ワクチン外交をめぐる情報戦

今日はこの話題です。
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1.有効率が低い中国製ワクチン


4月11日、AP通信は、中国疾病対策予防センター(CCDC)の高福(ガオ・フー)主任が10日に行われた四川省成都での会見で、中国製の武漢ウイルスワクチンの有効率が比較的低いことを改善するため、異なる種類のワクチンの併用を検討していると明らかにしたと伝えました。

AP通信は中国のトップレベルの専門家が、公の場で中国製ワクチンの有効性の低さを示唆したのは初めてとしていますけれども、高福(ガオ・フー)主任は、その後、AP通信に対し、「特段に中国向けだけでなく、世界のワクチン」の有効率を意図した発言であったと釈明しました。AP通信は、どのワクチンが具体的に念頭にあったかのかと畳みかけたのですけれども、高福(ガオ・フー)主任は答えませんでした。

中国は4つの生産者から少なくとも5つの武漢ウイルスワクチンを開発しています。

その中で比較的知られているのが科興控股生物技術(シノヴァク・バイオテック)と国営の中国医薬集団(シノファーム)です。このうちシノファームは2種類のワクチンを開発しています。これらは従来型の不活化ワクチンです。

この他に、カンシノ・バイオロジクス(康希諾生物股分公司)が中国軍事医学研究院と提携して製造した遺伝子組み換えワクチン(アデノウイルスのDNAの一部を切り取りその間に、武漢ウイルスのスパイクタンパク遺伝子のRNAをDNAに置き換えたものを挟み込む)と、Anhui Zhifei Longcom Biopharmaceuticalが開発した、トキソイド系のタンパク質サブユニットワクチンです。

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2.従来型不活化ワクチンの信頼性


一般にワクチンの有効性は、被験者の一方にワクチン、もう一方にプラセボを接取、または非接取の二群をつくり、「ワクチン接種群で疾患を発症した被験者の数」と「プラセボ接種群で疾患を発症した被験者の数」を比較して、ワクチンの接種によって疾患になるリスクをどの程度減らせたかで算出します。

例えば、1000例にワクチン、1000例にプラセボを接種し、ワクチン接種群で100例が発症し、プラセボ接種群で200例が発症すると、有効性は50%(100/200=0.5)となります。

iPS細胞の山中伸弥教授のサイトには、ワクチンの有効性について纏められていて、それによると、昨年12月14日から今年3月13日までにファイザー社製、またはモデルナ社製のmRNAワクチンを接種した3950名について、毎週PCR検査を行った結果、1回接種により感染を80%、2回接種により90%抑制したと報告されているそうです。

また、世界的に有名なアメリカのメイヨークリニックでも、4万件以上のPCR検査の陽性率をmRNAワクチン接種者と非接種者で比較した結果、1回目接種後10日目以降で79%、2回目接種当日以降では80%、PCR陽性の発生率が低下したと伝えています。

更に、ファイザー社は、3月11日にイスラエルで得られたデータを公開し、2回目接種して7日目以降の人と、年齢や性別をマッチしたワクチン接種をしていない人と比較すると、無症候性の感染を94%、有症状の感染を97%以上抑制したとしています。

どの報告も2回接取で90%以上と報告されていることから、おおよそこの程度の有効率はあるものと思われます。

一方、中国製ワクチンの有効率はというと、科興控股生物技術(シノヴァク・バイオテック)がブラジルでの臨床試験で50.4%、中国医薬集団(シノファーム)で79.34%、カンシノ・バイオロジクス(康希諾生物股分公司)が接種28日後で65.28%と伝えられています。

シノヴァク・バイオテック製ワクチンの有効性については、国によってバラツキが結構あり、ブラジルでは50.4%ですけれども、トルコで83.5%、チリで54%と報告されています。

もっとも、従来型不活化ワクチンでは、細胞性免疫は獲得できず、液性免疫のみになるため、構造的に免疫が弱くなるのですけれども、ここまで有効性にバラツキがあると、ちょっと品質に問題があるのでは、と不安になります。

その一方、従来技術を使った不活化ワクチンですから、mRNAワクチンのように体内に"キメラ細胞"を作る訳ではありません。したがって安全性という意味では、mRNAワクチンよりも上ではないかと思います。

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3.ブラジルは二流のワクチンに甘んじている


中国は国内で大規模な集団接種を展開している他、世界中に中国製ワクチンを輸出しています。輸出量は3月末までで既に1億1500万回分に達したそうですけれども、"効き目の悪さ"も手伝ってか輸出先での評判は今一です。

アルゼンチンのサン・アンドレス大学が武漢ウイルスワクチンについて、3月3日から15日にかけて、全国の18歳以上を対象に実施した世論調査を実施しました。

その結果、国民が最も安全と感じているのはロシア製の「スプートニクV」で、「51%が安全性に肯定的、12%が安全性について否定的」な回答をしました。最下位はインド製の「コビシールド」で、「肯定的な回答をしたのは34%」にとどまっています。中国製の「シノファーム」は、その次に評価が低く、「肯定的な回答は38%」。逆に、否定的な回答の比率は「シノファーム」が23%と、全てのワクチンの中で最も高い結果となっています。

また、アメリカ製やイギリス製ワクチンを確保できないブラジルでは、価格が安く流通管理が比較的容易な中国のシノバック社製のワクチンを1月から接種しているのですけれども、現地のネットメディアでは「ブラジルは二流のワクチンに甘んじている」とする内容の記事が複数出回っていたそうで、アメリカのワシントン・ポスト紙は「ブラジルがすべてを賭けたこのワクチンは、製造元の国にとってさえ失望であった」とケチョンケチョンです。

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4.ワクチン外交をめぐる情報戦


中国製ワクチンに失望しているのブラジルの閣僚にも及んでいます。

4月27日、ブラジルのゲジス経済相は医療保険に関する閣僚会合で、録画されていることに気付かず、「中国人がウイルスを発明し、彼らのワクチンはアメリカ製よりも効果が低い……アメリカでは100年にわたり研究に投資してきた。ファイザー社製ワクチンは他よりも良い」と発言したことで騒ぎになっています。

ゲジス経済相は録画されていたことを知ると慌てて訂正。政府も火消しに躍起になっているそうですけれども、中国がへそを曲げれば、ワクチンやその原料の輸入が滞り、接種計画にさらなる遅れが出る可能性が指摘されています。

もう中国のワクチン外交に翻弄されまくっていますね。

そんな中、世界はワクチンめぐって激しい情報戦が行われているという指摘もあります。

欧州連合(EU)は4月28日に公表した報告書で、ロシアと中国が政府系メディアなどを通じ、武漢ウイルスの欧米製ワクチンやEUのワクチン戦略への信頼を損ねるための「偽情報」を発信していると指摘しました。

報告書は昨年12月からの動向を対象とし、欧米製ワクチンの副反応について事実をゆがめて扇動的に報じるなどした偽情報が、ソーシャルメディア上でさまざまな言語で拡散しているとしています。

ロシアに関しては、ワクチン絡みの偽情報を1月以降に100件以上確認。EUの欧州医薬品庁(EMA)を標的に、ロシア製ワクチン承認を「全力で遅らせようとしている」と批判する報道もあったほか、ロシア政府高官もEUへの「敵対的な発信」を行っているとしました。

また、中国は欧米のワクチン「囲い込み」などを非難しつつ、自国製ワクチンの入手しやすさを強調して、途上国やEU加盟を目指す西バルカン地域により適したワクチンだと主張しているそうです。

このように、安全なワクチンを大量に供給することの困難さが明らかになるにつれ、病原菌あるいは細菌兵器に対する備えは、国家安全保障のレベルで考えておくべきことなのではないかと思いますし、緊急事態宣言を有効に機能させるための法整備もちゃんと進めておかなければならないと思いますね。



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