ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
1.新たな時代に向けた日米のグローバル・パートナーシップ
4月16日、菅総理はホワイトハウスでバイデン大統領と初の首脳会談を行いました。会談は通訳のみの1対1で約20分間行った後、少人数会合と全体会合に移り、計2時間半に及びました。
注目された台湾問題については「海峡の平和と安定の重要性」を改めて確認し、共同声明に明記されました。
該当部分は次の通りです。
菅総理とバイデン大統領は、インド太平洋地域及び世界の平和と繁栄に対する中国の行動の影響について意見交換するとともに、経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した。もっとも、台湾に触れたといっても、台湾海峡(the Taiwan Strait)と、台湾そのものとの言及は避けています。さらに、海峡の平和と安定を強調する一方で、両岸問題の平和的解決を"促す"としています。これらの文言を見る限り、日米両国が台湾に直接介入するともしないとも解釈でき、どう捉えるかは微妙なところだと思います。
日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく。
日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する。
日米両国は、東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対する。
日米両国は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明するとともに、国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認した。
日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。
日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。
日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した
その一方、香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況については懸念を「共有する」としましたから、こちらは日米で協調行動を取ると受け取ることもできるかと思います。
2.菅・バイデン共同会見
日米首脳会談のあと、菅総理はバイデン大統領と共同記者会見を行いました。
NHKによると、菅総理の発言のポイントは次のとおり。
・日米は普遍的価値共有する同盟国同じく、バイデン大統領の発言のポイントは次のとおり。
・政治信条やビジョンなど率直な意見交換
・日米2プラス2で一致した認識を改めて確認
・力による現状変更の試みに反対で一致
・拉致問題 即時解決 求めていくことを再確認
・ワクチン供給 日米間の官民協力の強化
・バイデン大統領から日米安保第5条の尖閣諸島への適用表明
・東京五輪・パラ 実現の決意に支持
・日米首脳共同声明に一致
・日米で世界の脱炭素をリード
・台湾海峡の平和と安定の重要性について確認
・人種差別 いかなる社会にも許容されない
・共同声明は日米同盟の羅針盤
・在日アメリカ軍の再編推進で一致
・対面の意義を強調両首脳のポイントが異なるのは、双方の国益を考えれば当たり前ですけれども、共通している部分を挙げると価値観と武漢ウイルス対応の部分あたりでしょうか。要するに両国の価値観と国益が重なっているのがその2つだということです。
・中国、北朝鮮問題で協力
・共通の価値観を守る
・新型コロナ収束が最優先
・5G・半導体供給網で協力
・気候変動に対し積極的行動
・両国の交流を促進
・ゴルフ松山選手を祝福
・銃規制を強く支持
・核合意めぐるイランとの話し合いは続いている
3.台湾海峡
上述したNHKによる両首脳の発言ポイントは沢山ありますけれども、実際の会見でコミット(commit)という表現を使った箇所はそれほど多くありません。
ホワイトハウスのサイトで公開されている共同会見の全文から"commit"を拾うと次の通りです。
菅総理
・北朝鮮については、すべての大量破壊兵器とすべての範囲の弾道ミサイルのCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)へのコミットメントを確認するとともに、安保理決議に基づく義務の履行を北朝鮮に求めることで合意した。
・私は、日本の防衛力を強化する決意を伝え、バイデン大統領は、尖閣諸島への日米安全保障条約第5条の適用を含め、日本の防衛に対するアメリカのコミットメントを改めて示した。
バイデン大統領
・私たちは、中国からの挑戦、東シナ海や南シナ海、そして北朝鮮などの問題に協力して取り組んでいくことを約束した。
・人権や法の支配などの共通の価値観を守り、前進させることに全力を尽くす。
・気候変動の脅威に対応するため日本とアメリカは、2050年までに排出量をゼロにすることを約束
では、共同会見では台湾問題は出なかったのかというと、記者質問で取り上げられました。産経新聞の杉本記者が質問しています。そのやり取りは次の通りです。
産経 :ありがとうございます。 産経新聞社の杉本と申します。 今回の首脳会談では、中国政策が中心的な議題のひとつだったと思いますので、中国政策について質問します。 両国政府は、台湾の平和と安定が非常に重要であると考えており、それが日米間の合意事項となっていました。本日の会談では、この点についてどのような意見交換が行われたのでしょうか。 海峡での有事を抑止するために、日本は何ができるのか。 また、実際に台湾海峡で有事が発生した場合、日本は何ができるのか。 首相はバイデン大統領に、そのような状況下で日本ができることを説明したのか。また、新疆ウイグル自治区の人権問題についても議論されたのでしょうか。 重大な懸念は日中両国で共有されていますが、日本はG7の中で唯一、中国に制裁を加えていません。 バイデン大統領の理解を得ることはできたのでしょうか?記者が「台湾の平和と安定」と問いかけたのに対し、菅総理は「台湾海峡」と共同声明と同じく"海峡"を付け足して答えています。このことから、今回の日米会談では台湾と台湾海峡を慎重に分けて議論した可能性はあるかもしれません。
菅総理:地域の状況について意見交換をした際に、台湾や新疆ウイグル自治区の状況についても話しました。外交上のことなので詳細は控えますが、台湾海峡の平和と安定の重要性については、すでに日米間で認識が一致しており、今回も再確認されました。また、新疆ウイグル自治区の状況について、日本の立場や取り組みを説明しましたが、大統領は私の説明を理解してくれたと思います。
また、ウイグル自治区の状況に対し、菅総理は日本の立場と取り組みを説明して、バイデン大統領が「理解してくれたと思う」と述べています。こちらについては、日米で異なっている対中政策についてすり合わせを行ったのかもしれません。
いずれにせよ日本は、今回の日米共同声明でブルーチーム側に立つことを宣言しました。
4.日本はアメリカの下僕だ
この共同声明に早速中国が反応しています。
4月17日、在米中国大使館の報道官は記者の質問に答える形式で談話を発表しました。その内容は次の通りです。
台湾、香港、新疆ウイグル自治区の問題は中国内政であり、東シナ海と南シナ海は中国の領土主権と海洋権益に関連している。これらの問題は中国の根本利益にかかわっており、干渉することは許されない。われわれは米日首脳共同声明に関連する言及に強い不満と断固反対を表明する。中国側は国家主権と安全、発展の利益を断固として守る。随分と既視感のあるというか、北朝鮮のような口振りです。まるで余裕がありません。
米日の発言はすでに二国間関係の正常な発展という範囲を完全に超えており、第三者の利益を損ない、地域国の相互理解と信頼を損ない、アジア太平洋の平和と安定を損なっている。アジア太平洋地域を分裂させ、他国を狙う『小グループ』をつくろうとしているのに、『自由で開かれた』と冠するのはこの上ない皮肉である。このように時代に逆行し、地域国家の心の通い合いを退けようとする米日の企ては、他人を傷つける目的であっても、必ずや自らを傷つける結果に終わるであろう。
また、同じく17日、環球時報は「US-Japan alliance is becoming the axis of endangering peace in Asia-Pacific: Global Times editorial(日米同盟はアジア太平洋の平和を危うくする軸になりつつある)」という社説を掲載しました。
社説では、日米関係を「主従関係」だとし、日本はアジアの中で、アメリカの中国封じ込め政策に最も忠実に従う国と嗤っています。
その理由として、日本の外交は「半主権」レベルであり、アメリカに反論できないということ。そして、日本は中国を最も封じ込めたいと考えているアジアの国であり、日米の「共有価値」は、中国の発展に対する嫉妬と憎しみだと述べています。
続けて、日本は過去に中国に被害を与えたのだの、中国は日本に被害を与えたことはないだとか、いつものセリフを叫び、挙句の果ては日米同盟は、アジア太平洋の平和に致命的な混乱をもたらす可能性がある、と批判しています。
環球時報は日本はアメリカに従属する存在だと馬鹿にしていますけれども、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、日本が打ち出した戦略であり、クワッドは、アメリカがそれに乗っかることで成立したのです。環球時報はわざとなのか、それを無視している。
ただ、中国が、日本をアメリカの"下僕"だとしつこく言い募るのは、日本は自分の意志で反中になった訳ではなく、アメリカに圧力を掛けられたからだと規定することで、日本を自分の側に取り込む"余地"を残したいからだとも言えなくもありません。
その意味では、今回の共同声明を受けて、中国が口でどう反発するのかと具体的にどういった報復行動にでるのかの二つを見極めた方がよい気もします。
いずれにせよ、今回の共同声明を切っ掛けに世界情勢は大きく動き出しそうです。
この記事へのコメント