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1.延期となった日米首脳会談
4月2日、政府は、菅総理とアメリカのバイデン大統領による初の対面の首脳会談をワシントンで現地時間16日に行うと発表しました。
当初、会談は9日の予定とされていたのが直前になっての延期なのですけれども、政府関係者によると、アメリカ側が総理一行を迎える準備に時間が掛かっているのが延期の理由ということのようです。
菅総理は15~18日の日程で訪米する方向で、ワシントン近郊のアーリントン国立墓地を訪れて献花。正式な会談とは別にバイデン氏と食事を共にしながら話し合う機会を持つ方向で調整しているとのことです。
延期の理由について、ある政府高官は「会談の中身に問題があるのではなく、日程的な問題だ」と、影響はないとしていますけれども、体面は良くないことは間違いありません。
それだけに訪米の成果を内外にアピールする必要があるとの思いは従来に増して強く、首脳会談では日米同盟の深化を再確認。沖縄県・尖閣諸島防衛や北朝鮮の非核化、経済安全保障の推進に触れた共同文書の発表も予定していると伝えられています。
もしもバイデン側が、日本により高い要求を飲ませようとわざと焦らして、"チップを上乗せ"するような高等戦術を使ったとも思えませんけれども、結果として、菅総理には高くつく訪米になるかもしれません。事実、政府関係者によるとアメリカはより強い態度表明を日本に求めてきているようです。
無論、チップが上乗せされることがあるかどうかは分かりませんけれども、共同文書の文言が更に変わる可能性は否定できません。
2.近づく存立危機事態
目下のところ、一番有事を危ぶまれているのは台湾でしょう。先の日米安全保障協議委員会(2+2)でも、日米両政府が「台湾海峡の平和と安定の重要性」について認識を共有しています。
台湾海峡含む海域を担当する米海軍は、横須賀基地に拠点を置く第7艦隊です。既に第7艦隊は「航行の自由作戦」に基づいて、昨年13回も台湾海峡を通過しています。これは、2016年以来最多のことで、今年も既に3回通過しています。
台湾海峡またはバシー海峡は資源の大半を輸入に頼る日本にとって重要なシーレーンになります。
政府筋は「台湾海峡の緊迫の度合いにより、どのようなアメリカ軍の行動が想定され、支援が可能かアメリカ側と詰める必要がある」と話しているそうですけれども、今頃こんなことをいっているのが実態です。
防衛省関係者によると、シーレーン防衛で警戒中のアメリカ艦船が攻撃されれば、日本の存立が脅かされる安保法の「存立危機事態」に認定される可能性があるとのことですけれども、本来は自衛隊の艦船も守るべきところです。いくら憲法が許していないからといっても、憲法自体が時代遅れになっていることは明白ですし、金科玉条の如く一字一句変えずに守り続けるものさすがに無理があるというものです。
台湾有事にアメリカが介入することがあるとすれば、在日米軍基地は当然ながら最重要拠点となりますし、当然中国も狙ってくることは目に見えています。
やはり、台湾有事を想定した準備を整える必要があると思います。
3.アメリカの台湾政策を支持することで確実に失うものがある
一方、中国は日米連携と介入を嫌がっています。
3月30日、環球時報は「Japan stands to surely lose by supporting US’ Taiwan stance(日本はアメリカの台湾政策を支持することで確実に失うものがある)」という社説を掲載し、「台湾問題での日本の最近の発言は、中国との関係に間違いなく打撃を与えるだろう。もし、菅・バイデン両氏の首脳会談後の共同声明に台湾に関する条項が盛り込まれれば、その打撃は甚大なものになるだろう。日本が台湾問題で中国の国益を損なうような実質的な動きをすれば、中国はそれに対して対抗措置をとるだろう」と牽制しました。
この記事では具体的にどんな報復をするのかを述べてはいないのですけれども、どうも日本に対中制裁措置など本気で取って欲しくない、あるいは取れないだろうと考えている節があるように感じます。
同日、環球時報は「Japan 'unlikely to join Western sanctions' on China's Xinjiang despite increasing peer pressure(同調圧力が強まっているにもかかわらず、日本は中国の新疆に対する欧米の制裁に参加しそうにない)」という社説を掲載しています。
この社説では、日本での新疆に関するほとんどのメディアの報道や政治家のコメントは、一部の反中プロパガンダ勢力や海外の新疆分離主義者グループが作り上げた同様の情報源を利用しているため、アメリカやヨーロッパのそれと似ており、それゆえ日本の政府やメディアの政治的スタンスは、欧米諸国と似たようなものになるだろうと分析した上で、北東アジア戦略研究所主任専門家であるDa Zhigang氏の「菅氏が就任した後、日本と中国の関係は、長年にわたる釣魚島の紛争や米国からの妨害により、ますます問題となった。深刻な疫病の状況と東京オリンピック開催のプレッシャーの中で、菅氏は、日本が関心を持たない新疆の問題だけを理由に、中国との大規模な争いを再び起こすことを望まないだろう」とのコメントを紹介しています。
日本人は新疆の問題に興味など持たないから、それを理由に日本政府が中国と大きな揉め事は起こすことはないだろうというのですね。
4.日本は積極的な行動は起こさない
台湾有事でも日本は積極的な行動は起こさないだろうという見方は、他のメディアでも似たようなことが主張されています。
3月27日、ドイツ国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは「台湾海峡戦争は想像よりも早い可能性、日本は米国を助けるか」とする記事を掲載し、その中で早稲田大学現代中国研究所顧問の天児慧氏の分析を取り上げています。
天児慧氏は、中国の台湾進攻の戦略として、「台湾政府中枢を速やかに破壊し、指導者層を拘束」、「解放軍を大量に上陸させたのち戒厳令を敷く」、「親中派を支援して新政権樹立の準備を進める」という3つのステップを考えていると分析しています。
そして、台湾が中国本土から侵攻を受けた際、地政学上や安全保障上から日本も座視してはいられなくなり、日米安保を理由にアメリカ軍に対して実質的な支援を行うと予測。中国が第2、第3のステップに入ることにより台湾全土で抵抗が起こった場合、日本はNGOなどの民間団体を投入して、国際世論の支持を得る方策を取る可能性にも言及したようです。
その一方で、日本は、日中関係に配慮して、台湾海峡戦争に積極的な役割を果たす可能性は低く、現状維持を呼びかけ続けることになり、それが台湾と中国本土にとっても良い選択になるとの見方を示しています。
5.口は出しても手は出すな
これらを見ると、中国政府は、日本に対して、新疆の問題などで批判するだけならよいが、具体的な制裁措置や台湾有事の際に積極的にアメリカ軍を支援するなどの行動を採るなというメッセージを送っているように思えます。いわゆる「口は出してもいいが、手は出すな」ということです。
3月30日、公明党の山口代表は記者会見で、新疆ウイグル自治区での人権侵害をめぐり、日本が対中制裁に踏み切る欧米諸国と足並みをそろえるべきかについて「我が国が制裁措置を発動するとすれば、人権侵害を根拠を持って認定できるという基礎がなければ、いたずらに外交問題を招きかねない」と述べています。
ウイグル人への人権侵害問題については、3月24日、与野党の有志議員でつくる「人権外交を超党派で考える議員連盟」が国会内で発起人会を開き、4月初旬に第1回総会を開くことを決めています。「人権外交を超党派で考える議員連盟」は海外での深刻な人権侵害行為に制裁を科すための日本版「マグニツキー法」の議員立法や人権問題をめぐる国会決議などを目指し、全国会議員に参加を呼び掛けるとしています。この日の発起人集会には公明党の議員も発起人として加わる予定だったのですけれども、当日の朝になって不参加を伝えてきたのだそうです。
これらについても、山口代表は「日本にとってはいかがなものか。慎重に検討すべきと考える」と否定的なコメントをしています。まるで、中国からの工作に屈したのかと思わせるような態度です。
ウイグル議連の古谷会長は「公明党が日米会談前に中国のウイグル人弾圧非難決議を承知しない」と語り、他議員は「菅首相の訪米前の非難決議はやめてとばかり。中国の圧力としか思えない」と語ったそうです。
台湾侵略において、他国軍を近づけさせないという中国の「A2/AD戦略」が成功するかどうかは、もっとも近い位置にいる在日米軍の動きを封じられるかどうかに掛かっていることはいうまでもありません。
であれば、最大の後方拠点となる日本には、極力アメリカを支援させないように工作を掛けてくることは当然の選択です。もし、そうして、日本が積極的に台湾有事に介入することもなく、人権問題で中国に制裁しないスタンスを取らせることに成功すれば、万が一、中国自身が窮地に陥ったとしても、日本を窓口として事態打開を図ることだって出来ます。天安門事件後のときと同じです。
中国政府は、そこまで見据えた上で、日本に対して、表では"微妙な"コメントを出し、裏では工作を掛けている、そんな気がしてきます。
いずれにせよ、今後の日米首脳会談と共同声明でいかなるものになるのか。今後の情勢に大きな影響を与えるような気がしますね。
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