリンケン国務長官はNATO本部でも演説を行いました。
演説でブリンケン国務長官は、中国について「彼らは、国際システムのルールや、我々と同盟国が共有する価値観を、積極的に崩そうとしている」と語り、「北京の軍事的野心は年々高まっている。現代の技術の現実と相まって、かつては半世界離れていたように見えた課題はもはや遠いものではない。これは、ロシアが同盟に挑戦するために開発した新しい軍事力と戦略にも見られる。そして、私たちの集団安全保障を保証する規則に基づく秩序を弱体化させる」と述べました。
そして、中国による経済面での制裁措置などを念頭に「我々の一つの国が抑圧されたら同盟国全体で対処すべきだ……我々の経済関係を主要競争国と深めるよりも、相互に一段と深めていって脆弱性を減らす必要がある」と述べ、中国に譲歩すれば「いじめ行為が機能するとのメッセージを送る恐れがある」と中国の制裁に屈しないよう訴えました。
2.狂犬外交
先日、中国政府はEUによる制裁に対し、欧州議会議員の一部など10名と4つの団体に対して報復制裁を発動させましたけれども、これに対し欧州は中国との包括的投資協定(CAI)について話し合うための会議をキャンセルして抗議しました。
これについて、3月24日、環球時報(Global Times)は、「EUには中国を脅迫(blackmail)する権利がない」という社説を掲載しました。
社説では、中国はEUの最大の貿易相手国だの、中国社会は常にヨーロッパを尊重し、EU諸国を詰ったりしたことはないとか、EUも中国を必要としているとか、力の衰えたアメリカは「アメリカ・ファースト」を維持する道具として欧州諸国を虐めているに過ぎないなどと述べています。
自身の報復を正当化し、EUとアメリカの離間工作を掛けています。
また、同じく24日付の社説「一部のEUの政治家は、相互主義、平等で中国を扱う準備ができていない」では、EUの中国に対する制裁は嘘とデマに基づいたものであり、中国の対EU制裁を「脅迫(intimidation)」とラベル付けしたのは、EUの一部の政治家が、真の互恵性についても準備していないことを示していると反論した上で、中国はEUの最大の貿易相手国であり、どんなに声を荒げても中国を離れることはできないと述べています。
自分がされたのは脅迫で、自分がしているのは脅迫ではない、とまぁ、言いたい放題です。
EUやアメリカが制裁しているのはウイグル等の人権問題を理由としているのに、それらについては「嘘だ、デマだ」と喚くだけで直ぐに噛みつき返す様を見るにつけ、中国の余裕のなさというか焦りが見て取れます。
こうした中国外交のやり方について、評論家の石平氏は、「戦狼外交」から"進化"して「狂犬外交」になったと指摘しています。
石平氏は、EUの制裁は人権をポーズにして非常に"ぬるい"ものであったのに対し、中国の報復制裁が過剰反応に過ぎるものであるとし、そのおかげで逆にEUを怒らせ、包括的投資協定(CAI)を暗礁に乗り上げさせる結果となったと指摘しています。
石平氏によれば、こんなものは外交でもなんでもなく、敵を作るばかりで、誰彼かまわず噛みつくだけの「狂犬外交」だというのですね。
あれだけの態度をとれば当然のことですけれども、まぁ、謀らずも、中共の本性が世界に知られた形です。
3.NATO諸国の防衛費
3月23日、インド太平洋軍司令官に指名されたジョン・アキリーノ海軍大将はアメリカ上院軍事委員会の公聴会で、中国の脅威について「最大の懸念は台湾に対する軍事動向だ……(台湾への軍事侵攻は)多くの人が考えるよりも、ずっと近いと思う。緊急感をもって、『太平洋抑止イニシアチブ』のような抑止力を導入する必要がある……尖閣諸島の状況を見れば、日本も懸念を持っているはずだ」と述べ、中国や北朝鮮の脅威に対抗するため、日本について、ミサイル防衛や制空権、海上安全保障などの分野で能力を高める必要があると指摘しました。
これについて、評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「水面下で具体的なニーズは伝わっているのかもしれない。とはいえ、日本には解決しなければいけない課題が山積している」と述べ、GDPに合わせた防衛費の設定では、金額が流動的になるため確定的であるべきとはいわないが、やはりNATO諸国の基準に合わせる努力は必要だ」と語っています。
NATO諸国の防衛費については、オバマ前政権時代に2024年までに国防費をGDPの2%にあげる目標を掲げたのですけれども、2020年時点で達成したのは、加盟30カ国のうちアメリカを含む9ヶ国だけです。
去年9月16日、トランプ前政権のマーク・エスパー国防長官は、シンクタンクの講演で「国防費を国内総生産比で少なくとも2%に増やしてほしい……私たちの相互の利益と安全、共通の価値を守る……同盟国、友好国は軍事力の向上に向けて必要な投資をするよう求める」と、NATO以外の同盟国、友好国にも軍事費の増額を求めました。
これについては、バイデン政権になっても変わらず、ブリンケン国務長官は「ワシントンは、欧州の同盟国が、トランプ政権の主要な要求であった2024年までにGDPの2%というNATOの防衛費目標を達成することを依然として期待している」と述べているようです。
日本の防衛費は、2020年度の防衛白書によると、5兆3133億円で、GDP比は0.9%です。
対中を考えた場合、最前線に位置する日本に対し、アメリカは、当然ながら、防衛力拡充を求めてくるものと思われます。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「敵基地攻撃能力は、北朝鮮の弾道ミサイル発射基地を念頭に保有を議論していた。今後、攻撃を受けた際の報復手段の保有、抑止力としても議論すべきだ。日本では、敵基地攻撃能力の保有が憲法違反か否かという段階から議論が進んでいない。欧米諸国が、中国当局によるウイグルでの人権弾圧に制裁を発動するなか、日本は『深刻な懸念』を示すにとどまっている。中国の軍事的覇権拡大に危機感を持っているのかという疑問を覚える」と警句を発しています。
これについて、潮氏は「尖閣周辺で、自衛隊と米軍が共同訓練を実施するだけでも、中国に対して大きな抑止力になる。武力攻撃を受けるまでには至っていないが、国家の主権が侵害されている『グレーゾーン事態』に法的根拠を持たせる議論などは、与野党が一致して進められるはずだ。状況が切迫している危機感を持ち、行動に移すことが重要だ」と提言していますけれども、いよいよ、日本国憲法が今の時代の足枷となっていることが、外圧となって誰の目にも明らかになってくるような気がしますね。
この記事へのコメント
インド辛え~
旧海軍の「病院船」や工作艦艇「明石」、特殊補給艦「間宮」の様な、支援(米英)出来るものを防衛費「約1.5%」に増やして、作ってゆく工夫(国会審議で脚を引っ張られるのは、ミエミエだが)も必要では…?。