

1.欧州連合がアストラゼネカを提訴
4月26日、欧州連合(EU)の欧州委員会は武漢ウイルスのワクチンが契約通りに供給されていないとして、イギリスのアストラゼネカ社を提訴したことを明らかにしました。
欧州委員会の報道官は記者会見で、EUとアストラゼネカ社が結んだ事前購入契約に違反したためとし、「いくつかの契約条項が守られなかった」と法的措置をとった述べ、EUの27のすべての加盟国がこの措置を支持していると説明しました。
欧州委員会はアストラゼネカ社と最大4億回分のワクチンを購入する契約を結んでいるのですけれども、4~6月期は1億8千万回の供給予定が7千万回になる見通しで、これを欧州委員会は契約違反と主張しているのですね。
対するアストラゼネカ社は供給は努力義務だとして「訴訟には利点がないと考えており、この紛争を早期に解決する機会を歓迎する」と欧州委員会の決定は遺憾と述べ、法廷で自らの立場を主張すると発表しました。
2.ワクチン接種が遅れる日本
ワクチンの供給と接種が遅れているのはEUだけではありません。日本はもっと遅れています。
各国の人口100人あたりのワクチン接種回数は、4月27日段階で日本は2.15回とトップのイスラエルの120.17回に遠く及ばないばかりか、OECD諸国31ヶ国中最下位です。
けれども、これについて、経済学者で嘉悦大教授の高橋洋一氏は、更にデータを分析し、ワクチン接種回数と感染者数との間に深い関係があることがわかったとしています。
高橋氏はデータ入手可能な84ヶ国のこれまでのワクチン接種回数とこれまでの感染者数を分析した結果、感染者が多い国ほどワクチン接種も多く、その相関係数は0.73もあると述べています。
高橋氏は、ワクチン供給に制約がある中では、武漢ウイルスが蔓延している国ほどワクチンはより多く供給されねばならず、感染が酷くないのに、カネにものを言わせて、ワクチンを大量にかき集めたら、世界中から批判されると指摘しています。ごもっともです。
そこで高橋氏は、実際のワクチン接種状況と平均的なワクチン供給の差を見て、プラスならばワクチン接種が多い国、マイナスならばワクチン接種の少ない国と見做して計算したところ、イスラエルは81であったのに対し、日本はゼロになったのだそうです。
この補正した値で見直してみると、日本は、世界84ヶ国虫45位、OECD諸国31ヶ国では19位となり、「先進国では真ん中の少し下、世界ではほぼ真ん中」であるとして、オリンピック中止という議論にはならないと述べています。
3.接種率と武漢ウイルス新規感染者の関係
高橋氏によれば、感染状況による補正を掛ければ、日本は世界の平均くらいのワクチン接種になるということですけれども、これは裏を返せば、そもそも補正がかかるほど、世界各国での蔓延状況に差があるということです。
成人の6割が1回目のワクチン接種を済ませたイギリスでは、感染者数が激減。ロックダウンも一部緩和され、日常を取り戻しつつあると報じられていますけれども、人口当たりの感染者数は今の日本と同程度に過ぎません。
世界レベルでは日本は既に過半数の国民がワクチン接種したレベルにあるということです。
こちらの札幌医科大学附属フロンティア医学研究所のサイトに、各国でのワクチン接種率と人口あたりの新型コロナウイルス新規感染者数の推移という興味深いデータがあります。
特にイスラエルとイギリスで顕著なのですけれどワクチン接種が45%乃至55%を超えたあたりから急激に新規感染者が減っています。これはいうまでもなくワクチンの効果と思われますけれども、このデータは、いわゆる集団免疫がどの程度から効き始めるのかを示しているとも言えます。
つまり、武漢ウイルスについては、国民の5割程度以上が免疫を持てば集団免疫が成立する可能性があるということです。
そして、この集団免疫が成立した可能性が高いと思われるイギリスやイスラエルの人口当たりの新規感染者数と日本のそれは同程度です。
日本は他国のように厳しいロックダウンをしている訳でもなく、ワクチン接種率も全然です。にも拘わらず、ワクチン接種を進めたイギリスやイスラエル並みに新規感染者が少ない。
今の日本で行われている中途半端な自粛や個々人のマスク、手洗いだけでここまで効果があるとはちょっと考えにくいのではないかという気がしてなりません
4.BCGという集団免疫
筆者は、昨年3月29日のエントリー「BCGは武漢ウイルスのワクチンとなるか」で、BCGワクチンが武漢ウイルスに効果があるかもしれないという説を取り上げたことがありますけれども、BCGの接種効果についてはやはり指摘されています。
例えば、ギリシャのアッティコン大学病院などは、高齢者198人を対象に、BCG接種による武漢ウイルスに対する保護効果を調べる臨床試験を行っています。
試験では、BCGワクチンの接種により、自然免疫を獲得して抗炎症性のサイトカイン産生が増加する傾向がみられ、その結果、BCGには最初の感染までの時間と新規の感染の発生を減少させ、ウイルス性気道感染症に対する強力な保護効果があると報告しています。
研究者らは「COVID-19を含む呼吸器感染症に対するBCGの保護効果を評価するには、より大規模な研究が必要」としながらも、「BCGワクチン接種は、高齢者に対して安全である可能性があり、感染症から保護する作用を期待できる」とコメントしています。
また、元東京都臨床医学総合研究所副所長の矢原一郎氏は、BCGワクチンの免疫増強効果として、結核菌だけでなく他の感染菌にも抵抗性が生じ、更に多種類のウィルス感染に対する予防効果があることや、呼吸器系のウィルス感染の予防を防ぐという研究結果を取り上げ、BCGは武漢ウイルスの予防にも有効であると期待されると述べています。
いずれ日本もワクチン接種が進むと思いますけれども、もし日本人の過半数がワクチン接種したとして、それでもなお新規感染者数が今程度にとどまって、ワクチンを打っても打たなくても別に変らなかったなんていうことになれば、ワクチン以前にBCGによって強化された自然免疫によって既に、日本は対コロナ集団免疫を形成していたというオチで終わるのかもしれません。そう願いたいですね。
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