トランプの呪縛はアメリカを超大国の座から引きずり下ろす

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。



2021-04-03 070810.jpg


1.トランプの対中強硬政策は正しい


2月8日、アメリカのブリンケン国務長官は、CNNのインタビューで、バイデン大統領の対中政策について尋ねられ「公平的に言うと、トランプ大統領の対中強硬姿勢は正しい。それが正解だ。しかし私の判断では、彼のアプローチは全体的に間違っているが、基本的な原則は正しい……我々は実力で中国と対峙しなければならない。敵対関係にしても、競争関係にしても、また協力関係にしても、それは我々の共通利益のために存在するものであり、我々は実力で対処しなければならない」と答えました。

更に、ブリンケン国務長官は「今後、より強い同盟関係を持たなければならない。我々が世界事務に関わらなくなったとき、中国はそのスペースを埋めるだろう。つまり、新疆ウイグル族の人権や香港の民主主義が侵害されているのを目の当たりにした時、我々は彼らを見捨てるのではなく、自分たちの価値観を守るために立ち上がることを意味する」と説明しました。

また、バイデン政権が中国の人権問題をどのように位置付けているかについては、「バイデン大統領は人権と民主主義をアメリカの外交政策の中心に戻したいと明確に表明している……中国であろうと、また私たちが深刻な懸念を抱いている他の国であろうと、これは最も重要なことになるだろう」と答えています。

そして、今後の具体的な行動について質問されると「我々はこのような深い懸念を持っており、行動は起こすだろう。しかし、我々は他の国や同盟国、パートナーと共に行動する……特にウイグル人への人権侵害や香港の民主主義の侵害など、我々と彼らは共通の懸念を抱いている。英国から中国への主権返還の際、中国側は香港と香港市民の人権に対して約束していた。しかし、これらの約束は果たされていない」とコメントしました。

ブリンケン国務長官の「トランプ前大統領の対中政策は正しい」発言は彼の国務長官指名承認公聴会の時と一致しています。

1月に行われた上院外交委員会の指名承認公聴会で、ブリンケン国務長官は「中国に対して強硬姿勢を取った点では、トランプ大統領は正しかったと考える……トランプが多くの分野で採用した手法には全く同意できないが、原理原則は正しかったし、わが国の外交政策に有益だったと私は思っている」と述べていました。

その上で彼は国務長官に承認された訳ですから、議会もそれを諒としたということです。


2.トランプの呪縛


現在、バイデン政権も中国に対しウイグル人への人権問題で批判を続けていますけれども、バイデン政権はそれについて、当初は独自の判断を下す積りでいたのだそうです。

ところが、バイデン大統領の就任前日の1月19日、当時のポンペオ国務長官が。中国のウイグル人弾圧を「ジェノサイド(集団虐殺)と人道に対する罪」と断言しました。

この発言にバイデン氏の外交チームを支えるジェイク・サリバン大統領補佐官、カート・キャンベル国家安全保障委員会(NSC)インド太平洋調整官、そしてブリンケン国務長官が激怒したと伝えられています。

というのは、このポンペオ発言をすぐにバイデン政権が否定してちゃぶ台返しすれば、中国に対し「弱腰」だと非難されることが目に見えているからです。結局ブリンケン国務長官は、前述した19日の上院公聴会で、ウイグル人迫害のジェノサイド認定に同意。ウイグル自治区での強制労働で作られた物品は輸入すべきでないとの認識も示すことになりました。

こうしたブリンケン国務長官の発言について、あるウォール街の大手投資銀行のロビイストは「どの程度まで人権を重視するつもりかは不明だが、以前より重く見るだろうということは誰の目にも明らかになってきた」と語り、別のロビイストも「他国の政府を『ジェノサイド』で告発した以上、何もしないではいられない。追加の経済制裁を科すのか? それでも中国の報復はないと思うのか? それではトランプ時代と同じではないか?」と語っています。

つまり、ポンペオ発言を撤回しない限り、バイデン政権は「ジェノサイド」という語に縛られてしまうという訳です。いわばトランプの呪縛です。

トランプの呪縛は他にもあります。

武漢ウイルスがどこから来たかという問題についても、ポンペオ氏は退任間際に、武漢ウイルス研究所から流出した可能性に改めて言及し、2019年秋の段階で研究所職員の数名がよく似た症状を示していたと語りました。

トランプ前政権はWHOの中国寄りを批判してWHO脱退を通告していたのですけれども、バイデン大統領は就任後それを直ぐに撤回しトランプとは違うところを見せようとしました。

ところが、WHOは武漢に調査団を派遣したまではよいものの、現地で重要なデータを見させても貰えず、「調査」は終了。報告書ではウイルスが武漢研究所から流出した可能性を否定して、各国から批難を浴びています。

WHOの調査結果について、サリバン大統領補佐官は、バイデン政権がWHOの結論を疑問視しており、感染発生の経緯に関するさらなるデータの提供を中国側に求めるとの声明を出していますけれども、これは逆にトランプ前政権の主張が正しいと認めるも同然です。

ここでもしっかりとトランプの呪縛が掛かっているという訳です。


3.トランプ外交を踏襲するバイデン政権


今のところ、バイデン政権の対中方針はトランプ前政権のそれを踏襲しています。

トランプ前政権が中国製品に課した2500億ドル相当の追加関税もそのまま維持しています。2020年1月にトランプ前政権は中国政府と包括的な貿易協定の第1段階の合意を行いましたけれども、中国が米国産品の輸入を増やすという合意は守られていないため、その見返りであった関税引き下げ又は、撤廃にも踏み出せずにいます。

バイデン政権は中国に合意を遵守させる方法を検討中で、関税の撤廃は議題にも上らないそうです。

また、国防・安全保障政策でも、トランプ前政権の方針を撤回してはいません。

3月14日、ブリンケン国務長官とオースティン国防長官は、ワシントン・ポストに連名で寄稿。その中で「一部の国は国際秩序を脅かそうとしており、特に中国は力を行使して思いどおりにすることを厭わない……中国の攻撃や脅威に対抗しなければならないとき、我々は力を結集することで強くなれる」と中国を最大の脅威と位置付けています。

トランプ前政権は、中国がアメリカを西太平洋から追い出し、南シナ海を実力で支配しようとしている、と見ていましたけれども、バイデン政権もこれを共有しているとされています。

中国軍による台湾侵攻を防ぐためには、この地域に十分な戦力を配置する必要があるのですけれども、トランプ前政権は、アジア太平洋地域に配置する兵力の増員と中国の軍事力に対抗する技術への投資を議会に求めていました。

結局どちらも実現しなかったのですけれども、もしも、バイデン政権が同じことを議会に要求するのであれば、やはりトランプは正しかったと証明することになります。


4.中国百科事典は書き変えられない


3月18日から19日にかけてアラスカで米中外相会談が行われましたけれども、ポンペオ前国務長官の中国政策首席顧問を務めた余茂春(マイルズ・ユー)氏は、台湾通信社「中央社」のインタビューで、会談はそもそもは中国側が米国に開催を懇願したものだと明かしました。

余茂春は「北京の当初の主な目的は、バイデン政権に前トランプ政権の対中政策を全面的に覆すよう働きかけることだった。しかしバイデン政権は新疆、チベット、台湾、香港、貿易、南シナ海などの重要問題において、基本的に前トランプ政権の政策を継続させている。希望が打ち砕かれた北京側は逆ギレし、アラスカ会談を利用して米国を罵倒し、国内での宣伝効果を狙った」と説明しました。

そして、会談に出席した中国の外交担当トップの楊潔篪氏がこれまでの「穏やかで、礼儀正しく、質素な」イメージを一変させて戦狼になったのには、間違いなく習近平氏の指示によるものであるとし、「アラスカで感情を爆発させた中国の言動は、中国の外交の失敗を示した。中共に対して少しでも幻想を抱いていた米国人や各国政府にとっても良い授業となったはずだ」と指摘しています。

余茂春氏については、昨年7月のエントリー「トランプ政権を味方する神速の中国百科事典」で取り上げたことがありますけれども、彼は中国共産党政府の遣り口を熟知した、いわば中国政府にとって「天敵」のような存在です。

余茂春氏は、米中関係の将来について、「アメリカ国民は中国共産党の統治と米中関係の本質について新たな認識を持つようになった。このことはアメリカの外交政策にとっては非常に強力な礎と原動力になるだろう」と述べ、連邦議会でも、過去数年間に可決された対中関連法案が非常に一貫していることから、議会の対中見解は基本的に一致していることがわかると説明した上で「つまり、政党を問わず、また誰が大統領になろうと、皆この現実を尊重せざるを得ない」と指摘しています。

中国が自らの行動を変えない限り、トランプの呪縛によって、アメリカの対中政策は変えられないという訳です。


5.カート・キャンベル


バイデン政権発足にあたり、日本では、バイデン政権の対中政策はかなり甘いものになるのではないかという声が多くみられました。かつてのオバマ政権が対中融和路線であり、現バイデン政権にはオバマ政権で働いていた人達が数多くいるからです。

これについて、慶應義塾大学の中山俊宏教授は、カート・キャンベル元国務次官補が新設されたインド太平洋政策調整官ポストに任命されたあたりで、その雰囲気がリセットされたと述べています。

キャンベル氏のインド太平洋政策調整官就任について、アメリカ戦略国際問題研究所副理事長で、元アメリカNSCアジア部長のマイケル・グリーン氏は、1月13日のフォーリン・ポリシー誌に「バイデンはアジアについて最初の大胆な手を打った。アジアについてカート・キャンベルをバイデンの右腕とした任命は中国に対抗する次期政権の政策を力強いものにする」とする論説を寄せ評価しています。

マイケル・グリーン氏はキャンベル氏の任命について、アジアにおけるバイデン政権の立場を3つの面で強化すると指摘しています。その3つの面とは次の通りです。

第1:キャンベルは中国の力が大きくなる中、中国をけん制する同盟やパートナーシップを構築する戦略の初期の重要な構築者であったと広く認められている。1990年代半ばに、彼は力強い戦略的本能を持つ人としてアジア担当の国防省高官に任命された。2年以内に彼は冷戦後の日米同盟の漂流を止め、日米防衛協力を推進し、米日同盟の拡大を推し進めた。オバマ政権では東アジア・太平洋担当国務次官補として、彼はいわゆるアジアへの軸足移動を主導した。彼は自由で開かれたインド太平洋概念の先駆者との役割を果たした。キャンベルの軸足移動戦略は次期政権と議会両党の指導者のコンセンサスの核心であり続けている。

第2:新しいキャンベルの地位は米国の政策当局の中でのアジアの戦略的重要性を上げるうえで前例のないものである。バイデンのホワイトハウスのアジア部は上級部長3-4人を擁し、欧州部の現在の規模の3倍にもなりそうである。こういう大きな組織再編は色々な影響を及ぼすが、もしうまくやれば大西洋関係の強化にもなりうる。NATOもEUもバイデン政権と中国について一緒に働くことに焦点を合わせている。

第3:キャンベルの起用は中国とアジア戦略についての超党派の取り組みへの重要な賛同を示す。共和党全国委員会は2020年の選挙で、中国についてバイデンを叩くように勧めたが、同盟強化、中国からの重要技術の保護、中国に人権や民主主義で強い圧力を加えることについて、議会や外交政策コミュニティには幅広いコンセンサスがある。キャンベルの存在はアジア政策が今のように超党派である理由の一つである。故マケイン上院議員や他の共和党議員も中国、台湾、日本に関しキャンベルにしばしば助言を求めた。キャンベルは誇り高い民主党員であるが、米国が痛ましいほど分断される中、この任命は超党派性と目的の統一を代表し、重要である。

このようにキャンベル氏の任命によって、アメリカは超党派で中国に対処するのみならず、NATO、EU、アジアと一緒になって中国に対応する姿勢を示したというのですね。


6.円卓会議となる西側社会


先に取り上げた、慶應義塾大学の中山教授は、キャンベル氏が政権入りしたことで日本でも大丈夫だとの反応が目立ったと述べる一方で、キャンベル氏の任命そのものがバイデン政権の対中政策方針を示していると指摘しています。

中山教授によると、バイデン政権の対中戦略は、キャンベル氏が「複数の政権にまたがって遂行されるもの(multi-administration effort)」と述べていることに示唆されるように「長期的な戦略的競争」を前提にしているとし、それは日本にとって厳しいものになるかもしれないと述べています。

中山教授は、バイデン政権が中国との長期的な戦略的競争を想定している一方で、アメリカ国民自身は長期的な対外介入に疲れ切っていると指摘し、そんな中で、中国との「長い戦略的な競争」を続けるためには、これがアメリカのみの戦いではないこと、価値観を共有する国々との共同の取り組みだということをとにかく強調する必要があると述べています。

つまり、対中政策はアメリカが単独で引き受ける責任ではなくて、多くの同盟国やパートナーたちと共にアメリカが参加する取り組みだということを強調することになるというのですね。

まぁ、合理的な考え方かもしれませんけれども、これは同時にアメリカが超大国の座を自ら降り、大国の一つになると宣言することを意味します。その意味では、西側諸国は円卓会議になってしまったと言えるのかもしれません。

トランプ前大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げることで、アメリカが超大国であり続けることを明示しつつ、同盟国やパートナーに応分の負担を求めましたけれども、それとは明確に異なります。

バイデン政権によるアメリカの一大国化、西側諸国の円卓会議化がいいのか悪いのかはまだすぐには分からないかもしれませんけれども、世界の在り方が大きく変わる切っ掛けになるかもしれませんね。



日比野庵ラノベ

ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件
妖印刻みし勇者よ、滅びゆく多元宇宙を救え
異世界の彼女が僕の心を覗き込む

日比野庵書籍

日本的価値観の構造    (でじたる書房)¥399.-
未来技術大国日本        (Puboo)無料
直き真心持ちて 道に違ふことなく(Puboo)無料

  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg