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1.アメリカン・ジョブズ・プラン
4月12日、アメリカのバイデン大統領は、世界的に半導体が不足している問題について、半導体大手インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)、自動車大手ゼネラル・モーターズのメアリー・バーラCEO、フォード・モーターのジム・ファーリーCEO、クライスラーの親会社ステランティスのカルロス・タバレスCEOおよび半導体受託生産のグローバルファウンドリーズ、台湾積体電路製造(TSMC)、AT&T、サムスン電子、グーグルの親会社アルファベットの幹部など、大手企業19社の幹部とオンライン形式での協議を行いました。
協議には、サリバン大統領補佐官、ディーズ国家経済会議委員長、レモンド商務長官も参加。
協議の冒頭、バイデン大統領は次のように述べました。
本日、上院議員23名(超党派)と下院議員42名(共和党、民主党)からCHIPS for Americaプログラムを支持する書簡を受け取った。誰が後ろで糸を引いているのか分かりませんけれども、雇用を創出し、アメリカの製造業を活性化するだなんて、トランプ前大統領が発言してもおかしくない内容です。
……それによると、中国共産党は「半導体のサプライチェーンを再編成し、支配することを積極的に計画している」と書かれている。 そして、そのためにどれだけの資金を投入しているかが書かれている。 しかし、私はこれまでずっと言ってきたことがある。中国をはじめとする世界の国々は待っていないし、アメリカ人が待つ理由もない。
私達は、半導体やバッテリーなどの分野に積極的に投資している。 それは、中国やその他の国々が行っていることであり、我々もそうしなければならない。 私達は、この法案の中で大幅な投資を求めている。 それは重要なことだが、それだけでは十分ではないこともわかっている。
私が提唱する「アメリカン・ジョブズ・プラン」は、アメリカの製造業を復活させ、サプライチェーンを確保し、かつてのように健全に研究開発に投資することを目的としている……
……私が持っているようなチップ、これらのチップやウェハーは、バッテリーやブロードバンドなど、すべてがインフラだ……私達は、昨日のインフラを修理するのではなく、今日のインフラを構築する必要があるのだ。 私が提案する計画は、何百万人もの雇用を創出し、アメリカを再建し、サプライチェーンを保護し、アメリカの製造業を活性化するものだ。 また、アメリカの研究開発を再び素晴らしいエンジンにすることができる。
協議では、現在の半導体不足を緩和し、将来の需要予測を改善するため、半導体サプライチェーン(供給網)の透明性強化が重要だとの意見が出て、「このような不足が二度と起きないよう、アメリカの半導体生産能力の増強を奨励する必要性」についても議論したとのことです。
協議終了後、ホワイトハウスはバイデン政権が半導体不足を「喫緊の最優先課題」と考えていると表明。サリバン大統領補佐官は「危機のたびにサプライチェーンに対処しようとすれば、国家安全保障上、重大な脆弱性が生じる」とコメントしました。
2.インテルのIDM2.0
協議に出席したそのインテルですけれども、3月23日、ゲルシンガーCEOは、「Intel Unleashed:Engineering The Future」という銘打ったオンラインプレゼンテーションを行い、その中で垂直統合型デバイスメーカー(Integrated Device Manufacturer:IDM)のビジネスモデルを大きく進化させる「IDM 2.0」のビジョンについて説明しました。
「IDM 2.0」は大きく3つの施策で成り立っています。
一つ目は「インテルのグローバル工場ネットワークを活用し、製品の大部分を社内で製造し続けるというこれまでの方針を堅持すること」、二つ目は、「TMSCやサムスン、グローバルファウンドリーズ、UMCといったサードパーティーファウンドリーを活用することで、インテルの自社工場ネットワークだけではカバーしきれない需要に対する柔軟性と規模の拡大をはかること」。
そして最後に「今後も伸び続ける半導体の世界的な需要に対応するため、アメリカと欧州を中心に独立した新事業部でファウンドリー事業を担うIntel Foundry Services(IFS)を設立すること」です。
このIFSについてゲルシンガーCEOは、インテルの最先端プロセステクノロジーとパッケージングの組み合わせ、アメリカと欧州での確固たる生産能力、顧客向けの世界クラスのIPポートフォリオにより、他のファウンドリとは差別化できるとしています。
インテルはこの「IDM 2.0」を加速するため、半導体の製造能力を大幅に拡大。まずは、アリゾナ州オコティージョに展開するインテル拠点の敷地内に200億ドルを投じて、2つの新工場を建設するこを決定しています。
アリゾナ州には既にTSMCが要請にこたえて工場建設を決めているのですけれども、今回のインテルの工場建設により、従来想定されていた国防総省がらみの軍事用チップ主体の工場から、アメリカのファブレス向け商用チップの生産を主体にする可能性もあると見られているようです。
3.半歩先を行くTSMC
これまで長らくインテルは半導体製造プロセスの「微細化」で世界をリードしてきたのですけれども、最近はその座をTSMCに奪われています。
ゲルシンガーCEOは「IDM 2.0」の説明で、2021年4~6月期には、インテルで7nmプロセスラインの稼働を始めると述べていますけれども、TSMCは更に一つ先の世代である3nmプロセス(インテルの5nmプロセスに相当)のCPU生産を2022年に始める予定としています。
アメリカ政府はTSMCに要請してアリゾナ州にTSMCの工場を誘致したは良いのですけれども、そこのラインは5nmプロセスです。アリゾナのTSMC工場で5nmプロセス製品が作られ始めるころには、TSMCは3nmプロセスがメインとなる見込みで、アメリカは半歩から一歩遅れています。
これについて、東北大学大学院工学研究科の田中秀治教授は、「台湾政府は、小さなTSMCの工場を米国にプレゼントすることで、安全保障上と外交上の優遇を米国政府から引き出せることになったとも考えられる……アメリカ政府は台湾に大きな見返りを与えてでも、稼働時には最先端でなく、わずか月産2万枚の半導体工場が欲しかったのです。ファブレスモデル大成功の先には、大きな落とし穴があったというわけです。現物資本集約的で、泥くさくて小回りが利かない製造技術を軽視したツケが回ってきました……しかし、物理的なモノづくりよりも、コンピュータ上でのきれいな仕事が持てはやされてきたことは事実です。大学の研究でも設計分野が重視されてきました。インテルが5nmプロセスを満足に立ち上げられなかった背景には、優秀な学生が半導体製造分野を敬遠したことが挙げられます」とコメントしています。
一口に内製化、国産化といっても、半導体生産の世界でのそれは、そう簡単なことではありません。
4.半導体の心臓となる台湾
ここ最近、半導体生産工場の「火災事故」が相次いでいます。
2020年10月、旭化成マイクロシステムの半導体工場が火災が発生し、半導体の世界的な供給不足に追い打ちを掛けました。結局、旭化成は、火災によるクリーンルーム内などの損傷が激しいことから既存工場の復旧を諦めたようです。
それでも、旭化成は、火災直後にルネサス社へ協力を要請し、ルネサス那珂工場で代替生産するなどリカバーに努めていました。
しかし、そのルネサスも3月19日に、那珂工場で火災が発生。自動車産業への半導体供給に遅れを生じています。
更には、3月31日、今度はTSMCで火災が発生。研究開発ならびに先端デバイスの試作を行っているラインがストップしています。
立て続けに起こった半導体工場の火災事故に、サイバーセキュリティや国家安全保障を専門とする人たちからは、「中国犯行説」の"陰謀論"まで囁かれているそうです。
台湾は世界の半導体生産の最先端の一角を担っています。
もし、台湾有事が起こって、TSMCなどからの半導体生産がストップしたら、世界の自動車、スマホ製造ラインは大混乱に陥ることは火を見るより明らかです。
そんな時、中国本土だけなぜか無事で、半導体生産が出来るとなったら、各国はこぞって中国に靡かないとも限りません。こうなったら制裁もへったくれもありません。ワクチン外交と同じ手口ですね。
もし、旭化成、ルネサス、TSMCの半導体工場火災が中国の陰謀だったとしたら、一連の火災は供給が滞ったときに世界のサプライチェーンがどう動くのかを探るためにやったと見ることも出来なくもありません。
単なる陰謀論だと笑っていられるうちはよいでしょうけれども、半導体生産に関する限り台湾の存在感は非常に大きいことは間違いありません。
台湾含めたサプライチェーンの見直しと強化は喫緊の課題になってきたように思いますね。
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