

1.日本の報道の自由度は世界67位
4月20日、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は2021年の世界各国の報道自由度ランキングを発表しました。
対象180ヶ国・地域のうち、日本は昨年から一つ順位を下げて67位でした。
報告では、「新首相就任によっても、ナショナリストの右派が記者に対する不信をかき立てている状況に変化はなく、依然、自己検閲が続いている」と批判しています。
1位は5年連続でノルウェー。2位以下はフィンランド、スウェーデン、デンマークと続き、4位までを北欧諸国が占めました。アメリカは44位で、日本は42位の韓国、43位の台湾を下回り、主要7ヶ国(G7)の中で最下位。中国は昨年と同じ177位でした。
また、クーデターで国軍が権力を握り、批判的なメディアの免許が取り消されているミャンマーは140位で、治安部隊による大規模な拘束を逃れるため、事実を伝えようとする記者が隠れて働くことを強いられていると指摘しています。
2.国境なき記者団の世界報道自由度ランキング
「国境なき記者団(Reporters Without Borders)」は、世界の報道の自由や言論の自由を守るために、1985年にパリで設立された世界のジャーナリストによるNGOです。
活動の中心は、世界各国の報道機関の活動と政府による規制の状況を監視することですけれども、その他にも、世界で拘束された記者の解放や保護を求める運動や、戦場や紛争地帯で危険に晒された記者を守る活動など、幅広い活動が展開されています。
世界各国の報道自由度ランキングは、世界各国の報道機関と政府の関係についての監視と調査の結果をまとめた年次報告書で、2002年から開始されました。
その評価方法は、国境なき記者団が選んだ180の国と地域のメディア専門家、弁護士、社会学者などに行う87の質問から構成されているアンケート結果と、130ヶ国の特派員が評価した「ジャーナリストに対する暴力の威嚇・行使」のデータを組み合わせたものを、独自の評価基準と数式に当てはめ、評価値として算出します。
アンケートの各質問は、次の6つの指標とジャーナリストやメディアに対する暴力の7番目の指標に基づき計算されます。
1 /多元論:メディア空間における意見の表現の程度を測定指標をみれば分かるとおり、その国のメディアの独立性が高く、多様性、透明性が確保されていて、インフラが整備され、法規制や自主規制などの規制が少ないほど、メディア報道の自由度が高いと判定されるようになっています。
2 /メディアの独立性:政治的、政府的、経済的、宗教的権力から独立して機能するメディアの能力を測定
3 /環境と自己検閲:情報活動を実施するための条件を分析
4 /法的枠組み:情報活動を管理する法的枠組みのパフォーマンスを測定
5 /透明度:情報の生成に影響を与える制度と手順の透明性を測定します
6 /インフラストラクチャ:情報の生成をサポートするインフラストラクチャの品質を測定
7 /虐待:期間中の暴力の強さを測定
アンケートについては、その設問内容が公開されており、設問のみざっと抽出すると次のようになっています。(機械翻訳による)
B1:国名を入力してください
B2:独立した民間メディアの設立を妨げる要因は何ですか?
B3:以下の制約条件のもとでは、独立した民間メディアを立ち上げることは難しいと思いますか?
B4:オーディオビジュアル・ライセンスの割り当ては透明性があるか?
B5:以下の人事について、政治権力の干渉の度合いはどの程度ですか?
B6:当局が解雇を要求するのは、どのくらい簡単なことなのでしょうか?
B7:民間メディアの経済的な依存度はどの程度ですか?
B7b:民間のメディアは、国からの補助金の見返りとして、コンテンツを変えなければならないのでしょうか?
B8:国は広告を様なメディアに公平に配分しているか?
B9:政治権力が広告主に圧力をかけて、特定のメディアを優遇することはありますか?
B10:当局は、特定のメディアを優遇しているか(記者会見、インタビューなど)。
C1:ジャーナリズム研修の提供は、ジャーナリズムの専門的な実践を可能にしていますか?
C2:ジャーナリズムの継続教育の提供はニーズに合っているか?
C3:ジャーナリズムの実践は、以下の基準で禁止または防止されていますか?
C4:以下のグルプは、どの程度、メディア関連のあらゆる職業に就くことができますか?
C5:国民が話す言語の多様性を、メディアはどのように反映していますか?
C6:プロのジャーナリストとしての地位を認定するための手続きは、以下のようにオープンで透明性のあるものですか?
C7:国内での活動を希望する外国人ジャーナリストの認定手続きは、公正かつ透明ですか?
C8:ジャーナリストは、取材したいイベントに物理的に参加できますか?
C9:地域の一つまたは複数のエリアへのアクセスまたはカバに制限があるか
C10:過去12ヶ月間に、ジャーナリストに対して以下のような行為が行われたと思いますか?
C11:ジャーナリストの中には、豪華な招待状や取材旅行への参加などを楽しむ人もいます。ジャーナリストの中には、豪華な招待状や記者旅行への参加など、出版物の客観性を損なうような副次的な利益を享受している人もいるのではないでしょうか?
C12:そのような行為を禁止する法律はありますか?
C13:ジャーナリストが、通常の雇用主以外から、以下のような目的で報酬を得たことはありますか?
C14:メディア関係者に結社の自由は保障されていますか?
D1:独立したメディア、つまり編集部が完全に自由であるメディアはありますか?
D2:国民の意見の多元性がメディアに反映されているか?
D3:公共メディアはすべての政治的傾向に発言権を与えていますか?
D4:調査報道は、最も関連性のある暴露を広めるために十分に発達しているか?
D5:ジャーナリストは当局から監視されたり、脅かされたりしていますか?
D6:全体的に見て、メディアは...についての暴露をする自由がありますか?
D7:ジャーナリストは、次のような報復を恐れて自己検閲を行っていますか?
D8:メディア所有者の利益相反は、メディアの自己検閲の原因となることが多いのではないでしょうか。
D9:視聴覚チャンネルには、どの程度、独立した重要な情報が流れているか。最も多くの視聴者を獲得している視聴覚チャンネルにおいて、独立した重要な情報はどの程度提供されているか?
D10:国有メディアが国家の機密情報を報道しないことがありますか?
D11:メディアの所有権はどの程度集中していますか?
D12:主要なニュースメディアのうち、どれだけが以下の分野に関心を持つグループによって所有されているか。
D13:選挙期間中、メディアにおける公平性を尊重した発言時間の配分はどの程度行われているか?
D14:選挙期間以外では、国はメディアに発言時間を与えることを強制していますか?
D15:国の管理や監督がなくても、市民がジャーナリストと直接対話できること。
D16:当局は、以下のメディアの報道現場にどの程度の影響力を持っていますか?
D17:以下のメディアの報道現場において、経済力はどの程度の影響力を持っていますか?
D18:メディアに協力している広告主は、どの程度、編集方針に影響を与えることができますか?
E1:情報を提供する自由、情報を与えられる自由、自由に意見を述べる自由は保証されていますか...。
E1_1:実際には、これらの保証は尊重されていますか?
E2:公共情報へのアクセスに関する法律はありますか?
E5:事前の検閲やアプリオリなコントロールがあるかどうか...事前の検閲やアプリオリなコントロールはあるか
E6:法律、憲法、またはそれらの適用は、公共の利益に関わる事項の開示を妨げますか?
E7:ジャーナリズムの情報源の秘密を守るための法的な工夫はありますか?
E8:実際のところ、ジャーナリズムの情報源の秘密がどのくらい脅かされているのでしょうか?
E9:サイバー犯罪を取り締まる法律は、インタネット上で情報を伝えたり、伝えられたりする自由を妨げますか?
E12:ニュース制作者の出版物を理由にした訴訟は、...に該当しますか?
E13:過去12ヶ月間にニュース制作者に課された制裁措置は何ですか?
E15: ジャーナリストが逮捕された場合、ジャーナリストは自分に対する容疑を知らされ、また、ジャーナリストは自分に対する容疑を知ることができますか?
E16:「神への冒涜」や「死の灰」のような意見犯罪はありますか?
E161:実際に、これらの違反や犯罪で有罪判決を受けたことはありますか?
E17:名誉毀損に関する法律は公共の場での議論を妨げないか?
E18:市民が自分について公表された情報に反応する法的権利はありますか?
E20:過去12ヶ月間に起きた、ジャーナリスト/ネット市民/ブロガーの殺害事件について、以下のようにお考えですか?
F1:ニュースサイトの開設には公的な許可が必要なのでしょうか?
F2:情報を発信しようとする個人が、十分な品質のインターネット・アクセスを持っているか?
F3:印刷メディアには、適切で安価な印刷・配信設備がありますか?
F4:以下のサービスへのアクセスを開発するための地方自治体や国の当局の政治的意志をどのように評価しますか?
F5:インターネット上の情報コンテンツに対して、当局はどの程度のフィルタリングを行っていますか?
F51:最もフィルタリングが行われているテマは何ですか?
F52:当局は、フィルタリングを回避するためにリソースをフィルタリングしていますか?
F7:一般的なニュースや政治的な内容をソーシャルネットワーク上に投稿した場合、その投稿者は、自分が投稿した内容についての責任を負うことができますか?
F8:独立した情報を発信するインターネット・ユーザを国家が監視していますか?
F9:国家は、独立した情報を閲覧するインターネットユーザも監視していますか?
F10:インターネットユーザが、自分の身に危険が及ぶような内容を投稿した場合、罰せられることはあるのでしょうか?
F11:同じセンシティブなコンテンツを見ただけのインターネットユーザも制裁を受けるのですか?
3.報道の自由は2014年に大幅に低下
これまでの世界報道自由度ランキングの傾向を見ると、先にも紹介したとおり、北欧諸国の報道がランキングの上位を占め、アメリカやイギリス、フランスといった先進国は、その時代情勢によって中間よりやや上位を推移しています。
一方、中国や北朝鮮、ベトナム、キューバといった社会主義諸国のランキングは常に最下位レベルで、国家体制や国内政治の情勢にメディアは影響を受け、それに伴って報道の自由度が決まるという構造となっています。
例えば、2015年版の報告では、前年の2014年に確認された報道の自由に対する侵害は3719件で、前年比8%増で、その一因は「イスラム国」や「ボコ・ハラム」といった過激派組織の活動にあると報告しています。
報告書は、中東やウクライナでは、メディア関係者は殺害・拘束の直接の標的となっているほか、プロパガンダ活動に協力する圧力をかけられており、また、シリアとイラクで活動するイスラム国やナイジェリア北部と隣国カメルーンで襲撃を繰り返しているボコ・ハラム、イタリアや南米を拠点とする犯罪組織が、脅しと報復を手段とし、勇敢に調査に乗り出したり犯罪組織の宣伝活動に利用されることを拒否したりするジャーナリストやブロガーたちの口を封じていると述べています。
これについて、「国境なき記者団(RSF)」のクリストフ・ドロワール事務局長は、当時「非常にさまざまな複数の要因によって、全体的に低下した。情報戦争や、非国家主体による専制君主的な報道統制などが挙げられる」とコメントしています。
更に、報告書では宗教を掲げた過激派が神や預言者への敬意が足りないと一方的に断定したジャーナリストやブロガーを標的にする事例を挙げ、「神への冒涜を犯罪とみなすことは、世界の半数近い国において情報の自由を危険にさらす」と訴えています。
4.日本の報道の自由度はなぜ後退したのか?
翻って日本を見てみると、日本のランキングは2002年から2008年までの間、20位代から50位代あたりだったのが、民主党政権が誕生した2009年から17位、11位とランキングを上げ、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の発生の後、2012年のランキングでは22位に下落、2013年には53位、2014年には59位と下落。以降は60位代から70位代をうろちょろしています。
このランキング後退現象について、日本大学大学院新聞学研究科教授の福田充氏は、次の2つの理由を挙げています。
・東日本大震災によって発生した福島第一原発事故に関する電力会社や「原子力ムラ」によって形成されたメディア体制の閉鎖性と、記者クラブによるフリーランス記者や外国メディアの排除の構造の問題前者は、大震災や原発事故などの危機が発生したときにも、その情報源が政府に集中することにより、政府が記者会見で発表した情報をそのまま鵜呑みにして報道する「発表ジャーナリズム」や、戦場や被災地など危険な地域に自社の社員を派遣できないという状況から、フリー・ジャーナリストに取材を依存する「コンプライアンス・ジャーナリズム」といった構造的問題を指しています。
・特定秘密保護法の成立により、戦争やテロリズムに関する特定秘密の存在が自由な報道の妨げになる
後者については説明の必要はないでしょう。
それ以外には、今年の報告にある「新しい首相が誕生しても、国粋主義的な右派の記者不信の風潮は変わらず、メディアに依然として存在する自己検閲にも終止符が打たれていない」こともランキングが中位の辺りに留まっている理由に挙げられるかもしれません。
5.中国が撒いた検閲ウイルス
報道では、日本の報道の自由ランキングがG7で最低だとか、いかにも遅れているかのように報じていますけれども、報告書の該当部分は、地域分析「アジア太平洋地域」の中のほんの数行にしか過ぎません。(Au Japon (67e, -1), l’arrivée au pouvoir d’un nouveau Premier ministre n’a pas changé le climat de défiance qu’entretient la droite nationaliste contre les reporters ni mis fin à l’autocensure, toujours très présente dans les médias.)
この地域分析でもっとも多くの文字が割かれているのは、もちろん中国です。
中国については次のように分析されています。
中国(177位)で発生してから世界に広がったコロナウイルスのように、北京が誰もが認める世界的な専門家である検閲のウイルスは、壊疽のようにこの地域で広がり、アジアとオセアニアの大部分を少しずつ制圧することになったのである。まず香港(80位)だが、2020年6月に北京が施行した国家安全保障法のおかげで、中国政権が半自治区である「特別行政区」に直接干渉できるようになり、ジャーナリズムの行使が著しく脅かされている。ジャーナリストへの弾圧のみならず、ネットの検閲やネット荒らし、いわゆる"五毛党"を使って国家のプロパガンダを中国内外に広めるという中国共産党政府のやり方をウイルスに喩え、そのウイルスがアジアとオセアニアの大部分を少しずつ制圧していると指摘しています。その通りです。
中国(177位)検閲の魔の手が迫る
2013年に政権を握って以来、習近平国家主席は、インターネット上での検閲、監視、プロパガンダをかつてないレベルにまで高めている。習近平の直轄組織である中国のサイバー空間管理局は、国内の9億8900万人のインターネットユーザーを直接ターゲットにした様々な施策を展開している。政権は、新技術の大規模な使用と、検閲者や"荒らし"の軍隊を頼りに、情報の流れをコントロールし、インターネットユーザーを監視・検閲し、国家のプロパガンダをオンラインで広めている。国境の外では、政権はその支配力を拡大し、「イデオロギー的に正しい」語彙を押し付け、誤ったジャーナリズムの概念を広め、それは国家のプロパガンダに等しい。さらに北京は、Covid-19の流行を機に、インターネット上の情報統制をさらに強化している。
翻って、日本に対する「右派ナショナリストが記者に対する不信をかき立て、メディアに自己検閲させている」という指摘は、つまるところ、中国に忖度する報道に対する不信であり、見方を変えれば、中国共産党政府がアジアとオセアニアの大部分に拡げた「検閲のウイルス」に対する抵抗だということも出来ると思います。
メディアが自己検閲しているのは、何も日本政府がメディアを弾圧しているからではありません。中国政府のプロパガンダに民間が抗議の声を上げ、ネット上で抵抗・撃退した結果、メディアが勝手に自己検閲しているだけのことであり、彼らが報道の自由を行使した結果ではないかと思います。
したがって、メディアに自己検閲させていることが、報道の自由の順位を落としているのだと言われても、それほど目くじらを立てる程のことでもないように思いますね。
この記事へのコメント
弓取り
関係者への簡単なアンケート形式では、報道関係者の情緒的な自己申告でしかありません。定性的にも定量的にもならないでしょう。
要は、関係者による関係者のためのランキングですね。一般の情報受信者のためのものではない。
この結果を根拠に、日本のマスゴミ関係者が日本の視聴者を味方につけて根底に好悪感情を隠しながら日本政府を攻撃しようとするいやらしさは唾棄すべき嫌らしさがあります。マッチポンプですから。
だいたい、日本のマスゴミのフェイクとデマと印象操作、および訂正をしない無責任な姿勢は、ジャーナリズム失格でしょう。
マスゴミの低レベルでいびつな「自由度」を再認識いたしました。