

1.文在寅の国際海洋法裁への提訴検討指示
4月14日、韓国の大統領府は、日本政府が原発処理水の海洋放出方針を決定したことを受け、放出差し止めに向けた暫定措置も含め、国際海洋法裁判所への提訴を検討するように文在寅大統領が指示したと、内部会議での発言を公表しました。
この後、2月に着任した相星孝一駐韓大使から信任状を受け取った席で文大統領は、「地理的に最も近く海を共有している韓国の懸念は非常に大きい……本国にしっかり伝達してほしい」と、日本政府に韓国の懸念を伝達するよう相星大使に要請しました。
通常、大統領への信任状提出の場では儀礼的な発言が普通で、今回はドミニカ共和国、ラトビアの新任大使も同席していました。にも拘わらず、いわば、相星駐韓大使を"晒しもの"にする形でのこの発言は異常というべきです。
実際、韓国野党「国民の力」のアン・ビョンギル議員は、政府省庁合同タスクフォースが昨年10月に「福島原発汚染水関連現況」報告書を作成し、その中で原子力安全委員会が7回の専門家懇談会を行った結果、汚染水を浄化する日本の多核種処理設備(ALPS)の性能に問題がなく、日本の海岸地域の放射線影響評価を行い、汚染物質が国内海域に入る可能性は「海流によって拡散・希釈されて有意な影響はない」との評価をしていたことを明らかにしています。
従って、文在寅大統領の提訴指示は、レイムダック化した文政権のせめてもの国内向けパフォーマンスではないかと思います。
2.トリチウムは自然界に存在する
現在、福島第一原発の"汚染水"は、2014年に導入された多核種除去設備(ALPS)によって、62種類の放射性物質を除去しています。
この多核種除去設備(ALPS)でも、唯一除去できないのが、今、処理水の放出云々で話題になっているトリチウムです。
トリチウムは、陽子1つと中性子2つから構成される水素の同位体で、半減期12.32年の放射性物質で、主にトリチウム水として存在します。
トリチウム水は普通の水とほぼ同じ性質を持つため、水と化学的に分離することができず、水素とトリチウムの重さの違いを利用して、蒸留や電気分解などをひたすら繰り返すなど膨大なコストがかかります。したがって、十分に希釈してから放出する措置を取ろうとしているのですね。
勿論、日本の原発処理水のトリチウム濃度は国際基準を守り、計画では処理水を世界保健機関(WHO)の水質基準の7分の1にまで希釈してから放出するとしています。
そもそもトリチウムは、宇宙線が大気圏上層の空気に当たることで生成されるもので、自然界に普通に存在します。雨には1ℓ当たり約0.4ベクレル含まれています。当然水道水にも含まれています。
1ベクレルのトリチウムがもたらす内部被曝は、1ベクレルの放射性セシウムがもたらす内部被曝の約1/1000で、体内に入っても尿とともに排出されます。
海水中に存在する天然のトリチウムの濃度は1リットル当たり約0.1ベクレル程度で、雨に含まれる天然トリチウム濃度の4分の1程しかありません。つまり、自然界においても、トリチウムは海で希釈されるサイクルになっています。
海洋生物環境研究所による福島原発近くの海で測ったトリチウム濃度は2019年度で1リットルあたり最大0.66ベクレル。もっとも多い福井県の原発周辺海域でも、1リットルあたり最大12ベクレルです。
福島原発周辺海域に限れば、ほぼ自然界のトリチウムと同水準にまで下がっています。

3.味方を増やせ
韓国とは違い、世界は日本の対応を評価しています。
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、福島第一原発のトリチウムを含む「処理水」を日本政府が海に放出すると決定したことについて、「歓迎する」との動画を公開しました。
動画のなかで、グロッシ事務局長は、「これは廃炉に向けた重要なステップで、IAEAは今回の計画の安全性と透明性について技術的に評価する準備ができている……処理水が環境や人の健康に悪影響を及ぼさないという信頼の構築を助けることになるだろう……日本が選択した方法は技術的に実現可能であり、管理されたうえで放射性物質を含む水を海に放出することは、世界の原子力発電所で日常的に行われているものだ」と強調しました。
また、アメリカも国務省のプライス報道官が声明を発表し「日本政府が現在福島第一原子力発電所に保管されている処理水の管理に関連するいくつかのオプションを検討したことを認識している。独特で困難な状況において、日本は透明性を保ち、世界的な原子力安全基準に合致した手法を採用したようだ」と評価しています。
科学的にいくら説明しても理解しない国がいる一方で、当たり前に評価する国・機関もあります。
4月13日、加藤官房長官は定例記者会見で、「中国、韓国、台湾を含む世界の原子力施設でも、国際基準に基づいた各国の規制基準によってトリチウムを含む液体廃棄物を放出している……その周辺でトリチウムが原因として作用する影響は見られない」とし、「関係省庁が一つになって必要な情報を透明に提供する」と反論していますけれども、日本政府は通り一遍の反論で済ませるだけでなく、味方になってくれる国を一つでも増やすよう積極的な広報をすべきだと思いますね。
この記事へのコメント
春と秋