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1.岸防衛相の与那国島視察
4月17日、岸防衛相は沖縄県の与那国島を視察しました。
与那国島は、日本最西端の島で台湾から約110キロ、尖閣諸島から約150キロに位置し、沿岸監視隊など約160人が任務にあたっています。
岸防衛相は駐屯地を訪れ、隊員らおよそ50人を前に訓示し、「中国が南西海空域での活動を活発化、拡大化させている。海警局の船舶を尖閣諸島周辺のわが国領海へ頻繁に侵入させ、空軍の活動範囲は東シナ海のみならず太平洋や日本海にも拡大している……我が国の最も台湾に近い島でありますが、台湾を巡る情勢については、南西地域を含む我が国の安全保障にとってもとより、国際社会の安定にとってもこの台湾の安定というものが重要であります」と述べました。
そして、国境付近で任務にあたる隊員の活動が、重要な抑止力となっていると激励し、引き続き、警戒監視に万全を期すよう指示しました。
岸防衛相は視察後、記者団に対し「与那国駐屯地は南西地域の防衛上、極めて重要な施設だ。24時間365日、一瞬の隙もなく常に緊張を強いられるが、隊員1人1人が、国の安全を守るという崇高な任務を引き続きしっかり果たして欲しい……台湾は与那国のすぐ対岸に位置する。台湾を巡る問題は、当事者間の直接の対話によって平和的に解決されることを期待する」と防衛省として引き続き注視していく考えを示しています。
訪米した菅総理が日米首脳会談を行い、共同声明が出るタイミングで岸防衛相が、与那国島を視察する。完全に示し合わせた動きです。
更に、岸防衛相の「台湾を巡る問題は、当事者間の直接の対話によって平和的に解決されることを期待する」というコメントは、共同声明の「両岸問題の平和的解決を促す」とも一致していることを考えると、共同声明の中味についても予め知らされていた可能性もあります。
2.いずれにしてもこれからが大変だ
共同声明の「両岸問題の平和的解決を促す」という文言について、筆者は昨日のエントリーで「日米両国が台湾に直接介入するともしないとも解釈でき、どう捉えるかは微妙なところだ」と述べましたけれども、この表現は台湾問題に触れる場合の定型の政府見解となっているようで、外務省幹部によると「この表現を後ろに付けることで、これまでの日本政府の姿勢と変わっていないというメッセージになる」と述べています。
この文言は、先月行われた日米の外務・防衛閣僚協議にはなかったもので、今回、日本側からの要請で共同声明に付け加えられたそうですから、そういう狙いがあったということです。
それでも、外務省幹部は「いずれにしてもこれからが大変だ。台湾有事の際に日本や自衛隊がどう動くのか、具体的に検討しなければいけない」と指摘しています。
筆者は3月30日のエントリー「日米は中国との戦争に備えよ」で、日本もアメリカも台湾有事のプランを持っていないという指摘があることを紹介したことがありますけれども、どうやら本当のことだったようです。
3.自衛隊の出動には国会の承認が必要
有事の際、最前線に立つことになる自衛隊は着々と準備を進めています。
陸上自衛隊は今年9月から11月にかけて、およそ14万人いる全ての隊員が参加する過去最大規模の演習を行う計画をしています。これだけの規模で演習を行うのはおよそ30年ぶりとのこと。
北海道と東北、四国から「師団」および「旅団」規模の3部隊を九州に展開する予定で、全国の部隊が参加し、隊員だけでなく戦車や食料も船や航空機を使って運ぶ計画としています。
陸上自衛隊は、今回の演習で南西地域を防衛するため部隊の展開や後方支援にどのような課題があるのかを検証し、実際の部隊の派遣に備えた計画づくりにいかすとしていますけれども、今回の共同声明を受けて、南西地域の防衛のみならず、台湾海峡の安全確保も視野に入れているのではないかと思われます。
では、実際、台湾有事が起こった際、自衛隊はどう動くのか。
まず、アメリカ軍は台湾防衛のために反撃することになると思われますけれども、日本に対して想定されるのは、安保関連法の一つである重要影響事態法に基づき、自衛隊がアメリカ軍に対して行う燃料補給などの後方支援活動です。
そのためには、台湾有事が「放置すれば日本への直接の武力攻撃に至るおそれがある」など、日本の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」に該当すると認定する必要があります。
また、在日米軍基地を含む日本への武力攻撃が発生したか、発生する「明白な危険が切迫している」場合でも、政府が「武力攻撃事態」に認定しなければ、個別的自衛権に基づく武力行使が出来ません。
更に、状況が悪化して「日本の存立が脅かされ、国民の生命や権利が根底から覆される明白な危険がある場合」には「存立危機事態」と認定した上で集団的自衛権に基づく武力による反撃が可能となります。
いずれの場合も自衛隊の出動には、国会の承認が必要で、そうした事態にこれら承認がスムーズに行われるのかといった課題があります。
4.憲法九条の自縄自縛を解け
今回の共同声明で、日米は協力して台湾海峡の平和と安定に寄与することを宣言しましたけれども、肝心なことはそれを実現できるだけの能力があるかどうかです。
アメリカ国防総省は近年、アメリカ軍と中国軍に分かれてコンピューター上で様々な「仮想戦争」をする図上演習を実施しています。
アメリカ軍幹部や元米高官の話では、台湾海峡をめぐる図上演習ではここ数年、アメリカ軍チームがほぼ決まって中国軍チームに惨敗。しかも18年ごろから、負け方はより酷くなっているのだそうです。
日本でも安倍前政権では、複数の図上演習が密かに行われていたのだそうです。これは様々な日本周辺有事を想定したものなのですけれども、その結果は、インド太平洋のアメリカ軍と自衛隊を合わせても中国軍に劣勢を強いられかねないというもので、日本政府内に衝撃が広がったと伝えられています。
これについて、トランプ前政権でアメリカ国防戦略の策定にあたったエルブリッジ・コルビー元国防副次官補は「世界レベルでアメリカ軍が中国軍より強いとはいえ、状況は非常に深刻だ。中国はアメリカ軍が戦力を移動させる前に、紛争を決着させることを目指しているからだ。日本の対応も十分ではない。直接、影響を受ける日本は、もっと真剣に現状を受けとめるべきだ」と述べています。
更にコルビー元国防副次官補は、台湾有事について時事通信のインタビューでも、台湾有事は日本の主権に直結する問題だと答えています。次にインタビュー内容を引用します。
―なぜ最近、台湾問題が日米の中心課題になってきたのか。インタビューで、アメリカ・インド太平洋軍が地上発射型ミサイルの配備を検討している点について質問されていますけれども、これは、中国が地上配備型の中距離ミサイルを2000発近く持っているのに対し、自衛隊やアメリカ・インド太平洋軍が地上発射型ミサイルを一発も持っていないという事実を受けてのものだと思われます。
中国軍の力は右肩上がりで増強を続け、台湾だけでなく近い将来には西太平洋全域で作戦遂行能力を得ようとしている。台湾を筆頭に衝突のリスクがあり、それを防ぐために18年国防戦略で指摘したように米軍の前方展開が必須だ。だがわれわれの取り組みは、事態の深刻さに追い付いていない。バイデン大統領がその切迫した状況を菅義偉首相にきちんと伝えないのではないかと懸念している。
―対中抑止で日本は何を期待されているのか。
これは米国の問題ではなく、日本の主権と独立に直結する問題だ。中国がアジアで覇権を築けば、最も力を失うのは日本だ。日本が防衛予算を国内総生産(GDP)の1%程度にとどめるのは、戦後最大の安全の脅威に立ち向かう方法ではなく、2%が最低限必要だ。バイデン政権は負担を分かち合うことへの日本への圧力を解き過ぎてはならない。中国軍がやっていることのスケールについて日米で共通認識が必要だ。
―台湾有事のリスクをどう認識しているか。
中国にとって最良の戦略は既成事実化で、その最高の標的となるのは台湾だ。米国にとっては一度取られたものを取り返すのは困難で、放棄する可能性がある。中国は日本やフィリピンに対し、併合しようとしないまでも従属的な状況を迫るだろう。台湾を取られる前に中国に思いとどまらせなければならない。
―米インド太平洋軍が配備を検討する地上発射型ミサイルの受け入れ先は。
(沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ)第1列島線への配備が検討されているが、台湾は政治的に難しい。消去法で言って日本とフィリピンはどちらも必要になるだろう。
―台湾有事の協力は日本にはハードルが高い。
重要なのは、日米でより声を上げ、準備することだ。米国と日本、両方と戦わなければならないと知れば、中国はより手ごわいと感じるだろう。平和は戦争の準備によってもたらされる。誰も中東で戦争を一緒にやってくれとは言っていない。政治的難しさは理解するが、対応の遅れは取り返しがつかない。
コルビー元国防副次官補は、日本の防衛費もGDP1%では足らず、最低2%は必要だと主張していますけれども、これはNATO加盟国が目指しているものと同水準です。
NATOは国防費支出を2024年までにGDPの2%以上に増やす目標を掲げ、20年度は全30加盟国中11ヶ国で達成しています。
日本も同程度以上の対応は必須だと思いますし、憲法9条の自縄自縛を解かなければならないのではないかと思いますね。
この記事へのコメント
Naga