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1.ラムザイヤー論文
アメリカ・ハーバード大学のマーク・ラムザイヤー教授の論文が韓国で話題になっています。
話題の論文は、日本軍慰安婦に関する「太平洋戦争における性契約(Contracting for sex in the Pacific War)」というものです。
韓国社会は怒りに沸き返り、「親日派」「日本の戦犯企業三菱からカネをもらっている」などと罵倒され、韓国の地上波MBCテレビのニュースは、「ラムザイヤー教授は『金髪の日本人』だ」などと報じたようです。
この騒ぎに論文を掲載する予定の「法経済学国際レビュー(IRLE:International Review of Law and Economics)」は、今月号の発行を遅らせる方針を明らかにしました。
理由は、論文の内容に問題があると批判が寄せられた為で、法経済学国際レビューは、ラムザイヤー教授に、今月末までに、学界の指摘に反論する文を書くよう求めています。法経済学国際レビューは、従来の論文と共にその反論内容を掲載する方針を示していて、論文そのものの発行を撤回する計画はないようです。
2.慰安婦の契約の特殊性
韓国の経済史学者で、『反日種族主義』の共同執筆者である李宇衍(イ・ウヨン)氏はラムザイヤー論文ついて次のように要旨を纏めています。
一般的に「良い論文」といわれるものがそうであるように、ラムザイヤー教授の論旨は非常にシンプルだ。まずは「売春婦と慰安婦の契約は、なぜこのような特殊な形を取ったのか?」と問う。一般的な労働者の場合は先に働いて、その報酬を日給、週給、月給などの形で受け取る。ところが、なぜ売春婦や慰安婦の場合は事業主との間で、前借金、数年の契約期間、売上高の分割の割合などが定められた独特な契約を交わすことになったのか。李宇衍氏によると、論文で挙げられている前借金や契約期間、売上高の分割割合などといった、朝鮮人慰安婦の特徴はラムザイヤー教授が初めて述べたわけではなく、研究者の間でよく知られたことなのだそうです。
答えもシンプルだ。就職を持ちかけられた女性はある問題に直面する。性労働に従事することは女性の評判を深く傷つけるというものだ。だから、業者は非常に有利な条件を提示する。女性たちは、業者がその約束をきちんと守ってくれるのか、疑わざるを得ない。これを解決する方法は何だろうか。業者があらかじめ高額を支払うことである。それが前借金だ。
業者も問題にぶつかる。この産業の特性上、女性たちが真面目に働いているかどうかを監視することは不可能だ。閉鎖された空間で行われる労働だからだ。たとえ手厚い待遇をしたとしても、一生懸命働いてくれるだろうか。同じ客にまた来てもらい、その女性を指名してもらえるだろうか。
この問題を解決する方法は、女性が稼いだお金(売上高)を一定の割合で事業主と分割することだった。定額の給料を支払われるとなれば、女性は真面目に働かないかもしれないが、売り上げ次第で取り分が変わるとなれば頑張るだろう。その結果、前述のような特殊な形態の契約、一種の年季奉公契約が結ばれる。
以上がラムザイヤー教授の論文の要旨だ。
そもそも件の論文は、慰安婦が売春婦だったことを立証するために書かれたものではなく、売春婦と慰安婦の契約の特殊性を論じたものなのですけれども、その内容は韓国が主張する「慰安婦が性奴隷」ではなかったことを示すことが可能なことから、韓国から猛烈な、そして"いつもの"批判が集まったようです。
3.現在の価値観で当時を判断する学者
韓国の"いつもの"批判は脇におくとして、その他学者からの批判の主なものは、慰安婦契約を示す「契約書」がないというものです。
アメリカ・コネチカット大学歴史学科のアレクシス・ダデン教授は、「主張を裏付ける書類がないのなら、そして証拠がないなら、その主張は真実ではありません」と批判しています。
また、その他の批判としては、イェール大学のピネロピ・ コウジャノウ・ゴールドバーグ経済学部教授が「ラムザイヤー教授の論文“太平洋戦争の性契約”をとりまく論議は、歴史的記録の正確さと学問の質に集中されているが、それよりもっと深刻な問題がある……ラムザイヤー教授による、10歳の"おさき"という少女に関する部分は、児童の性売買を露骨に支持している」との声明を出しています。
ただ、ラムザイヤー論文が「売春婦と慰安婦の契約の特殊性」を論じたものであるのに、「契約書がないから真実ではないのだ」とか「児童の性売買を露骨に支持している」といった批判は、現在の価値観で当時を判断するものであって、学問的に真実だったのかどうかを問うには邪魔な議論だと思います。
4.批判の拠り所は証言だけ
こうした批判について、先に取り上げた李宇衍氏は次のように述べています。
ここには、合意内容を必ず文書に残す欧米の契約文化と、口頭契約の依存度が高かった韓国の契約文化との違いを理解していないという背景がある。このように李宇衍氏は、批判者達の「契約書がないから契約自体なかった」という批判の拠り所は元慰安婦の「証言」でしかないが、その証言自体が信じるに値しない、と斬って捨てているのですね。
「契約書がない」という批判は、「契約自体なかった」という「確信」がベースにある。「契約がないのだから契約書も当然ない」という論理だ。批判者たちに共通しているのは、女性たちは契約ではなく日本の軍人や警察、官吏などに強制連行されて慰安婦になったという認識である。「強制連行だったのになぜ契約書や契約の話が出てくるのか」と責めているのだ。
批判者たちは「確信」する根拠が山ほどあるという。「被害者」である元慰安婦たちの「証言」、「加害者」である吉田清治氏の「告白」、1992年に吉見義明氏が発見したという「強制連行」を指示した日本軍の文書、1993年に日本政府が発表した「謝罪」の織り込まれた河野談話、1996年に国連人権委員会で公表されたクマラスワミ報告書のように、アムネスティ・インタナショナルや国際法律家委員会(ICJ)などのNGO(非政府組織)が発表した各種調査結果である。だが、その「確信」のベースになった「証拠」の中で、いまも健在なのは元慰安婦の「証言」のみだ。それ以外はすべて虚構か、あるいはこの「証言」を根拠にしたものである。
【中略】
一見すると証拠が山のように積まれているが、実際は元慰安婦の証言だけしか残っていない。
では、元慰安婦たちの言う「強制連行だった」は信じられるのか。
彼女たちがカミングアウトした1990年代初めの証言は「強制連行」と無関係だった。朝鮮人による就職詐欺や親に売られて慰安婦になったと証言しているのだ。ところが、慰安婦問題が韓国の社会的・政治的問題になり、韓日間の外交問題に発展すると言葉を変え、「強制連行」と言い出した。「証言」が政治的に汚染されたわけだ。
【中略】
元慰安婦の「証言」の一番の問題は、このように一貫性がないということだ。
さらに重要な問題は、証言を立証する客観的証拠が何一つないことである。日本の官憲による「強制連行」を示す公的文書は見つかっておらず、民間人を含めてそうした事件を目撃した第三者が残した記録もないし、そのような証言も出てこない。強制連行論者らは「20万人」が無理やり連行されたと主張しているが、この30年間、それを立証する証拠を一つも提示していない。よって、彼女たちの「証言」は信じるに値しないと言わざるを得ない。
5.売春婦はすべて、志願者か、親に売られた人たちだ
また、児童の性売買についても、李宇衍氏は、当時の新聞を見ると、親が娘を売ることなどざらにあり、社会問題の一つになるほどだったとし、募集業者と取り引きする親は、娘がどこへ行って何をするかを知っていたと見るべきだと指摘した上で、1945年初め、米軍に捕らえられた朝鮮人捕虜3人に対する尋問調書について述べています。
尋問調書によると、捕虜達は、「日本軍のために売春婦として働く朝鮮人女性を募集していることを、朝鮮人は知っているのか。これに対して普通の朝鮮人はどのような態度を取るのか。君たちはそれによって引き起こされた騒乱や摩擦について知っているか」と質問され、次のように答えています。
「私たちが見てきた売春婦はすべて、志願者か、親に売られた人たちだ。これは朝鮮的な考え方だが、日本人が女性を直接徴発したら、年寄りも若者も憤怒して立ち上がっただろう。男たちは怒り、我が身がどうなろうとも日本人たちを殺したはずだ」この尋問調書について李宇衍氏は、「この答弁は『強制連行』はなかったしあり得ない、という事実とともに、慰安婦になる一般的な経路は親の人身売買や売春婦の転職、一般人の就職だったことを物語っている」と指摘しています。
ラムザイヤー論文を批判する人たちが「証言が証拠だ」と主張するのなら、この米軍の尋問に答えた朝鮮人捕虜の答えも証言です。
また、「契約書がないから真実ではない」という批判のロジックは裏を返せば、「契約書があれば真実である」ということです。したがって、尋問調書についても、同じロジックを適用すれば、「調書があるから真実である」ということになります。
こうしてみてくると、ラムザイヤー論文に対する学者からの批判でさえも、説得力に欠けるばかりか論点もズレているような気がしてなりません。
ラムザイヤー教授の反論に注目してみたいと思います。
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