過去を教え現在を弾圧する中国

今日はこの話題です。
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1.米上院が孔子学院法案を全会一致で可決


3月4日、アメリカ上院は中国当局の対外プロパガンダ機関である孔子学院の米大学での影響力を取り除くための法案「米大学への外国資金提供に関する懸念(Concerns Over Nations Funding University Campus Institutes in the United States)」、別名「孔子学院法案」を全会一致で可決しました。

この法案は、キャンパス内に孔子学院を設置する大学に対して、大学側が孔子学院の活動、孔子学院が提供した資金、スタッフの採用などを独立管理することを規定するもので、違反した場合、大学は連邦政府の助成金の受給資格を失います。

法案を提出したのは、共和党のジョン・ケネディ上院議員で、ケネディ議員は4日の上院会議で、孔子学院は「ウイグルやチベット、香港、天安門事件についての発言を許していない」と批判。また、議員が発表した声明では、「孔子学院はその名前を除いて、すべて中国共産党の支配下にある。彼らは学術の自由と言論の自由を平然と脅かすプロパガンダ宣伝機関である」と痛烈に非難し、法案によって米大学の孔子学院に対する完全な管理権を取り戻し、キャンパス内の言論の自由を守ることができるとしています。

ケネディ上院議員は、「孔子学院法案を下院でも可決し、大統領の署名に進めることを望む」と下院議員に呼びかけました。

全米学識者協会(NAS)によると、今年2月17日時点で、アメリカ国内には少なくとも55の孔子学院があり、うち48の孔子学院は大学内に設置されています。上院の常設調査小委員会が2019年に公表した報告書によれば、2006~19年まで、中国共産党政権は孔子学院を通して、米大学などに1億5800万ドル(約171億円)以上の資金を提供したとされ、この方面でも「サイレント・インベージョン」が行われていたわけです。


2.孔子学院に潜入取材


では、孔子学院では実際、どんな教育が行われているのか。

たとえば、2019年5月12日に山梨学院大学に開設された孔子学院では、中国語講座や太極拳の講座が設けられています。これだけだと普通の中国の文化を伝える講座に見えます。

また、こちらの武蔵野大学講師学院では、中国語、太極拳の他に、気功法や書道も教えているようです。

今年2月、文春が2020年9月から半年間にわたり、首都圏の某大学の孔子学院に潜入取材をおこなっていたルポライターの安田峰俊氏の記事を掲載しています。

安田峰俊氏は大学在学中、中国広東省の深圳大学に交換留学した経歴の持ち主で、2月6日には『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』という本を上梓しています。

彼は、中国関連では結構知られた人であるらしく、安田氏いわく、「日本国内でデモの取材中に公安警察の職質を受けても名刺を見せたとたんに逆に挨拶される」とか「李登輝氏の追悼のため台北駐日経済文化代表処に行くと初対面の職員から顔パスで会場に入れてもらえる」くらいなのだそうです。

その安田氏が某M大学の孔子学院の「通訳実践講座」のWeb講座に入ったのですね。

講義の内容は、日本語のニュース文を即興で翻訳させたり、逆にニュース文を読ませたり、通訳者の心得を中国語で解説したりするもので、逆に「現代の中国国内では街のあらゆる場所で目にする社会主義核心価値観や、『習近平談治国理政』など習近平の関連文献」は全く読まされず、「『人民日報』の文章も、半年間の講義のなかで1~2回、ニュース読解の際に読んだかどうか」程度であり、半年間でイデオロギーを感じさせたのは、テキスト内で台湾が「中国台湾」と中国国内の呼称で呼ばれていたことくらいだったのだそうです。

半年講座を受けた安田氏は、孔子学院について、「すくなくともM大学孔子学院の通訳実践講座は、L老師の人徳と講師技術ゆえか「プロパガンダ機関」でも「スパイ養成機関」でもなかった。その実態は、極めてハイレベルな中国語教育をニンテンドーSwitch1台分くらいの価格で半年間も提供してくれる、ストイックな孔子ブートキャンプだったのである」と報告しています。


3.中国に親しみを持つ人が増えれば工作も容易になる


では、孔子学院が中国政府のプロパガンダ機関であるというのは間違いだったのかというと、それは何を目的とし何を宣伝するかによります。

2010年当時、中国中央宣伝部長であった劉雲山は、人民日報に対し、中国の海外宣伝について「包括的で、多階層的で、広範囲でなければならない。我国の主権と安全に影響を及ぼす主要な事案については、チベット、新疆、台湾、人権、法輪功などの事案に対し、積極的に宣伝戦を繰り広げなければならない。我々の戦略は、積極的に我々の文化を海外に持っていくことである。私たちは海外の文化センターと孔子学院をうまく設立しなければならない」と述べています。

劉雲山氏は「中国の文化を海外に持っていく」ことが我々の戦略だと明言しているのですね。それからみれば、日本の孔子学院の「中国語講座」や「太極拳講座」、「中国書道講座」などは、確かに戦略通りに中国文化を海外に持っていっている訳です。

では、中国政府がイデオロギー色を薄めてでも文化を教える目的は何か。

考えらえることは中国に「親しみ」を持ってもらうことと、中国語に触れる人を増やすということではないかと思います。中国に親しみを持つ人が増えれば増えるほど、中国語に触れる人が増えれば増えるほど、中国とのパイプが太くなり、数も増えていきます。畢竟、その分だけ中国当局の工作がやりやすくなります。


4.過去を教え現在を弾圧する中国


けれども、この中国の工作について重要な点があります。それは中国の工作は「下り」しかない、「上り」は許さないということです。

つまり、老師が弟子に教えるだけで、弟子が老師に歯向かうことは許されないということです。

例えば、ウイグル人やチベット人への人権弾圧に関する研究・調査、抗議などはこれに当たるでしょう。アメリカ上院で可決された「孔子学院法案」を提出したケネディ上院議員は、孔子学院について「彼らは学術の自由と言論の自由を平然と脅かす」と批判していますけれども、要するに、自分達に対する批判は許さないということでしょう。

そもそも、孔子学院で教える講座からして批判をさせにくい構造になっています。

なぜなら、孔子学院で教えるのは中国語なり、太極拳なり、習字なりといった「過去に生まれた」のものが中心であるからです。過去に生まれ、今に伝わっているものは評価も定まり、批判するところが余りありません。つまり「下り」に最適な戦略物資だと言えるわけです。

逆に、評価の定まっていない現在のもの、それこそ習近平談話とか人民日報とかを「下り」に使おうものなら、弟子から猛烈な抗議という「上り」がくる危険があります。

わざわざそんな危険を冒す必要はありません。仮に講座の中で、ウイグル弾圧だとか、香港弾圧だとかの話が生徒から出たとしても、例えば「この講座は太極拳の講座であって、そのような話をするところではない」と逃げることだって出来る訳です。

ですから、孔子学院で警戒すべきは、なにやら思想教育をしているのではないかとかいうのではなく、「上り」の抗議を許すのか、それも過去ではなく、現在進行形で行われていることに対して「自由な議論」を許しているのか。それこそを問うべきではないかと思いますね。


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