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1.2021年戦略的競争法
4月8日、アメリカ上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、新しい包括的な中国法案に関する超党派合意を発表しました。
法案は「2021年戦略的競争法(The Strategic Competition Act of 2021)」という名称で、北京に対抗するための外交的・戦略的な取り組みを義務付ける中々強力な法案です。
法案の要旨は次の通り。
・中国政府が提起する課題に対処するためのアメリカの外交戦略を強化し、インド太平洋地域および世界中の同盟国およびパートナーに対するアメリカのコミットメントを再確認し、国際機関およびその他の多国間フォーラムにおいてアメリカがそのリーダーシップを再確認することを求める。インド太平洋地域への安全保障支援を優先することにより、同盟国とパートナーに対するアメリカのコミットメントを更新し、西半球、欧州、アジア、アフリカ、中東、北極、オセアニアにおける中国の挑戦に対処するためのアメリカの外交努力を強化する。このように、中国との経済的な競争だけでなく、少数派のイスラム教徒であるウイグル人の扱いに関する制裁や、香港の民主化を支援するなど、人道的・民主的な価値観にも言及しています。
・普遍的価値への投資として、香港の民主化支援、新疆での強制労働、強制不妊手術、その他の虐待に対する制裁措置など、人権および市民社会に関する広範な措置を認める。
・中国の略奪的な国際経済行動に対抗し、立ち向かうことに重点を置き、知的財産権侵害者の追跡、中国政府の補助金、アメリカの輸出規制を回避するための中国の香港利用の監視、アメリカの資本市場における中国企業の存在の追跡などの措置を含む。外国の腐敗行為への対策に取り組んでいる国への技術支援や、COVID-19パンデミックのために延期を要請した最貧国への債務救済を行うようアメリカに指示する。
・科学技術、グローバルなインフラ整備、デジタル接続、サイバーセキュリティのパートナーシップへの投資によりアメリカの競争力を強化し、中国共産党の影響力と悪意のある活動に対抗するアメリカの取り組みを強化する。
・中国の弾道ミサイル、極超音速滑空ミサイル、巡航ミサイル、通常兵器、核、宇宙、サイバー空間、その他の戦略領域に関する報告を求める。
2.日米首脳会談延期の裏側
281ページにも及ぶこの「2021年戦略的競争法案」は、4月14日に修正案の審議と投票を行う会議であるマークアップを行うために、委員会メンバーに公開されています。
法案を提出したボブ・メネンデス上院議員は、「私は、インド太平洋戦略のためにすべてのアメリカの戦略的、経済的、外交的ツールを動員するこの前例のない超党派の努力を発表することを非常に誇りに思います。2021年の戦略的競争法は、この瞬間に、アメリカのリーダーシップを再構築し、中国を打ち負かす能力に投資し、コアバリューの外交を再構築できる統一された戦略的対応が必要であるという認識です」と明確な対決姿勢を強調しました。
そして、「アメリカ政府は、北京の意図と行動について明確で冷静であり、それに応じて私たちの政策と戦略を調整しなければなりません。私は、この努力が来週の上院外交委員会とその直後の上院で圧倒的に承認されるために必要な支援を持っていると確信しています。それが私たちが中国の挑戦を正しくする唯一の方法です。相互信頼と誠実な妥協への超党派のコミットメント、実用主義と理想主義のバランス、そして私たちの国が直面する最も困難な課題の1つを最終的に解決するための共通の献身です。通路の両側にいる同僚に話したように、私は共通の目的で協力し続けることを約束しているので、この主要な法律は迅速かつ定期的に制定されます。中国の挑戦の範囲、規模、緊急性は、それ以上のものを要求します」と猶予はないと述べています。
メネンデス氏は「この取り組みは、来週の上院外交委員会で圧倒的な支持を得て、その後すぐに上院全体で承認されるものと確信しています」と、迅速な可決に自信を見せています。
この「2021年戦略的競争法」は、アメリカに対する法案ではありますけれども、「中国の略奪的な国際経済行動に対抗し、立ち向かうことに重点を置く」としながら、同時に「世界中の同盟国およびパートナーに対するアメリカのコミットメントを再確認し、国際機関およびその他の多国間フォーラムにおいてアメリカがそのリーダーシップを再確認することを求める」となっています。
要するに、同盟国やパートナー国に、アメリカと同じように動けと要求するものでもあるということです。
無論、日本にも制裁措置を含む対中圧力を掛けるよう求めてくるものと思われます。
実際、ある自民党防衛族議員は、「中国は尖閣諸島周辺への領海侵犯を繰り返して日本にも圧力をかけている。政府はアメリカに首脳会談の共同声明で『尖閣が日米安保条約5条の対象である』と明記するように求めている。尖閣を侵略すれば米軍が出てくるとわかれば中国への抑止力になるからだが、アメリカ側は代わりにウイグルの人権問題で優柔不断な日本に制裁参加を要求してきた。外務省は頭を抱えている」と述べています。
4月6日のエントリー「日本に動いて欲しくない中国」で筆者は、今度の日米首脳会談が16日に延期になったことについて、その裏に、日本への要求を更に上乗せしてくる可能性について触れましたけれども、もしかしたら、この「2021年戦略的競争法」の法案を14日に上院で審議・可決させてから日米首脳会談を行うように、延期したのではないかと思えてきます。
であれば、対中制裁はもちろん、かなり具体的な措置を日本に求めてくることも考えられます。
3.解散総選挙の新たなるファクター
4月6日、菅総理はBS日テレの「深層NEWS」で、衆議院の解散・総選挙について「新型コロナウイルスの感染拡大防止が最優先と申し上げてきた。そこは大事なことだと思う。これからワクチン接種が極めて重要なことになってくると思う」と述べ、内閣不信任決議案の提出は大義になるという考えかと問われ、「そこは当然なると思う……自民党の総裁選挙の前に解散することも当然ありうるだろうと思う」と9月末に任期を迎える自民党総裁の選挙前の解散もありうる考えを示しました。
野党が内閣不信任案を出したら、解散総選挙に打って出る説については、二階幹事長も発言しています。
4月4日放送のBSテレ東番組で、二階幹事長は「出して来たらすぐやりますよ。会期末だろうがどこだろうが、不信任ということはあなた方と一緒に政治やってられないということの意思表示でしょ。言って来たら、国民の皆さんに問おうじゃないか」と述べました。
こうした発言から永田町では俄かに解散風が吹き始め、野党が6月の国会会期末に内閣不信任決議案を提出し、それを受けて菅総理が解散を行い、7月4日投開票の東京都議選とのダブル選に臨むという案も囁かれているそうです。
なぜ、このタイミングで解散カードをちらつかせ始めたのか。それはもちろん勝てる見込みが出てきたからです。
3月の世論調査では内閣支持率が4割超に持ち直してきた一方、野党第1党の立憲民主党は10%未満にとどまっています。
更に、衆院定数465のうち、立憲民主がこれまでに公認候補を立てたのは半数に満たない約200人だ。共産党との選挙協力も、原発や日米同盟など国の根幹政策で齟齬が目立ち、各選挙区で野党候補の一本化作業が遅れています。
安倍前総理は最近、親しい自民党の中堅議員に「野党が態勢を整える前に選挙戦に臨めば、与党が地滑り的な勝利を図ることができる。任期満了まで待つよりリスクが少ない。私なら6月に解散する」と打ち明けたという話も出ているそうです。
菅総理は、解散について問われ「ワクチン接種が極めて重要だ」と述べ、ワクチン接種状況が解散に影響を与えるという見方も一部出ていますけれども、アメリカの「戦略的競争法」が出てきたことで、もう一つ大きなファクターが出てくる可能性があります。
それは公明党です。
4.衆院選挙の切り口は変わるか
公明党の衆院選の比例票は、2003年から2009年までは800万票台で推移していたのですけれども、2012年に711万票に落ち込み、2014年は731万票、2017年は697万票と低迷しています。
それを受け、公明党は次期衆院選に向け、比例選800万票の回復を目標に掲げています。
公明党の支持母体の創価学会は、座談会や訪問で支援を直接呼びかける「地上戦」の選挙活動を得意とするのですけれども、武漢ウイルス感染拡大の長期化で思うように活動できず、低迷しています。
そこで自民票の取り込みを狙い、月内にも、自公両党は、7月の東京都議選で公明が自民候補を推薦する代わりに、自民が衆院選の比例選東京ブロックで公明候補を支援することなどで協定を締結すると見られています。
そんな中、菅総理は訪米しての日米首脳会談です。
おそらく菅総理はアメリカから「戦略的競争法」をバックに、対中制裁を含む厳しい踏み絵を踏まされることになるのではないかと筆者は見ているのですけれども、そのとき、公明はどう動くか。
4月9日のエントリー「日本に動いて欲しくない中国」でも述べましたけれども、公明党は、ウイグル人への人権問題で与野党有志議員が日本版「マグニツキー法」の議員立法や人権問題をめぐる国会決議を目指す動きに反対の姿勢を見せています。
もし公明党の裏に中国の工作が入っているとしたら、日米首脳会談の結果次第ですけれども、対中制裁に反対し、連立離脱とか選挙協力解消だとか言い出して揺さぶりを掛けてくることも考えられます。
なんとなれば、表向き選挙協力すると言っておいて、積極的に選挙活動せずに自民党の足を引っ張ることだって出来なくもありません。それで自民党から詰られても、「武漢ウイルス禍で思ったような選挙活動が出来なかった、ごめんね、テヘペロ」とでもシラを切ればおしまいです。
あるいは、もう一段深読みすれば、二階幹事長が菅総理に圧力を掛け、表向きアメリカにがっつり同調する姿勢を見せて、あえて公明に反対させ、て総選挙での選挙協力をぶち壊してしまうことで、与党の衆院過半数割れといった"いい具合"に敗北するように仕向ける。そうすることで、与党が法案をすんなりと通せない状況にする。その結果、アメリカからの対中制裁要求をのらりくらりと躱す、なんて「寝技」が隠されていることだって考えられなくもありません。勿論、実のところどうなのかは分かりませんけども。
結局のところ、世論と有権者がどう判断するのかということに尽きるのですけれども、その意味では次の衆院選は与野党対決ではなく、親米か親中か、リベラルかサヨクかという切り口での選挙になるのかもしれませんね。
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