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1.ボイコットされる欧米ブランド
中国で欧米ブランドの不買運動が広がっています。
これは、スウェーデンの衣料小売り大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)が中国のウイグル自治区をめぐる問題に「強制労働や民族・宗教的マイノリティーに対する差別の告発を含む複数の市民団体の報告やメディアの報道を受け、当社は深く懸念している」との声明を出し、ウイグル産の最高級綿「新疆綿」の調達を停止したと表明たことが切っ掛けです。
これに中国のネットユーザーが反発。中国共産党の青年組織である共産主義青年団(共青団)はウェイボでH&Mやり玉に挙げ、「中国で金儲けを望んでいながら誤った臆測を広げ、新疆綿をボイコットするのか。虫が良すぎる」と非難。人民解放軍もウェイボのアカウントの一つで、H&Mの発表文は「無知で傲慢」だとこき下ろし、不買を呼びかけました。
すると、H&Mの商品はアリババやJD.comといったショッピングサイトから削除され、Baidu Maps(百度地図)はH&Mの店舗の位置情報を削除しました。ソーシャルメディアの投稿では、中国各地で少なくとも50店舗のH&Mがデモを恐れて店を閉めているとのことです。
この不買は他の欧米ブランドにも拡大しています。
ナイキは新疆綿の使用につい「私達は新疆ウイグル自治区の強制労働および関連する強制労働の報告について憂慮しています。ナイキは新疆ウイグル自治区から商品を調達しておらず、わたしたちの発注先も同自治区の布や糸を使用していないことを確認しました」とコメントしたのですけれども、ウェイボー(Weibo)では、人々が抗議のためエアジョーダンやエアフォース1を燃やす動画を投稿。人気俳優のワン・イーボーは、声明に対する批判を受けて、ナイキのイメージキャラクター契約を打ち切りました。
その他にも、アディダスやバーバリーなどがイメージキャラクター契約を打ち切られたり、新疆綿を使用しない企業だと人民日報から名指しされたりしているようです。
2.変化した習近平政権の戦略
これら中国の不買運動を受け、中国のアパレルメーカーは新疆綿を支援する声明を発表。スポーツブランドの安踏体育用品(ANTA)や鴻星爾克(ERKE)といった地場衣料各社はウイグル自治区産の原材料を継続使用すると発表しました。
これを受け、中国の株式市場ではこれら企業の株価が上昇。安踏体育用品(ANTA)の株価は香港市場で一時10%上昇し、上海拉夏貝爾服飾は一時、40%近く値上がりしました。その一方、ナイキと提携するスポーツ小売りの滔搏国際ホールディングスは16%安と過去最大の下げを見せました。
これについて、中国政府のアドバイザーで全球化智庫(CGC)を創設した王輝耀氏は、欧米の言い分を単に否定するだけの以前のアプローチはもはや「弱腰な防衛」と見なされており、武漢ウイルス封じ込めや絶対的貧困撲滅の取り組み、経済的発展など全てが中国政府を強気にさせていると指摘しています。
また、アメリカブルッキングズ研究所のライアン・ハス上級研究員は「習政権では好かれるよりも恐れられる方を良しとする『マントラ』が採用されているようだ」と述べ、中国は「やられたらやり返すというメッセージの発信」に躍起になっているとコメントしています。
更に、ハス上級研究員は、このような一段と攻撃的なレトリックは「民主主義は普遍的なイデオロギーではなく、21世紀の課題に対する答えを持たないという見解を受け入れさせる」という戦略の一部であるとも指摘しています。
一方、中国人民大学米国研究センターの時殷弘主任は、一層の強硬姿勢により、共産党が「中国権益の最善かつ最も確固たる守り手」だと国民に対しアピールできるとの見方を示す一方、中国政府は、反論することで欧米が対中批判をやめる公算は小さいとも認識していて、とどのつまりは「非難の応酬が続き、中国とアメリカ、ひいては中国と西側をさらに遠ざける可能性がある」と述べています。
こうした不買運動についてブルームバーグは、アメリカとその同盟国とのこれまで以上の結束を目の当たりにした習近平政権が戦略を変化させ、中国はアメリカと同等の立場だと示し、人権問題を通じ対中圧力を強めようとするバイデン大統領の取り組みを頓挫させることにつながると考えていると述べています。
「中国はアメリカと同等の立場」というのが何を指してそう言っているのか詳しくは分かりませんけれども、先のハス上級研究員のコメントと照らし合わせて考えると「西欧民主主義」と対抗する「中華主義」を世界に認めさせようとしているのではないかという気がします。
つまり、世界を二分する、いわゆるG2を、まずイデオロギーの面で確立しようとしているのではないかということです。
3.何もしない国と見られるのは恥ずかしい
同時に中国は西側の結束を弱めようと躍起になっています。
3月29日、中国外務省の趙立堅報道官は、ブリーフィングで日本もアメリカの圧力に負けて中国に対する制裁を行いうるかという質問に対し、「これに関する情報は私は得ていない……。我々としては日本側が慎重に発言、行動し、アメリカの連合国という理由でアメリカにつられて、中国に根拠のない攻撃を行わないよう期待する」と答え、イギリスとその西側の同盟国らの発動した中国の個人と組織に対する制裁は、嘘と偽情報を基にしたものだと強調しました。
これはおそらく、来月上旬の日米首脳会談や6月のG7首脳会議を控える菅総理に対する牽制だと思います。
自民党の中谷元・元防衛相は、「何もしない国と見られるのは恥ずかしい……この2ヶ月が大事だ」と、人権問題に対して日本も非難や懸念の表明だけではなく行動が必要だと述べ、超党派の議員連盟を立ち上げ、日本でも制裁を可能にする法整備を急ぐ考えを示しています。
23日、加藤官房長官がこの問題に関し「深刻に懸念し、中国政府に対して透明性のある説明を行うよう働き掛けをしている」と述べたものの、外為法では人権問題のみを理由に制裁を実施する規定はないと説明しています。これが実態です。
それでも、"人権"包囲網を敷こうとしている欧米が日本に決断を迫ることはほぼ間違いないと思います。
したがって、もし、日本が人権を理由に対中制裁を行った場合、警告したのに制裁するとは何事だ、とばかりに中国政府は何らかの報復に出る可能性は高いと思います。
4.日本は中国に対する「わだかまり」を解くべきだ
その一方で、中国は日本の対中好感度が酷く低いこと、中国に対する警戒感が高いことを気にしている素振りを見せています。
3月23日、環球時報は「日本對華的『心結』該打開了(日本は中国に対する『わだかまり』を解くべきだ)」という、中国現代国際関係研究院の胡継平(フー・ジーピン)副院長による論評を掲載しました。
記事は、日本の対中態度には迷いが見られると指摘する一方、最近になって「自由で開かれたインド太平洋」戦略などにより「牽制」を始めたと批判。日本が中国を牽制し始めたのには3つの理由があると分析しました。該当部分の要旨は次のとおり。
まず、心理的なバランスが崩れている。 中国の総合的な国力が日本を上回っていることは、規模、人口、資源などから見ても普通のことだが、日清戦争以来、日本の中国に対する優位性は100年以上続き、世界第2位の経済大国であることは永遠の事実であった。中国によるGDPがあまりにも早く追いついてしまった結果、心理的な不均衡がすぐに解消されることはなくなり、中国の台頭を正常な形で見ることは難しいのだ。胡継平氏はこのように分析してみせた上で、日本の中国に対する安全保障上の懸念は、「虚」と「実」に分けられると論を展開します。
2つ目は、戦略的な不安だ。 日本はかつて、経済的に他のアジア諸国をはるかに凌駕し、国際舞台におけるアジアの「自然な代表」であると考え、世界秩序における「日米欧三極体制」の確立を野心的に提案していた。 しかし、中国の発展と影響力の拡大に伴い、日本は世界や地域での地位に脅威を感じているだけでなく、中国が東アジアにおけるアメリカの支配的な地位を奪い、自らを戦略的に受動的な立場に置くことを恐れている。
3つ目は、セキュリティへの配慮だ。 歴史的なもつれと現実的な競争が相まって、中国と日本の間には安全保障上の信頼が著しく欠如している。 日本は、中国の国家的・軍事的パワーの増大に対して不安を募らせており、中国が自国の安全保障に脅威と不利益をもたらすのではないかと懸念している。 そのため、1990年代以降、日本では「中国脅威論」が盛んになった。
以上の3つの心理が絡み合い、日本の中国観や対中戦略に直接影響を与えている。 中でも最初の2つの心理は、潜在的なものであると同時に言葉にできないものでもあるので、日本では「中国の脅威」が公に語られることの多い話題となっている。
「虚」は、国内で中国の脅威を誇張することで世論を形成し、憲法改正や軍事強化などの政治課題を推し進め、国際的には中国が実力で現状を変え、覇権を拡大しているという印象を与え、外交的な利益を得るためのものだとしています。
そして「実」の方は、中国に対する本当の安全保障上の懸念のことで、中国が強くなると「復讐」されるのではないかと恐れているという、言葉にならない要素もあるとし、そんな「復讐」に対する恐怖心を抱く日本人は「心が狭い」と批判しています。
胡継平氏は「中国は寛容な国で報復をするような国ではない」とし、「古きを忘れず、日本に報復しない」というのは、共産党や国民党の共通見解であると同時に、中華民族の伝統的な美徳を体現したものだと主張しています。
その上で、胡継平氏は日本に対し、恐れず中国との関係改善に舵を戻すよう提言しているのですね。
全く、厚顔無恥というかなんというか、欧米ブランドに対するの不買運動をみれば、「中国は寛容な国で報復をするような国ではない」というのが嘘であることが一秒で分かります。
ウイグル人への人権弾圧で批判された中国政府は「全てが嘘だ」と反発していますけれども、その言葉をそっくりそのままお返ししたいくらいです。
5.対日態度で迷う中国
ただ、面白いのは、この件の記事は環球時報の中国語版に掲載されているだけで、環球時報の英語版である「Global Times」にはないことです。これはつまり、記事の内容を欧米には知られたくないということです。
まぁ、自分でも「中国は報復をするような国ではない」というのが、嘘っぱちあると分かっているのでしょう。
中国は国際関係で困ると日本にすり寄る傾向があることは、割と知られていますけれども、あるいは、人権問題で批判するなと欧米に狂犬のごとく噛みついている裏で日本に助けてくれとばかりすり寄っている姿を欧米に晒したくないのかもしれません。
けれども、その頼みの綱の日本が対中制裁に加わるかもしれないとなると心中穏やかではないでしょう。
だから、尚のこと、「アメリカにつられて制裁するな」と牽制する。その一方でもしも日本が対中制裁したら報復しないわけにもいかない。ジレンマです。
件の記事では「日本の対中態度には迷いが見られる」と言っていますけれども、意外と中国政府の方とて対日態度をどうするべきか迷っているのかもしれませんね。
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