

1.がっかりしています
5月5日、ニュージーランド議会は、中国によるウイグル自治区での人権侵害をめぐり「重大な懸念」を表明する動議を全会一致で可決しました。
これについて、与党労働党の副党首で外務報道官のブルック・ファン・ベルデン氏が、ウイグル自治区での人権侵害がジェノサイドにあたるかどうかを議会で議論し、国際法上の義務を果たすよう政府に要求していたのですけれども、政府は中国との貿易上の懸念から"ジェノサイド"という文言を使うことに難色を示し、結果、"ジェノサイド"の表記は見送られました。
これについてブルック・ファン・ベルデン氏は「がっかりしています。私は今でも大量虐殺が行われていると信じていますが、人権侵害についての議論が全く行われないよりは、議論ができることの方が重要です……民主主義国家として、最大の貿易相手国のひとつで大量虐殺が行われているのを黙って見ているわけにはいきません。これは人権に関わる問題です……わが国がどのような基準を定めるか、中国共産党によってわが国が欧米の同盟諸国の中で最も与し易い国として扱われるのかどうか、いまや世界が注目している」と述べ、「思ったままに発言すれば損失という脅威に直面するかもしれない。だが、そうしなければ、はるかに大きな脅威に直面することになる」と主張しました。
2.外国の干渉を受ける余地はない
案の定、このニュージーランド議会の決議に対し、ウェリントンの中国大使館は次のような声明を発表しました。
中国の厳粛な立場を全く無視し、新疆の真実と事実にもかかわらず、ニュージーランド議会は新疆関連の動議を可決し、人権侵害に関して中国を根拠なく非難しました。この動きは、中国の内政に大きく干渉し、国際法および国際関係を支配する基本的な規範に反している。中国側はこのような行為を非難し、断固として反対する。ウイグルのことに口を出すのは内政干渉だ、といつもの論理に「誤った行為は直ちに止めよ」と上から目線の声明です。
新疆ウイグル自治区関連の問題は、本質的には、暴力的なテロリズム、過激化、分離主義に対抗するためのものである。それらは中国の主権、領土保全、国家安全保障に関わるものである。数年前、新疆では何千件もの暴力的なテロ事件が発生し、何百人、何千人もの罪のない人々に苦しみを与えた。このような状況の中、中国政府はテロを断固として取り締まり、教育や職業訓練を通じて脱過激化を達成するための予防的なテロ対策を講じました。新疆ウイグル自治区は、国連の「暴力的過激主義を防止するための行動計画」を真摯に実行しており、これは国連の「世界テロ対策戦略」の原則と精神に合致している。
あらゆる民族の地元の人々の努力のおかげで、新疆では4年以上連続して一度もテロ攻撃が起きていない。この地域は現在、社会的安定と健全な発展の勢いを享受しており、人々は安全で幸せな生活を送っています。新疆ウイグル自治区のウイグル人を含むすべての住民は、生活権や発展権などの人権を完全に享受している。新疆のすべての少数民族の言語、伝統文化、習慣はよく保護され、継承されている。新疆におけるこれらの成果は、国際社会で広く認識されている。
新疆関連の問題は、純粋に中国の内政問題であり、外国の干渉を受ける余地はない。我々は、中国の主権、安全保障、発展の利益を守るとともに、新疆の発展、安定、民族の連帯を守ることに断固として取り組んでいる。新疆関連の問題を利用して中国に圧力をかけることは、中国とニュージーランドの相互信頼を損なう以外の何ものでもない。私たちは、ニュージーランド側が真実と事実を尊重し、誤った行為を直ちに止め、具体的な行動を通じて中国とニュージーランドの関係を維持することを求める。私たちは、ニュージーランド議会が、中国とニュージーランドの国と人との間の友好と協力を強化するために、その逆ではなく、より多くのことを行うことを望んでいる。
3.一貫した外交政策を明確に示す必要がある
こうした中国の戦狼外交にニュージーランドのアーダーン政権は揺らいでいます。
5月7日、ニュージーランドのマフタ外相はロイターのインタビューに「同意できる問題だけではなく、同意できない問題についても、伝えることができる、敬意を表した、一貫した予測可能な状況を確保することが重要だ。これは成熟しつつあるわれわれの関係の一端だ」とコメントしています。つまり、アーダーン政権は同意できない問題、すなわちウイグル問題は話し合おうと半ば腰砕けになっているように見えます。
実際、対中強硬の姿勢を強めるオーストラリアに対して、5月6日、中国の経済政策全般の立案を担う国家発展改革委員会はオーストラリアとの戦略経済対話の枠組みで行われる全ての活動を無期限停止すると発表しています。あるいはそれをみてニュージーランドはビビッているのかもしれません。
マフタ外相はマフタ氏は19日の講演で、香港問題や中国のサイバー攻撃などに関し「我々の価値観とNZの国益に基づき、決定は独立して行う」と独自に判断する意向を強調し、記者団に「ファイブ・アイズの権限が拡大することを良くは思っていない」とも語りました。
更に、マフタ外相は翌20日のラジオ番組でも「ファイブ・アイズは特定の目的のために作られた。中国に関して問題があるたびにファイブ・アイズを引き合いに出す必要はない」と述べました。
これについて、豪紙オーストラリアンは「ニュージーランド政府やビジネス界の多くは中国による豪州への貿易威圧を注視している……豪中関係がニュージーランドの中国との関係構築にも影響を与えている」と指摘しています。
また、マッセイ大学の防衛・安全保障研究所のアンナ・ポウルズ上級講師は「ニュージーランドとして一貫した外交政策を明確に示す必要がある」と曖昧な姿勢は混乱を招くと批判しています。
経済対話の無期限停止という嫌がらせを受けても揺らぎもしないオーストラリアとは大分差があります。
冒頭で取り上げた、ブルック・ファン・ベルデン外務報道官は「中国共産党によってわが国が欧米の同盟諸国の中で最も与し易い国として扱われるのかどうか、いまや世界が注目している」と述べていますけれども、果たしてニュージーランドが中国の戦狼外交に屈するのかどうか。日本としては、そんなことにならないようにサポートできるところはサポートすべきではないかと思いますね。
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